ブルース・スプリングスティーン「レター・トゥ・ユー」について。 | …

i am so disapointed.

ブルース・スプリングスティーンの最新アルバム「レター・トゥ・ユー」がリリースされた。昨年の「ウェスタン・スターズ」はシンガー・ソングライター的な美しいアルバムで素晴らしかったのだが、このアルバムを聴くと、やはりブルース・スプリングスティーンの真骨頂はEストリート・バンドをバックにした時のロックンロールだな、と思ってしまう。

 

このアルバムは昨年の11月、ニュージャージーにあるブルース・スプリングスティーンのホームスタジオに集まったEストリート・バンドのメンバーと共にレコーディングされ、5日間の予定が4日間で完成してしまったらしい。オーバーダビング無しの一発録りだという。それにしても、レコーディング当時、ブルース・スプリングスティーンはすでに70歳である。

 

1曲目の「ワン・ミニット・ユーアー・ヒア」は滋味にとんだ味わい深いボーカルが特徴的であり、このようなタイプのアルバムなのかと思ったのだが、2曲目のタイトルトラック「レター・トゥ・ユー」の時点で、ブルース・スプリングスティーン節とでもいうべき、魂とハートがこもったロックンロールで、こりゃ良いやと思ったのであった。この曲においてブルース・スプリングスティーンは長年の人生経験の中で知り得たことをインクと血によってしたためるのだ、というようなことを歌っている。この手紙というのは、われわれに宛てたこの作品そのものの意味でもあるのだろう。

 

ブルース・スプリングスティーンが高校生の頃にザ・キャスティルズというバンドで一緒にやっていたメンバー達は、一人残らず亡くなってしまったという。「ゴースツ」のビデオには、当時の写真も出てくるし、「ラスト・マン・スタンディング」という曲のタイトルには、そのような意味が込められているのかもしれない。

 

アルバムの最後に収録された「アイル・シー・ユー・イン・マイ・ドリーム」では、われわれはまたふたたび会って、生きて、笑うことができる、死ぬことが終わりというわけではない、というようなことが歌われているので、そのメッセージは明白である。

 

中学生の頃、ラジオでブルース・スプリングスティーンの「ハングリー・ハート」を聴いた。ポップでキャッチーな曲なのだが、ボーカルは力強い。タイトルもカッコいいと思った。それから、夢中になった佐野元春が強く影響を受けたアーティストだともいわれていて、さらに興味を持ったのであった。人気絶頂の頃に4トラックのカセット・レコーダーで録音したというアコースティックなアルバム「ネブラスカ」がリリースされて、その魅力が当時はよく分からなかったのだが、アメリカの不況や失業問題がテーマになっているということであった。憧れているアメリカだが、いろいろ大変なこともあるのだろうな、と感じた。日本はバブル景気よりも前で、これから未来はどんどん良くなるものだと信じ込まれていた。

 

実家で家族と一緒に暮らしていた最後の年に「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」が大ヒットして、これは買ったし大いに聴きまくった。シンセサウンドが全盛の時代に、ストレートなロックンロールがむしろ新しく感じられた。とはいえ、先行シングルの「ダンシング・イン・ザ・ダーク」ではシンセサイザーが効果的に導入されたり、ダンス・ミックスの12インチ・シングルが出たりしている感じも好ましく思っていた。

 

1975年の名盤は「明日なき暴走」で、ロックンロールの未来などといわれていたことも知り、昔のレコードを集めはじめた。初期の佐野元春や尾崎豊、そして、大好きだった小山卓治などがどれだけ影響されていたかを思い知らされた。

 

その頃の私はなんとなく自分は25歳ぐらいまでには死ぬのではないかと思っていたのだが、結局、いまも生きている。そして、相変わらずブルース・スプリングスティーンを聴いている。いや、ずっと聴いていたわけではなくて、一時期、まったく聴かなくなった時期もあった。

 

人はやがて死ぬものである。この当たり前の真実を、おそらく当時よりもリアルに感じている。そのようなことを必然的にテーマにしたとしても、ブルース・スプリングスティーンの音楽には希望のようなものが宿っているように思える。

 

このアルバムに収録された全12曲のうち3曲は、ブルース・スプリングスティーンがまだ有名ではなかった20代の頃に書かれたものだという。それを70歳(これはレコーディング当時のことであり、現在は誕生日が一度来て71歳である)の成功したベテランロッカーとして歌っているというのも、また味わい深いものである。