V.A.「クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター」について。 | …

i am so disappointed.

年末が近づくと様々なタイプのクリスマス・アルバムがリリースされ、なかなか楽しいものである。それらの中でもスタンダード的に有名なのが、フィル・スペクターのクリスマス・アルバムであろう。正式には、「ア・クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター」である。フィル・スペクターは音楽プロデューサーであり、ひじょうに特徴的なサウンドづくりをすることで知られていた。

 

楽器の音などを何重にも重ねることによって臨場感を出すその手法は、まるで音の壁のようだったことから「ウォール・オブ・サウンド」などと呼ばれていたようだ。また、フィル・スペクターの名前を取って、スペクター・サウンドとまったく何のひねりも無く呼ばれることもあった。ザ・ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」、ザ・クリスタルズ「ヒーズ・ア・レベル」といったガール・ポップや、ライチャス・ブラザーズの「ふられた気持ち」「アンチェインド・メロディ」、ビートルズ「レット・イット・ビー」やジョン・レノン、ジョージ・ハリスンのソロ作品などで特に知られる。

 

このクリスマス・アルバムがリリースされたのはザ・ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」がヒットした1963年の年末近く、具体的には11月22日であった。ちょうどその日に、遊説中のジョン・F・ケネディ大統領が暗殺されるという悲しい事件がアメリカを襲った。そのような状況でクリスマス・アルバムを売るのはどうなのだろうかというような懸念もあり、発売されたばかりのアルバムは市場から引き上げられたのだという。

 

しかし、スタンダードなクリスマス・アルバムを当時、革新的でありながらメインストリームでもヒットしていた「ウォール・オブ・サウンド」でやってしまったというこのアルバムのクオリティーは高く、時間をかけて評価を高めていくことになったようである。

 

1972年にはビートルズのアップルから再発され、最初にリリースされた時よりも売れたという。この時にはジャケットも差し替えられ、サンタクロースのコスプレをしたフィル・スペクターの写真が使われていた。「バック・トゥ・モノ」と印刷された缶バッジのようなものを付けていたのだが、これは1991年にCDのボックス・セット「バック・トゥ・モノ(1958-1969)」がリリースされた時、復刻されたものがおまけに付いていた。

 

このボックス・セットを私は確か渋谷の東急ハンズのすぐそばのビルにあった頃のレコファンで買ったと記憶しているのだが、この缶バッジをよくジャケットに付けたりして出かけていた。しかし、いつの間にかどこかに行ってしまった。

 

それはそうとして、「ビー・マイ・ベイビー」は日本でも何かのテレビCMに使われていて、オールディーズの曲としてなんとなく認識していた。フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」は日本では大滝詠一なども影響を受けている、などといわれていた。それで、適当なベスト・アルバムのレコードを買うなどを経て、ボックス・セット「バック・トゥ・モノ(1968-1969)」を買うに至った。このボックス・セットにはフィル・スペクターがプロデュースしたいろいろなアーティストの代表曲を収めたCD3枚に加え、「クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター」も入っていた。

 

「クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター」は「レコード・コレクターズ」か何かでとにかくポップ・ミュージック史上でひじょうに重要なアルバムである、というような評価がされていた記憶があり、それですでにこれだけ買って持っていた。よって、ボックス・セットを買ったことにより、完全にダブった。それで、レコファンに売ったような気もするのだが、よく覚えていない。

 

とても有名で馴染みがあったり、実はそれほどでもなかったりする様々なクリスマス・ソングを、「ウォール・オブ・サウンド」をバックにザ・ロネッツ、ザ・クリスタルズ、ダーレン・ラヴなどをはじめとしたアーティストたちが歌っている。オーセンティックでエバーグリーンでありながら、懐かしくて新しい的な魅力もバリバリにある。それで、よく聴いていたのであった。

 

フィル・スペクターは1980年にラモーンズのアルバムをプロデュースしてから、表舞台からは退いたように見えたが、この間に再評価が広がっていったような印象もある。2000年代に入り、コールドプレイのフォロワー的でもあるイギリスのバンド、スターセイラーをプロデュースするのだが、その少し後で、女優の殺人事件に関与した疑いで逮捕された。それ以前にも、ジョン・レノンとのレコーディング中に銃で脅したことがあるなど、狂気じみていると取られなくもないエピソードがあったりもしたが、それも天才プロデューサーの個性をあらわすものとして扱われていたようなところがあった。

 

などといろいろあるのだが、「クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター」がポップ・ミュージック史に残る素晴らしいクリスマス・アルバムであることには変わりはなく、やはり今年もまた聴けば気分が盛り上がるのであった。