ミーガン・ジー・スタリオン「グッド・ニュース」について。 | …

i am so disapointed.

ミーガン・ジー・スタリオンのデビュー・アルバム「グッド・ニュース」が先週の金曜日にリリースされたのだが、とても良くてずっと聴いている。ジャンルとしてはヒップホップなのだが、いまどきのメインストリームであり、旬のアーティストの良いところがギッシリ詰まっているという感じで、これもまた2020年を代表する素晴らしいポップ・アルバムの一つであることは間違いない。そして、おそらく次に発表される全米アルバム・チャートでは初登場1位なのではないだろうか。

 

この「グッド・ニュース」というタイトルそのものは、アメリカ大統領選の素晴らしい結果を受けて、実にタイムリーなようにも思える。このアルバムに収録された曲の数々はそれぞれプロデューサーが異なっていたり、ゲストのアーティストがいろいろ参加していたりするため、アルバム全体がとてもバラエティーにとんでいる。しかし、あくまで主役は一貫してミーガン・ジー・スタリオンであるというところがまた、ひじょうに良い。

 

テキサス州ヒューストン出身のミーガン・ジー・スタリオンは1995年生まれの25歳で、これがデビュー・アルバムではあるが、これまでにEPやミックステープなどはいろいろとリリースしていた。今年、デビュー・アルバムにするつもりだったが、結局はEPとしてリリースされた「シュガ」から「サヴェージ」がTikTokをきっかけとしてバイラルヒットとなった。ビヨンセをフィーチャーしたリミックス・バージョンがリリースされ、これがミーガン・ジー・スタリオンにとって、初めての全米NO.1ヒットになった。このバージョンは今回のデビュー・アルバムにも収録されているのだが、良い曲がたくさん収録されているため、けしてアルバムがこのヒット曲に依存しているわけではなく、わりと後半になって出てくるとひじょうに盛り上がるという、理想的な感じになっている。

 

ここ20年ぐらいで最も重要な音楽アーティストは一体、誰なのだろうかという問いには様々な答えがあるとは思うのだが、個人的にはビヨンセなのではないかと思っている。それは、世にはびこるセクシズムやレイシズムなどに対する異議申し立てをメインストリームのポップ・アーティストという立場から、クオリティーの高い作品やパフォーマンスを通して行ったことによってであり、その影響は今日のポップ・シーンに強く及んでいるように思える。

 

ミーガン・ジー・スタリオンの必然性というのもその延長線上にあるように思えるのだが、そのブレイクした楽曲にビヨンセがフィーチャーされているというのも、またとても良いと思うのである。

 

そして、ミーガン・ジー・スタリオンの今年のまた別のトピックといえば、カーディ・Bとの「WAP」が挙げられるだろう。この曲はカーディ・Bの次のアルバムに収録されると思われ、今回、ミーガン・ジー・スタリオンのアルバムには収録されていない。タイトルの「WAP」は「Wet Ass Pussy」の略で、それがあらわしているように、セックスをテーマにした曲になっている。中毒性の高いトラックにのせて、セックスの楽しみについてポジティヴにラップされたこの曲は、アメリカやイギリスのシングル・チャートで1位になり、今年の夏を代表するポップ・ソングとなった。しかし、この曲に対して不快感を示し、不愉快になる人達も現れたのだった。それは、女性が性のことを主体的かつポジティブに語ることに対してであり、結果的に性差別を温存したくて仕方がない人々の存在をあぶりだすことになった。

 

ミーガンジー・スタリオンのデビュー・アルバム「グッド・ニュース」に「WAP」は収録されていないのだが、この曲が発するセルフ・エンパワメントとしてのポジティブなセクシュアリティーは、大きなテーマの一つとなっている。アルバムのリリースと同時にシングル・カットされた「ボディー」にも、それは現れているように思える。

 

アルバムの1曲目に収録された「ショッツ・ファイアード」は、ノトーリアス・B.I.G.の1995年の曲、「フー・ショット・ヤ?」をサンプリングしている。この曲は、今年の7月にミーガン・ジー・スタリオンを銃撃したと告発されたが、それを否定する内容のアルバムをリリースしたラッパー、トリー・レーンズを痛烈に批判したものである。

 

ビヨンセの他にダベイビー、SZA、ビッグ・ショーン&2チェインズ、ポップカーン、ヤング・サグなど、ゲストもひじょうに豪華であり、それぞれの個性が生かされていながらも、あくまでもミーガン・ジー・スタリオンのアルバムになっている。

 

まさにこれこそがいま現在のポップスとでもいうべき感覚に溢れた、素晴らしいアルバムだと思うのである。