石田想太朗「Shibuya Sessions -文化-」について。 | …

i am so disapointed.

いわゆる普通の会社員である私がだらだらと適当に書いているこの弱小ブログに対し、先日、とある若き音楽家からメッセージが届いた。なんでも仲間たちと音楽活動を行っていて、近々、最新作をリリースするということである。自信作であるため、できるだけたくさんの人たちに聴いてもらいたいのだが、なかなかその機会もないということで、メッセージを送ってくれたようである。

 

これはとてもうれしいことなのだが、とはいえだらだらと適当に書いている弱小ブログに過ぎないため、ほとんど力にはなれないだろうと思った。しかし、せっかくこのようなメッセージをいただいたのだからということで、その時点でもすでにリリースされていた作品をApple Musicで聴いてみた。いや、これはなかなか良いのではないだろうか。普通にそれから数日後にリリースされるという、最新作が楽しみになった。

 

ちなみにその若き音楽家の名前は石田想太朗、自ら作詞・作曲・編曲を行い、現在はShibuya Sessionsという音楽集団を結成して、2001年度生まれのメンバーだけで音楽を制作しているのだという。つまり、現時点において大学1年で、10代ということだろうか。そんな若者たちのやっている音楽が、果たして私に理解できるのかとは思ったのだが、聴いてみたところ普通に良かった。というか、そのほとばしる情熱のようなものに、爽やかな気分にさせられたりもした。

 

私の仕事場にも少し前までの現場でいえば20歳前後の若者たちがいて、K-POPだとかアニメだとかの話をキャッキャ言いながらしていたわけだが、今年の大学1年生というのは新型コロナウィルスの影響で入学はしたものの授業はリモートで、キャンパスにはあまり行っていないし友達もいないというような、いかんともしがたい状況にあるようである。

 

そして、若き音楽家こと石田想太朗が在籍している大学というのが私の母校らしく、とはいえかなりの大昔であるため、いまや小田急線本厚木駅から神奈川中央バスで約20分以上の厚木キャンパスに通う必要もないのか、とか、地下の学食にはもうサービスランチやスパゲティーメイトはどうやら無いらしいとか、隔世の感だけはある、それでも、渋谷駅から向かう途中に青山ケンネルだとか山田帽子店だとかはまだあるのだが、志賀昆虫はもう無いのだな、などと思ったりはする(知らんがな)。

 

そういう昔話はまあ良いとして、「迎春」「酷暑」に続いてリリースされた最新作のタイトルは、「文化」である。「文化」「青が、翔る」「浪漫少女」の3曲が収録されている。前作まではいろいろなメンバーがボーカルを取っていてバラエティーにとんでいたのだが、今作では3曲すべてを佐藤愛香が歌っている。最初の作品「迎春」は1トラック目の「Opening」がいろいろなタイプの曲の一部分が次々とスイッチされていくというもので、デキシー・ミッドナイト・ランナーズのデビュー・アルバム「若き魂の反逆児を求めて」オープニングを思わせるようなところもあるのだが、その次の「迎春」をやはり佐藤愛香が歌っている。ジャジーな曲調によく知らないのだが、東京事変あたりの影響を受けているのかな、と思わされたりもする。

 

実際に7トラック入りのアルバムはひじょうにバラエティーにとんでいて、ボーカルもいろいろな人が歌っている。ヒップホップっぽい曲のメインテーマが温泉の素晴らしさであったり、ハワイアン風味のクリスマスソングがあったりと、アイデアに溢れていてとても楽しい。次のEP「酷暑」は6曲入りのEPで、タイトル通り夏をテーマにしているが、ボーカルは水野邑玲がとっている。これもまたバラエティーにとんではいるのだが、ボーカリストが固定されていることで、より統一感があるように思える。

 

そして、今作の1曲目はタイトルトラックの「文化」だが、いわゆるボカロ以降的ないまどきの日本のポップスと地続きでありながら、クラムボンだとかそこら辺りを思わせるようなところもあるな、などと感じていると打ち込みのリズムが入り、ベッドルーム・ポップ的にも展開していく。都会の孤独、そして、コロナ禍をふまえてもいるような歌詞を歌うボーカルがまた、とても魅力的である。

 

この曲にはミュージックビデオもあって、電車の座席で繰り広げられる情景のようなものが寸劇的に描かれてもいるのだが、全員がマスクをしているところや、すれぞれが別々のことをしている、隣の人が居眠りしてもたれかかってくるのに対してブチ切れる、などといったマイルドなリアリティーが絶妙なユーモアを混ぜて表現されている。とはいえ、サブカル的な皮肉や風刺に振れているわけではなく、あくまで日常スケッチの戯画化というようなテイストであるところが、個人的には好みである。

 

佐藤愛香は正当的に上手いボーカリストでもあるのだが、にもかかわらずどこか引っかかるところもあり、それがとてもおもしろいと思う。Twitterのプロフィールによると、TBS「Sing!Sing!Sing!」世紀の歌声!生バトル~日本一の歌王決定戦!ジュニア部門で準グランプリに輝いたようである。高校生の頃に撮影されたと思われる、Little Glee Monsterの曲を一人で多重録音している動画や、最近のMISIA「つつみ込むように・・・」をカバーしたものなども良かった。

 

実際にはかなりディーヴァ的な歌い方もできるのだが、曲に合わせてあおの辺りは抑え、表現力をより重視しているのだな、というように「文化」では思ったのだが、次に収録された「青が、翔る」ではその辺りが解禁されているようで、ボーカリストとしての魅力を存分に感じることができる。技術はあるのだが、それが嫌みにならないというか、爽やかささえ感じさせる。そして、この曲は、「青山祭2020」のテーマソングに応募したものだという。「青山祭」とは青山学院大学の大学祭のようなもので、今年はやはり新型コロナウィルスの影響でリモートで行われたらしい。歌唱や演奏、ソングライティングには高いレベルにあるように思えるのだが、それでもしっかりちゃんと青春しているところが素晴らしいと思う。

 

とはいえ、在学中にこのような眩しすぎる青春のようなものをまったく生きてはいなかった私は、「青学祭」に参加したことが一度も無かった。

 

それはまあ良いのだが、最後に収録された「浪漫少女」もまた良い。タイトルからして素晴らしいのだが、内容もその期待にしっかり応えるものである。とはいえ、サブカル的なヒネた感じではなく、インディー・ポップ的な部分はあるものの、あくまで真っすぐで王道的な青春ポップス、未来への希望や期待がしっかり歌われた正しい青春ポップスであった。ボーカルに上手さの中にユーモアもあり、ここが愛嬌にもつながっているように思えるのだが、個人的には「思考停止してまた話が続かないの」のところがかなり好みである。

 

というわけで、ふとしたきっかけから聴く機会に出会うことができた若者たちによるポップ・ミュージックだが、音楽をやることの原初的な楽しさに溢れていながら作品もとても良くて、爽やかな気分にさせられたのであった。今後も新しい作品ができたら、ぜひ聴いていきたいと思う。