10. 菫アイオライト/WHY@DOLL (2016)
ディスコ・ファンク的なアイドルポップスの中でもかなりカッコいい曲。それでいて、ボーカルはたまらなくキュートである。そのバランスが絶妙である。歌詞も曲調も前向きなのだが、少しメロウになる箇所もあり、そこがまたとても良い。初めて聴いた時にすぐ好きになったのだが、それから繰り返し聴いても、やはり素晴らしいなと何度でも思う。
9. 青春Night/モーニング娘。’19 (2019)
メンバーの加入、卒業と共に常にアップデートを繰り返す老舗アイドルグループの、これは比較的、最近のシングルである。「私の人生 エンジョイ!!」というメッセージは明快であると同時に、いま必要とされているともいえる。ディスコ・ファンク的な楽曲、ラップの導入、各々のボーカルの個性が生かされた歌割りなど、ポップソングとしての魅力に溢れていて、ライブのセットリストにおいてもすでに重要な曲になっている。
8. 夜に駆ける/YOASOBI (2019)
初公開から現時点で約10ヶ月半になるが、日本のストリーミングチャートの上位にランクインし続けている。コロナ禍の日本で最も聴かれたポップソングの一つだということができるだろう。投稿サイトの小説を原作とする楽曲であり、いわゆる「ボカロ以降」と呼ばれる音楽性が特徴である。そのサウンドはスマートフォンでのリスニングに適しているように思えたり、ベッドルームポップとの同時代性が感じられたりもするのだが、いまの時代を象徴する大衆音楽としての強度を確実に備えている。
7. Paper Planes/M.I.A. (2007)
ポップ・ミュージックが果たす役割の一つとして、いろいろな意味での多様性の肯定があると思うのだが、音楽面においても、従来のロックやソウルやヒップホップといった枠組みによって簡単に規定することができない、より自由度の高い、それでいて明確なビジョンを持った作品が増えていて、受容されやすくもなっているように思える。このこと自体が政治的な意味合いを持つのであり、それはとても好ましいことである。この曲ではザ・クラッシュの楽曲、レジスターの音や銃声などが効果的に用いられ、音楽的にひじょうに魅力的でありながら、外国人や移民に対するアメリカの姿勢に異議申し立てを行ったものでもある。
6. 感電/米津玄師 (2020)
「ボカロ以降」というかボカロP出身で、いまや日本で最も売れていて、評価もされているポップ・アーティストである。メインストリームのど真ん中にいながら、その視点はアウトサイダー的でもある。基本的には絶望しているが、それでも光を求めて生きていかざるをえない、とでもいうような気分にじつにハマっているように思える。「正論と暴論の分類さえ出来やしない街を 抜け出して互いに笑い合う 目指すのはメロウなエンディング」とか、もうキレッキレである。「困っちゃったワンワンワン」「迷い込んだニャンニャンニャン」といったフレーズの後に、ちゃんと犬や猫の鳴き声を入れているところもとても良い。
5. 春にゆびきり/RYUTist (2020)
歴代で好きな曲といいながら、今年初めて聴いた曲を選びすぎているという自覚は明らかにあるし、このシリーズの冒頭でもそれについてはやんわりと断りを入れている。「思い出アップデートしすぎちゃう?」と。しかし、まあこれが本当に現時点でリアルに好きな順番である。昨年にも似たようなことをやっていて、今回、それをまったく見ずに選んでランク付けしていったのだが、かなり変わっているところもあれば、変わっていないところもある。そして、今年になってから初めて聴いた曲が多く、しかもわりと上位に入っている。それだけ今年になってからリリースされた音楽に良いと思えるものが多いともいえるし、やはり今年は特別すぎるので、音楽の聴き方も少し変わってしまったのかもしれない、と思えるようなところもある。
新潟を拠点に活動するアイドルグループ、RYUTistの最新アルバム「ファルセット」は特に印象に残ったリリースで、収録曲のほとんどが大好きである上に、曲順も絶妙である。この曲も好きだったのだが、けして1番ではなかった。しかし、今回、歴代で好きな曲を選び、順位を付けるとなった時に、ぐんぐん順位を上げていって、結果的に5位にランクインしたのであった。
この曲はコロナ禍以前に出来ていたのだということだが、まるで今年のいままでとは違い、誰も予想をしていなかった春について歌っているようである。ミュージックビデオは実際にRYUTistがライブを行う予定だったが、新型コロナウィルス感染拡大を防止するため、中止になった会場で撮影されている。
4. 朝になれ/加納エミリ (2020)
今回、このランキングが完成した時点で、この曲はまだフルで聴くことができなかった。それで、ランキングにも入れていなかったのだが、途中でフル配信され、聴いてみたところこれを入れないわけにはいかないということになり、途中で1曲を外し、これをどこに入れるべきかと、職場の休憩室で早朝に台湾まぜそばを食べながら、眉間にしわを寄せて熟考したのであった。
エレポップからの影響を受けた音楽をやっていて、「NEOエレポップガール」というキャッチフレーズもあったとは思うのだが、初めて聴いた時、そのフレッシュさに驚かされた。その作品で参照されているようなポップスがリアルタイムで流行っていた頃を、私は知っているにもかかわらず、これはオマージュとかそういう観点とかよりは、まったく新しい感覚で再解釈されたものと捉えることができ、これはかなり良いのではないかと思ったのであった。作詞・作曲だけではなく、トラックも自分自身でつくっているということは、その後に知った。
それからいろいろあって、久しぶりにリリースされたのがこの新曲なのだが、今度はブラック・コンテンポラリーのようなものが参照されていて、しかもとても良い。何が良いかというと、まず音である。そして、ボーカルについて、クールでありながら適度にウェットでもある、などとよく分かったような分かっていないようなことをよく言っていたのだが、それがますます良い感じになっている。
歌詞のシチュエーションとしては、恋が終わった後の虚脱状態というか、ダメになっている感じなのだが、これはたとえば仕事だとか勉強だとか他のことでもいいのだが、なにかとても熱心に打ち込んでいたことが、結果的にダメなことになった後、訪れる状態という点で、身に覚えが無きにしもあらずという人はわりと多いのではないだろうか。
そして、フランス映画のビデオを借りて、観終わっては巻き戻している。つまり、ビデオカセットなわけである。lyrical schoolの昨年のアルバムもレンタルビデオショップだったな、と思い出したりもした。
それで、「M-1グランプリ2005」で、当時、全国区では無名に近かったブラックマヨネーズが初登場して優勝した時に、大会委員長の島田紳助は「(制限時間の)4分間の使い方に感動した」というようなことを言っていたのだが、この曲も約3分35秒間の使い方が最高に良くて、とても内容が濃い。ブリッジのところとか同じメロディーで歌い方が変わるところとか、ポップミュージックとしてのおいしい仕掛けのようなものがベーシックにちゃんと入っていて、しかもとても良い。
あと、こういった虚脱状態的なものにいまは浸っているけれども、もちろんこのままではいられないことも分かっているし、しかし、それにはもう少し時間が必要なのかもしれないとか、そのような想いが「朝になれ」というタイトルでありフレーズにも繋がっているのではないかと思うのだが、これがコロナ禍の現状をあらわしているようにも聴こえてしまうところが、またすごい。
3. Alright/Kendrick Lamar (2015)
問題は山積みであり、しかもひじょうにこんがらがっている。現実逃避をするわけにはいかないし、それ以前にそれを避けて生きることができない。それでも、大丈夫だと確信することはとても大切であろう。この曲はアルバムに収録された1曲であり、シングル・カットもされたのだが、それほど大きなヒットには至っていなかった。それが、BLM(ブラック・ライヴズ・マター)運動の抗議行動でチャントされたことによって、アンセムとして認知されるようになった。
2. Fight The Power/Public Enemy (1989)
先日、2020年アップデート版もリリースされたが、オリジナルは1989年にスパイク・リー監督の映画「ドゥ・ザ・ライト・シング」の主題歌としてリリースされた。翌年のアルバム「フィアー・オブ・ア・ブラック・プラネット」に収録されたのは、また別のバージョンである。「ドゥ・ザ・ライト・シング」が日本で公開されたのは、こちらのバージョンがリリースされた後だったのだが。いずれにしても、30年以上前の曲である。しかし、この曲で訴えられている反レイシズムのメッセージは現在もまだ有効である。それだけではなく、これは権力と戦えというメッセージソングでもあり、それをより広義で捉えることもできる。レイシズムだけではなく、ファシズムの台頭を許さないためにも、われわれはいまもなお、この曲を必要とし続けている。
1. ラブ・ストーリーは週末に/WHY@DOLL (2017)
シティ・ポップやAORといった都会的なポップ・ミュージックが1980年の日本では流行していたのだが、それは当時の経済成長がもたらしていたムードとも関係していたように思える。それらのリバイバルが貧困化しつつある日本でも起っていたが、それを取り入れたアイドルポップスというのもわりと多かった。それは、これらの音楽が流行していた時に青春を送っていた、中高年の「楽曲派」アイドルファンに刺さったたようなところもある。とはいえ、それはノスタルジーとか回春効果に過ぎないようにも思える。が、もちろん趣味なのでまったくそれで構わない。
ところが、この曲は少なくとも私にとっては常軌を逸しているため、それらの文脈とはまた違った意味で、ユニットが活動を終了した現在も、ずっと聴いている。作曲・編曲者、吉田哲人氏は様々なポップ・ミュージックに通じた奇才なので、シティ・ポップ/AORを下敷きにしたアイドルポップスなどお手のものだったのではないかとも思うのだが、これらの音楽を象徴する楽器といえばサックスであり、サックスは最高というかサックスが最高、であるため、とにかくこういう曲でここまで必要なのかというほどに吹かれまくっているところがとても良い。トゥーマッチで最高である。初めて聴いた時に、まず笑ってしまった。
それから、トレンディードラマとかJ-WAVEとかそれらのノスタルジーを世代的には覚えてしまうのだが、この曲を歌っていて、歌詞を書いてもいるWHY@DOLLのメンバー、青木千春、浦谷はるなはそんな時代には生まれてすらいないわけで、その感じというのをおそらく体感では分かっていない。とはいえ、素敵な恋に対する憧れや想像力に溢れたその歌詞は素晴らしく、このメロディーやアレンジと組み合わさることによって、新たなリアリティーを獲得しているともいえる。
そして、このユニットの大きな魅力の一つである、大人っぽくてカッコいいサウンドとキュートなボーカルとの組み合わせの絶妙さというのは、この曲においても最大の効果を発揮しているように思える。これまで、この曲を様々なシチュエーションで聴いてきたが、いついかなる時もすべて良い。