「WHY@DOLL One night only live~思い出のページを開いて~」について。 | …

i am so disapointed.

WHY@DOLLは2011年に札幌でガールズバンドとして結成されたが、その後、メンバーチェンジや音楽性の変化などがあり、2013年には青木千春と浦谷はるなの2人組ユニットとして活動拠点を東京に移す。2016年にタワーレコードのアイドル専門レーベル、T-Palette Recordsに移籍して最初のシングル「菫アイオライト」をたまたま聴いた私がすっかり気に入り、しばらくは音楽を聴いているだけだったのだが、興味本位でリリースイベントなるものに行ってみたところ、すべてがあまりにも良すぎて、それから約1年ぐらいライブやイベントによく足を運ぶようになる。しかし、いろいろあって行かなくなっているうちに2019年秋での活動終了が発表され、最後の最後にリリースイベントには2回だけ行ったのだが、ライブには行くことができなかった。その後も音楽は大好きでずっと聴いているのだが、ライブを見る機会はおそらくもう二度と無いのかもしれないな、という気分にはなっていた。

 

その一方で、これは一部のファンの方には直接そう話してもいたのだが、なんとなくまた会えるのではないかという根拠のない確信のようなものもあったのは事実である。それは、私の実家が北海道にあり、帰省する機会も定期的にあり、ローカルな活動などでマイルドに復帰したりはしないだろうか、とかそういったことをうっすらと考えていたのかもしれない。しかし、その後、ご存じの通りいわゆるコロナ禍が訪れて、WHY@DOLLが活動を終了してからは一度も実家に帰れていない。正直、いつ帰れるかの目途も立っていなければ、そういったこともありすべてがベーシックなレベルでは絶望的にしょうもなく、その上で日々の楽しみをみつけていかなければいけないな、というかそんな心境で生活をしていた。

 

様々な責任やその他いろいろ背負うはめになっているため、新型コロナウィルスの感染予防は万全にしておかなければならず、ライブやイベントに行くことはもちろん、不要不急の外出もなるべく避けている状態ではあるが、何かの思いつきで恐怖をいだきながら楽しみのために外出するようなこともあった。

 

そうこうしているうちに、WHY@DOLLが結成10周年を記念して東京でライブを行うという情報が入ってきた。その可能性はおそらく低いように感じられたが、もしかすると新型コロナウィルスについての状況はもっとましになっている可能性も無きにしもあらずだが、逆に酷くなりすぎてライブそのものが開催できなくなるかもしれない。そのような思いもあったのだが、とりあえず行ける方向でアクションを取ったのだが、どうやら決定的に行けなそうだというのが一度は確定し、これは配信で楽しむことにしようと気持ちを切り替えていた矢先、やはり行けるということになって、それからずっと楽しみにしていた。

 

とはいえ、様々な事情でライブが開催されないことになったり、開催はされるのだが私自身が行けない状況になることはこのご時世、可能性としてじゅうぶんにありえることだったので、そうなった場合の失望を最小限に抑えるために、あまり楽しみにはしないようにしていた。しかし、当日まであとどれぐらいかということは常に意識していたのだった。そして、いよいよ当日である。前の日の夜にインスタライブが行われていたらしく、録画で少しだけ見たのだが、またしても楽しみになりすぎてしまうと思い、それほどガッツリと観ることもしなかった。また、よくライブに行く前に曲を聴いて気分を高めるようなこともよくやりがちなのだが、今回はそれも一切しなかった。できるだけフラットな気持ちで行く方が良いのではないかという気が、なんとなくしていた。

 

電車を乗り換えて渋谷に着いたのだが、このような状況でも人出は多い。しかし、イメージしていた休日の渋谷の人でほどではない。WHY@DOLLは渋谷のGladというライブハウスで定期公演をよく行っていたが、ここはおそらく新型コロナウィルスの影響であろう、WHY@DOLLが活動を終了してから少しして無くなってしまった。それで、今回はVeats Shibuyaという会場らしいのだが、まったく覚えがない。Googleマップで調べてみると、センター街の奥の方、クアトロの方までは行かないぐらいとのこと。ちなみにWHY@DOLLのリーダー、ちはるんこと青木千春さんが生まれたのは1993年1月21日だが、その頃、私はクアトロの店頭で「ボディガード」のサントラをリピート再生しながらCDを売っていたはずである。その翌年の9月には、クラブクアトロでオアシスの初来日公演を見ている。

 

ドン・キホーテの少し向う側に、WHY@DOLLのファンと思われる人々が大勢いるように見えたのだが、やはりその通りであった。WHY@DOLLのこの日のライブは元々は1回だけの公演だったのだが、定員の3倍ぐらいの申し込みがあったらしく、落選祭りとなったため、追加公演が行われることになった。それが12時30分から行われていて、終わってからほどなくして、次の回の会場となっていた。ドン・キホーテといえば、かつてHMVがあった場所で、「渋谷系」のコーナーがあったことでも知られる。その目と鼻の先でWHY@DOLLの一日限りの復活ライブが行われるのもなんだか感慨深く感じられたのだった。

 

会場で順番が呼ばれるのを待っていると、様々な場所でお世話になったアイドルファンの先輩と再会することになり、近況を話したりしていたのだが、追加公演の様子についても聞くことができた。WHY@DOLLの2人は何も変わっていなく、一日限りの復活ライブといっても感傷的な雰囲気はまったくなく、ただただ楽しかったということであった。また、帰り際にガラス越しにお見送りのようなものもあったと聞いて、限られた状況の中でできるだけファンに楽しんでもらおうという姿勢は相変わらずなのだなと感じたりもした。

 

会場では感染対策がじゅうぶんに取られ、途中に換気の時間なども用意されていた。オールスタンディングだが、床に一人分のマス目のようなものがいくつも仕切られていて、その中で観覧するのに加え、もちろん声援などは禁止されていた。チケットが即ソールドアウトしただけあって、会場内には大勢のファンが集まっている。そして、WHY@DOLLの曲が流れている。プライベートではなく、このように大きなスピーカーから流れるのを聴くのは、本当に久しぶりだというような気がする。とはいえ、この期に及んでいまだにこれから本当にWHY@DOLLのライブがここで行われるという事実を正確に把握しかねてはいた。

 

そして、いよいよ開演が近づき、その前にVTRのようなものがモニターに映された。確かに現在のWHY@DOLLが映っている。音楽は活動を終了してからもずっと聴いていたのだが、メンバーのその後の動向についてそれほど真剣に追ったりはしていなかったので、知っていることはほとんどない。このVTRで浦谷はるなさんは普通に会社で仕事をしていること、青木千春さんは天然なキャラクターにつっこんでくれる人が一緒にいなくなったので、暴走してしまいがち、というようなことを言っていた。

 

その前に、活動終了時にはなんとなくまた会えるような気が根拠もなくしていたのだが、今回に関してはもしかするとこれが最後かもしれない、というかその可能性が高いのではないか、というような気がこれも根拠もなくなんとなくしていた。そういうつもりではいたのだった。

VTRの中でカウントダウンが行われ、ついに本当にWHY@DOLLのライブがはじまった。1曲目は「曖昧MOON」で、意外なようにも感じられたが、納得できるような気もしたのだった。そして、ステージ上には本当に青木千春さんと浦谷はるなさんがいて、あの頃と同じように歌い、踊っている。ブランクがまったく感じられない。最後に見た時からの時間がなんだかよく分からなくなってくる。

 

楽曲も良いし、歌もダンスもパフォーマンスのクオリティーがとても高いな、と改めて感じさせられる。これは初めて見た時から変わっていない。そして、ブランクがあるはずなのだが、まったく感じない。ついさっきも同じことを書いたばかりなのだが、本当にこれぐらいのペースでそう感じていた。

 

そして、MCの空気感である。ゆるふわトークなどとも言われていたような気もするが、ナチュラルでピースフルな感覚に溢れている。ライブのメインはあくまで楽曲やパフォーマンスなのだが、こういうところもかなり楽しかったのだということをはっきりと思い出した。WHY@DOLLが活動を終了してから約1年9ヶ月だが、私がリリースイベントではない、WHY@DOLLのちゃんとしたライブを見に来るのは、実は2018年の秋以来、約3年近くぶりだったりもするのであった。あの頃もそれなりにしんどかったり、絶望的だったりすることがいろいろあったのだが、ここに来ているとそれを忘れられるというか、その感覚だけで次までやっていけるというか、そんな感じだったような気もする。

 

「My.boyfriend」はミニアルバム「Hey!」収録曲で、私がライブで見るのは初めてなのだが、キャッチーでとても良い。「shu-shu-star」はアルバム「Gemini」収録の、都会的でとても良い曲。振りコピを意外にも覚えていたり、忘れている箇所があったりする。それにしても、オーディエンスに以前からこんなにも若者がいただろうかと思わされるようなところもあった。そして、「WHY@DOLL」から「マホウノカガミ」なのだが、この曲はGladの定期公演でよく聴いた覚えがある。わりと通好みの選曲だと思うのだが、こんなところにも本気を感じる。個人的にレコードの針が盤面をすべったような効果音のところの振りが好きなのだが、そこもちゃんと見られたので良かった。あと、「let's go」のところでタイミングよく腕を真上に振り上げる快感も完全に思い出した。

 

この後、MCを挟んで3曲ずつのブロックが続いていくというような構成である。それで、「Gemini」から「ベクトル」だが、このアルバムは私が「菫アイオライト」でWHY@DOLLを初めて聴いた少し後ぐらいに「ミュージック・マガジン」の年間ベスト・アルバムの何位かに選ばれていて、それで聴いてみたらとても良かった。特にこの「ベクトル」については片想いについて歌われた切なすぎる曲なのだが、当時はガッツリ感情移入しながら聴き込んでいた。いまはとても良い曲であることには変わりはないが、あの心をえぐるような感覚をすっかり忘れてしまったことが少し悲しい。そして、「clover」はとにかく大好きな曲で、歌詞もメロディーもアレンジも最高なのだが、イントロの振りコピでグーとパーを繰り返しているだけで幸せになれる感覚も完全に思い出したので、とても良かった。そして、「MAGIC MOTION NO.5」だが、この曲は本当に素晴らしい。かつてはリアルタイムでは知らなかったことに軽いコンプレックスのようなものを感じていたのだが、いまやすべてをクラシックスとして捉えられているので、その辺りの感覚はフラットになった。それで、やはりとても良い曲だし、振りコピが楽しい。そして、個人的なツボは「DQNハットトリック」というよく分からないフレーズを青木千春さんがあのキュートな声でちゃんと歌うところである。

 

MCはやはり最高で、それから今度はカッコよくて聴かせるタイプのセクションとなり、まずは「ラブ・ストーリーは週末に」である。ファンに好評のTETTO曲こと吉田哲人さん提供曲がなんとこのライブでは、ここに来て初めてである。サックスが鳴きまくるシティ・ポップ的な素晴らしい楽曲と、うっとりさせるようなパフォーマンスをまた体験することができて良かった。そして、「夜を泳いで」「Dreamin’ Night」と夜のイメージのバラードが続くのだが、この2曲は青木千春さんと浦谷はるなさんのそれぞれ推し曲だったはずである。そして、「ラブ・ストーリーは週末に」は私の推し曲なので、このセクションはとにかく最高ということになる。ダンサブルな曲もとても良いのだが、ここで歌われた曲は聴いていて心地よく、とても良い感じの気分が味わえる。この感じがもっとずっと続けばいいのに、と感じたりもした。

 

サプライズ的な出来事としては、予測していなかった新曲が聴けたことである。なんと浦谷はるなさん自身が作曲し、作詞は1番を浦谷はるなさん、2番を青木千春さんが書いたのだという。WHY@DOLLの活動終了以降、世界をコロナ禍が襲っているわけだが、そういった諸々をふまえた内容になっていて、音源は吉田哲人さんがつくったという。タイトルは「Don’t turn around again」といっただろうか。とても良い曲だと感じたのだが、浦谷はるなさんは歌詞を間違えたとかでとても悔しそうにしていた。

 

ここでのMCでだったかはよく覚えていないのだが、浦谷はるなさんはWHY@DOLLとして活動をしていた頃から信念があって、自分自身の存在や活動が誰かの心の支えのようなものになってほしいというようなことをいうのだが、ここで「心の...」と言葉に詰まった時、青木千春さんが「糧?」と正解を導き出していたところには驚きを感じていた。また、浦谷はるなさんが間違えて未来の日付を言ってしまった時に、青木千春さんが「時を戻そう」というどうやらお笑いコンビ、ぺこぱのギャグを言わせたそうだったのだが、ぺこぱのあのギャグが「M-1グランプリ2019」でハネて流行りはじめたのはWHY@DOLLが活動終了した少し後だったので、時の流れを感じさせないライブの中で、ここにははっきりとそれを感じさせられた。

 

あっという間にラストスパートで、「恋なのかな?」「Tokyo Dancing」「ケ・セラ・セラ」と楽しさしかない。指ハートなるヤングなガールズのカルチャーを私は「恋なのかな?」で初めて知った4年前の夏なのだが、札幌の特典会でチェキを撮る時にそのポーズをしようということになって、よく分からない私に対し、浦谷はるなさん直々のレクチャーをいただいたことはとても良い思い出である。他のファンの人達と肩を組んで「恋なのさ!」とやるのが一時的に流行ったのだが、現在はそれはできない。「Tokyo Dancing」は振りコピが分かりやすくてとても良く、とにかく自分の決められた枠の範囲内で踊りまくった。「ケ・セラ・セラ」はリリースイベントでしか聴いたことがなかったのだが、「Everything will be O.K.」というフレーズがいまはまた別の意味で響きまくるな、と強く感じた。

 

これでライブは終了なのだが、この後、アンコールがかかるが声出しが禁止されているので、手拍子のみとなる。そして、メンバーが再びステージに登場し、「Show Me Your Smile」である。この曲の歌詞にはアイドルグループとしてのWHY@DOLLや、いつかは終わってしまうかもしれないアイドルとファンとの関係性とのアナロジーなどがあり、当時はそこに緊張感のようなものもあったのだが、いまや活動終了ごときでは揺るぎようのない関係性のようなものが確信できた上での新たな輝きを獲得し、もっと末永い人生におけるよりスケールの大きな曲のように感じられたりもする。次はいよいよ「菫アイオライト」かと思いきや、「Hey!」収録の「It’s all right!!」でこの曲もライブでは初めてだったのだが、これも現在の状況で聴くと響きまくるポジティヴなメッセージが感じられる。

 

アンコールの時でのMCでは青木千春さんが運転免許証を取得したことや、それにまつわるなんともいえないエピソード、また、浦谷はるなさんが取得した資格についてなどが語られる。ライブがもうすぐ終わってしまうが、本当はまだ終わらせたくない、終わってほしくないという、演者とオーディエンスとの気持ちがまったく一緒という、とても良いヴァイブレーションが感じられた。

 

本当はアンコールあと1曲で終わりだったのだが、新曲の歌詞を間違えたことが悔しすぎたので、もう一度歌うことになった。先ほどのMCで青木千春さんが2番の歌詞は浦谷はるなさんやファンの人達のことを思って書いたということを言っていたので、それをふまえて聴くこともでき、結果的に2回歌われてとても良かったのではないかと思う。そして、本当に最後は個人的にこの曲でWHY@DOLLを知った「菫アイオライト」である。もっと聴きたい曲もあったが、これでもじゅうぶんに大満足である。こんなにも特別に好きな曲がたくさんあるアーティストもそれほどいないのではないか、WHY@DOLLの音楽が私は本当に好きだなと改めて感じさせられたし、それがライブともなるとさらに素晴らしいなということもはっきり思い出した。

 

約束はできないが、いつか機会があればまたやりたいというようなことを浦谷はるなさんは言っていたし、その言葉に偽りはおそらく無い。とはいえ、諸事情によりまたそれを見に行けるかどうか、実現できるのかどうかについては、まったく確信が持てない。だから、もうこれが本当に最後かもしれないという気持ちでは見ていたのだが、WHY@DOLLはやはり特別であり、活動をしていなかったとしてもいつでも心の中にいるのだということが確信できたのであった。

 

そして、ベーシックに絶望的でしょうもない現実がほとんどであったとしても、完全に肯定できるほど素晴らしいものというのは現実的に存在し、WHY@DOLLのライブを久しぶりに見ることによって、それを思い出すことができた。そして、できるだけ忘れないようにしようと思った。それが、浦谷はるなさんのいう「心の糧」というようなものなのだとすれば、それは間違いなくそうである。出会えた奇跡とかいうけれど、それは確かにそこにある。青木千春さんの歌詞にも、確かそんなフレーズがあったような気がする。帰り際にガラス越しのお見送りもあって、とても良かった。