10. Future Nostalgia/Dua Lipa
このアルバムについては、まずタイトルがとても良かった。デュア・リパの音楽は元々、大好きだったのだが、このアルバムはコンテンポラリーなダンス・ポップ・アルバムとしてほとんど完璧なのではないかと思ったのだが、一方でコロナ禍でなければもっといろいろなシチュエーションで聴かれたのかもしれない、と残念に感じるところもあった。とはいえ大ヒットであり、もしかするとコロナ禍だからこそ尊さが感じられたり、ベッドルームやヘッドフォンで聴くだけでもじゅうぶんに楽しめるアルバムでもあるな、と思ったりもした。DJミックス・アルバムの「クラブ・フューチャー・ノスタルジア」も最高、というか個人的にはそっちの方が好みだったりもする。
9. Rough And Rowdy Ways/Bob Dylan
ボブ・ディランといえばいわずと知れた超ベテランでカリスマ的なアーティストだが、60年代に社会問題を扱ったフォーク・ソングなどで有名になったといわれている。このアルバムに先がけて「最も卑劣な殺人(Murder Most Foul)」がシングルでリリースされたが、これがジョン・F・ケネディ暗殺をテーマにした17分にも及ぶ楽曲で、「ビルボード」のロック・デジタル・ソング・セールス・チャートで1位を記録したことが話題になった。この曲はただ歴史上の事件を取り扱ったのみならず、それ以外の様々な固有名詞なども用いることによって、アメリカ合衆国の理念や西洋文明そのものの凋落について歌われているようにも思えた。アルバム全体的にはフォーク、カントリー、ブルーズ、ロックといった様々な要素が入り混じり、ボーカルにはひじょうに深みが感じられる。大御所アーティストによる最新作ではあるが、ひじょうにトピカルでコンテンポラリーな作品として聴き入っているし、いまだに興味は尽きずにいる。
8. Punisher/Phoebe Bridgers
カリフォルニア州パサディナ出身のシンガー・ソングライターによる2作目のアルバム。悲しみや不安といった感覚や感情をヴィヴィッドに表現したソングライティングとボーカルによって、このアルバムはこの先もカルト・クラシック的な評価を受け続けるのではないか、という気がなんとなくしていたのだが、どうやら早くもメジャーに大絶賛されているようなムードもあるので良かった。
7. Eternal Atake/Lil Uzi Vert
アメリカのラッパー、リル・ウージー・ヴァートによる2作目のアルバム。何やらSFめいたジャケットの時点でなんとなく怪しくて、とても良い。シンセサイザーに使い方がユニークなサウンドにはヒップホップの枠を超えた不思議な魅力が感じられ、好きでよく聴いていたのだが、最近、ベッドルーム・ポップから派生したハイパーポップなるサブジャンルにカテゴライズされてもいるという記事を目にして、納得したりもしていたのだった。
6. Folklore/Taylor Swift
それまでは周到なプロモーションの末に新作をリリースしていたテイラー・スウィフトがこのアルバムではサプライズ的なリリース、しかも音楽性がそれまでとは違ったインディー・ロック的になっているということで大きな話題になった。しかも、ものすごく売れた。だけではなくて、大絶賛もされがちであった。コロナ禍でライブやフェスティバルへの出演がなくなったことによってつくられたアルバムだということだが、テイラー・スウィフトという優れたシンガー・ソングライターの新たな魅力を世に広く知らしめる結果となった。しかも、年末にはこの姉妹作的なアルバム「エヴァーモア」までリリースして、これもまた素晴らしいという充実ぶりであった。
5. Fetch The Bolt Cutters/Fiona Apple
「Pitchfork」が2010年のカニエ・ウェストのアルバム以来、新作に10点満点を付けたということでも話題になった、フィオナ・アップルの最新作である。ここ数年、女性シンガー・ソングライターが充実したアルバムをリリースし続けるという状況があるが、その決定盤とでもいうべきオリジナリティーとクオリティーが感じられた。特に動物の骨なども用いられたというパーカッシヴなところや、繊細でありながら堂々としたボーカルが印象的である。
4. STRAY SHEEP/米津玄師
2020年におそらく日本で最も売れたり聴かれたりした、国民的人気アーティストの最新アルバムである。すでに大ヒットしたシングルの再録やセルフカバーを含み、ここ数年の社会現象的ともいえる活動の集大成的な印象もあるが、新曲でもまた新境地に挑み、しかも圧倒的なクオリティーを実現している。日本のポップスやロック、さらには自身の出自でもあるボカロ以降の要素なども入ったハイブリッドなポップ・ミュージックなのだが、絶望をベースとしながらも希望の欠片を広いあつめているようなまなざしが、広く共感を得ている大きな要因のような気がしないでもない。
3. Passport & Garcon/Moment Joon
韓国出身、大阪在住のラッパー、Moment Joonの最新アルバムである。きわめて個人的な内容が、社会的な問題をあぶり出していくという現象が、優れた表現にはよく見られることだが、このアルバムもそのような作品である。ポップ・ミュージックが大好きで、これ以上のアートフォームはないのではないかと信じて疑わない私ではあるが、このアルバムにはポップ・ミュージックの枠を超えた衝撃を受けた。たとえば「差別」というような言葉が用いられた場合、単純化されることによってこぼれ落ちてしまう何ものかが確実にある。それは個人の様々な感情でもあるのだが、そのようなものがあくまで優れたポップ・ミュージックというフォーマットによって、ヴィヴィッドにユーモアも交えながら表現されている。リスペクトするECDについての言及や、かつて忌野清志郎によく似た人がやっていたTHE TIMERSというバンドがテレビの生放送で起こした事件を想起させるところなどもある。
2. RTJ4/Run The Jewels
キラー・マイクとエルPから成るヒップホップ・ユニット、ラン・ザ・ジュエルズはそもそもひじょうにユニークな存在ではあったのだが、4作目となるこのアルバムは最高傑作であると同時に、警官によるアフリカ系アメリカ人男性の殺害に端を発したBLM(Black Lives Matter)運動の盛り上がりという、タイムリー性もあった。この事件に触発されたわけではなく、その時にはもうすでに作られていたと思われるため、ずっと変わらずそこにある問題をテーマにしていたところ、あたかも予見していたかのような状況になったということであろう。ポップ・ミュージックの歴史はプロテスト・ソングの歴史をも含み、社会に問題があり、民主主義がまだ息の根を止めない間は、それはまだずっと続いていく。それの現時点における最終形態ともいえる素晴らしい作品。
1. ファルセット/RYUTist
新潟出身のアイドルグループ、RYUTistの最新アルバム。コロナ禍により、リリースが少し遅れた。アイドルグループにもいろいろなコンセプトや活動形態があるが、このグループには良質な楽曲やパフォーマンスを地道に追求してきた印象がひじょうに強い。その集大成ともいえるのが、このアルバムであろう。2020年、最も好きで聴いていたアルバム、というのが1位に選んだ単純な理由だが、青春のなにげなくて忘れてしまいそうな、それでも大切な一瞬を良質な短篇小説のような手法で表現した「ナイスポーズ」に思わず涙腺がゆるんだ、という経験も強く影響していると思われる。例年と比べ、様々な理由によって音楽を聴いている時間がひじょうに多かった2020年で、好きなアルバムもその分だけたくさんあっただけなのか、実際に優れた作品がたくさんリリースされていたのか、それはよく分からないのだが、個人的には納得で渾身のランキングであり、これ以外にはあり得ないのだった。