WHY@DOLL「WHY@DOLL」について。 | …

i am so disapointed.

2017年8月1日、札幌出身のガールズ・ポップ・ユニット、WHY@DOLL(ホワイドール)がアルバム「WHY@DOLL」をリリースした。すぐに聴いたかどうかはよく覚えていないのだが、週末までにはかなり気に入っていた。リリースに先がけて公開されていたティザー映像も、事前に観ていた。

 

その約1年5ヶ月前のことなのだが、偶然、新潟出身のアイドルグループ、Negiccoの音楽を結成してから12年目以上にして初めて聴こうかと思ったことがあって、結果的にすごく気に入ってしまった。それで、他のアイドルの曲の中にも気に入るものがあるのではないかと思っていろいろ聴いてみたのだが、気に入るものもあればそうではないものもあった。それだけアイドルの音楽も多様化、細分化していたということである。

 

にもかかわらず、WHY@DOLLのことは知らないままだった。TwitterのタイムラインでWHY@DOLLという札幌出身のアイドルがNegiccoと同じT-Palette Recordsに移籍して、それから第1弾のリリースとなるシングル「菫アイオライト」がとても良いというツイートを見た。また、Negicco「アイドルばかり聴かないで」からインスパイアされたと思われる、「アイドルばかり聴け!」という本を読んでいると、WHY@DOLLの曲がいくつか、好意的に紹介されていた。

 

まずはその「菫アイオライト」とやらに通じるリンクをタップして、興味本位で聴いてみようと思ったのだが、これが良い。元々、ディスコ・ファンクっぽいアイドル・ポップスが好きだなと思っていたのだが、この曲にはそれの決定版とでもいうべきカッコよさがあった。そして、ボーカルがとてもキュートで、そのギャップのようなものもまたとても良く思えた。当時、勤務地で自分が選曲した曲を勝手に流していることが多かったのだが、この曲は1曲目か2曲目にかけることが多く、その度にカッコいいなと思っていたし、そのうち飽きるだろうと思っていたのだが、一向に飽きなかった。

 

「ミュージック・マガジン」の年間ベスト・アルバムで、WHY@DOLLがT-Palette Recordsに移籍する前にリリースしたアルバム「Gemini」がランクインしていて、Apple Musicにあったので軽い気持ちで聴いてみたのだが、これもまたとても良かった。フュージョンとかディスコとかAORとか、80年代のサーファー・ディスコ的なテイストの音楽を、いまどきのアイドル・ポップスとしてやっているようなところがかなり気に入った。これがわりと本格的にマニアックになり過ぎると、個人的な好みとしては興醒めしてしまうところもあるのだが、ボーカルがキュートなこともあって、そうはなっていないところが、私にはちょうどよかった。

 

そのうち、次のシングル「キミはSteady」がリリースされた。インターネットで見た記事かなにかではシティ・ポップに挑戦というようなことが書かれていたのだが、実際には想像していたよりもキャッチーな曲であった。でも、これも良いなと思って、カップリングの「ラブ・ストーリーは週末に」を聴いたところ、いきなり80年代的なサックスが泣きまくっていたりして、そのやり過ぎ感覚に思わず笑ってしまった。AORが大好きな友人に、リンクを送った。後にこの曲を作曲・編曲した吉田哲人さんは、自分はあまりにも良いものを見たり聴いたりすると笑ってしまうのだ、というようなことを言っていたのだが、その時、私に生じていたのもそのような現象だったのかもしれない。

 

このような経緯もあり、「菫アイオライト」「キミはSteady」を収録したアルバムのティザー映像を、とりあえず視聴した。アルバムに収録された全曲が、少しずつ流れる。やはりディスコ・ファンク調の曲が中心のようだが、少し違った感じの曲もあるな、と感じた。特にアルバムの後の方に収録されているらしい、「Hello Hello Hello」などである。それにしても、収録曲が10曲というのは、いまどき短すぎるのではないだろうか。曲が足りなかったのならば、シングルのカップリング曲も入れればよかったのに、などと浅薄なことを当時は考えたりもしていた。

 

しかし、まさにそこが良いんじゃない、という感じであり、実際に聴いてみると、この10曲約43分というサイズ感が、アナログレコード時代のLPみたいでとても良い。シングルのB面曲(あえてこう言う)が入っていない、という点においてもである。46分テープに収まりそうな感じである。

 

アルバムを再生すると、まず「菫アイオライト」である。何度、聴いてもカッコいい。ブラスとストリングスの使い方が最高で、ポジティヴで力強い内容なのだが、ちょっとメロウになる箇所もある。ここがまた良いなと思っていたのだが、後に作曲者のインタヴュー記事で、スティーヴィー・ワンダーの「ゴールデン・レディ」に影響されたことを知った。「インナーヴィジョン」は大好きなアルバムで、特に「ゴールデン・レディ」は気に入っていたのだが、「菫アイオライト」を何度も聴いていたにもかかわらず、そこにはまったく気付かなかった。しかし、言われてみれば確かにそうであり、ポップ・ミュージックを聴く楽しみを大いに味わった。

 

途中のラップ・パートも良いのだが、ここにはWHY@DOLLのそれまでの曲のタイトルがたくさん織り込まれているということであった。また、歌詞にはけして平坦な道のりではなかったWHY@DOLLがT-Palette Recordsに移籍して、新たなスタート、というような意味も込められていたようで、「君に会えるあの場所」とは、ライブ会場のことを指してもいるようであった。このようにハイコンテクストな理解が深まったり、ライブでも盛り上がりを経験する度に好きな度合いは深まっていったのだが、ラヴ・アット・ファースト・サイトというか、ほとんど何も知らずに初めて聴いた時から、この曲のことが大好きだった。

 

続いて、早くも「キミはSteady」である。やはり、キャッチーで良い曲である。それにしても、強力なシングル2曲をアルバムの序盤で使い果たしてしまって、果たして大丈夫なのだろうか、と余計な心配をしてしまった。そして、その心配は本当に余計であった。

 

「Tokyo Dancing」は、とにかくアガるダンス・チューンで、東京の街をまるでテーマパークでもあるかのように見立てているところがとても楽しい。しかし、ただただ楽しいだけではなく、その裏側にはけしてイージーモードではない現実というものが、はっきりと認識されている。それは演者とオーディエンスとの間で共有されてもいて、だからこそ「辛いなら 忘れにおいで いつでも 笑顔にする」というところが感動的なのであり、それから「ワンダーランド」で溜めたてから、「Wow Wow Wow Wow」で思いが爆発するのである。

 

「恋なのかな?」は後にライブの最後やアンコールで歌われる曲として定着したようなところもあり、アルバムの前半で早くも聴けることが贅沢にも思える。ポップでカッコいいのだが、アイドル・ポップ的な胸キュン要素の含有量もかなりのものである。逆の言い方をすると、ガチ恋的なアイドル・ポップスであるにもかかわらず、気持ち悪くなっていないので聴いていられる(こらこら)。この絶妙な具合は見事なものである。私はアイドルの音楽には好きなものがあるものの、アイドルそのものにはそれほど興味がないというキャラクター設定になっていて、あながち間違いでもないのだが、札幌でのライブの後のチェキ撮影の時、この曲でやる指ハートなるものが上手くできずに、メンバーから丁寧に指導を受けていた件を、他のファンの方々から怒られたりしたのは良い思い出である。それから、「恋なのさ」のコール&レスポンス的なところで、ある時期から何人かのファンが肩を組んでやるというのが恒例になり、一時期、私も入れてもらっていた。その後、諸事情によりバッタリ行かなくなったのだが、ラストライブのBlu-rayを見ると、その肩を組んでコール&レスポンスしているファンの姿も絶妙に映っていて、制作者の本気度を感じた。

 

WHY@DOLLは渋谷のGladというライブハウスで月に2回ぐらい、定期公演というのを行っていて、私も一時期、よく行っていたことがあるのだが、諸事情により、ある時期からパッタリ行かなくなった。この定期公演というのは、17時30分からの一部と19時30分からの二部に分けられていた。平日ということもあり、仕事を終えたファンもたくさん参加する二部がメインである。一部は時間が短いのだが、価格が安い上にメンバーとの握手会にも無条件で参加することができた。私は様々な実力を行使して、一部から参加することも少なくなかったのだが、大抵の人たちはまだ仕事をしていることもあって、客はそれほど多くはない。この背徳感がなかなか良かったのだが、アルバムで次に収録されている「マホウノカガミ」は、なぜかこの一部でよく観た印象が強い。

 

二部や他のライブでも何度も観ているはずなのだが、なぜか一部の印象が強いのだ。「let's go」の後で、拳を高く振り上げるのが気持ちよかった。「この先の未来とか 明日の仕事なんて 気にしないで」のところなどには、病み気味の時には本気で救われていたりもしたので、気持ち悪いことこの上ない。あと、レコードの針が盤面をすべるような音が入るところがあるのだが、その一瞬の振り付けが、個人的にはツボであった。

 

「忘れないで」は浦谷はるなのソロ曲なのだが、個人的にはこのアルバムの中で、現在、最も現役感が高かったりもする。WHY@DOLLの音楽をメンバーの名前も知らずに聴いていた頃には、キュートなボーカルが印象的で、それは主に青木千春だったのだが、実際には浦谷はるなとのコンビネーションが最高だったのである。そして、これは浦谷はるなのソロ曲である。薄味だが絶妙にウェットで、適度に鼻にかかったようなところもあるそのボーカルが、都会の夜のムードを感じさせる曲調とサウンドと歌詞にマッチしている。パトリース・ラッシェン「フォーゲット・ミー・ノッツ(忘れな草)」歌謡としても優れているが、石川ひとみ「まちぶせ」的な湿度も感じられる。このぐらいのことは初めて聴いた頃から思っていたのだが、聴けば聴くほどに効いてくる。この曲のライブパフォーマンスがまた、エモーショナルで素晴らしい。

 

「Dreamin' Night」はR&Bっぽくて大好きな曲なのだが、初めてWHY@DOLLのイベントを観に行った時、リハーサルでまずこの曲をやっていた。渋谷のヴィレッジ・ヴァンガードだったのだが、かなり間近で観ることができた。当時、ドラえもんとドラミちゃんなどともいわれていた、水色と黄色の衣装である。リハーサルがはじまり、その動きのキレに驚かされた。熟練を感じたのと同時に、そこはかとなく漂う哀しみのようなものにもグッときていた。このことについては、当時、あまり書いていなかったかもしれない。

 

「夜を泳いで」は、当時のWHY@DOLLの境遇とも重ね合わせることができるような、地方から都会に出てきて夢を追いかけている若者のことがテーマになっている曲である。

 

そして、青木千春がソロで歌う「Hello Hello Hello」である。それまでのWHY@DOLLには無かったカントリー的な路線の曲で、これがまた青木千春の甘い歌声にハマりまくっている。可愛らしいだけではなく、音程が低くなるところなどでは無意識過剰的にあまりにも多くの意味を伝えているように感じられるところもあり、活動終了後も聴く度にあーやっぱり良いな、と思わされている。

 

人生には思い通りに行くこともあればそうではないこともあり、相対的には後者の方が圧倒的に多いのではないかというような気がしている。しかし、もしも本気で生きているとするならば、その結果こそがその人にとって最も適していたのであり、より良い未来への指標になるのではないか、などと私は思いながら日常を暮らしていたりもする。その瞬間を切り取った表現というのは、だからいつまでも素晴らしいし、当時を知らなかった人にとっても価値があるものとなる。その話、一体、何度目だよとか、いつまでその話を繰り返すんだよ、と言われることなども、私はよく言っているのだが、素晴らしいもののことは何度でも話すし、いつまでも語り続ける。それを実際に見たり聴いたりできた者にとっての、義務だとすら思っている。このブログはタイトルが表している通り、私という一般人の現実的な生活の記録である。私はこれまでに聴いてきたり、これから聴くであろうポップ・ミュージックから大きな影響を受けながら生活をしているため、現実的な生活を記録するとなると、それらに言及せざるを得なくなる。客観的な音楽レビューでもあるかのように、時には勘違いできることもあるのかもしれないが、基本的には自分語りだけしか書いていない。そういうコンセプトのブログである。

 

フォンテインズD.C.のアルバムやビリー・アイリッシュやNegiccoの新曲がとても気になるところではあるが、やはりまずは「WHY@DOLL」発売3周年について書いてからだろうと、個人的には思うので、いずれもまだ聴いていないし、「WHY@DOLL」ばかり朝からずっと聴いている(といっても、仕事中は聴いていないので、正確には移動中や休憩中や帰宅後のことである)。

 

アルバムのラストに収録されたのは、「恋はシュビドゥビドゥバ!」である。イントロでいきなりスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ「涙のクラウン」だとか、曲調でヴァネッサ・パラディ「ビー・マイ・ベイビー」だとか、それに影響を受けたかオマージュを捧げたかしたであろう日本のポップスについて、したり顔で語る人々も微笑ましいが、渋谷Gladの目の前の串カツ田中で、WHY@DOLLについてのアメーバブログやセットリストのツイートでお馴染みの有名な方と、そういう人たちの微笑ましさについて語り合えていた時が本当は一番、楽しかったのかもしれない。

 

60年代ポップスの要素まで取り入れたことによって、このアルバムのポップス絵巻的な魅力はさらにレンジを広げるわけだが、メンバー自身による歌詞はスマートフォンだとかLINEが日常のいまどきの女の子らしさが全開というところがまた素晴らしい。

 

WHY@DOLLのライブやイベントにはある時期から諸事情により、ある時期からバッタリ行かなくなったが、活動終了直前になって、リリースイベントには行くことができた。とある古参ファンの方からいただいたダイレクトメッセージを読んで、10分ぐらい泣いた。WHY@DOLLの音楽は、それからもずっと聴いている。ビートルズやザ・スミスやRCサクセションやフリッパーズ・ギターのように、現役ではもう活動していないとしても、作品は聴いたり語ったりされている限り、ずっと残り続ける。エンドレス・アートである。そして、メンバーやスタッフにはあり得ないぐらいのしあわせが、これでもかというぐらいの勢いで押し寄せてほしいと、心から願っている。