「RYUTist HOME LIVE #307 9th Anniversary」について。 | …

i am so disapointed.

先週、RYUTistの最新アルバム「ファルセット」がリリースされて、先行シングルや配信曲のクオリティーからいって、なかなか良さそうな予感がしていたのだが、実際に聴いてみたところとても良かった。その第一印象的なものについてはその日のブログに書いたのだが、それから錦糸町のタワーレコードにCDを買いに行って、Twitterの試聴会だとかオンラインサイン会だとかに参加して、9周年ライブの配信があることを知り、1日だけ残っていたゴールデンウィーク休暇がその日にあてられそうだったのでチケットを買ったり、というようなことをしていた。

 

 


RYUTistの曲にはとても好きなものも多く、私が年末あたりに毎年、勝手に発表している年間ベスト・アルバムでは2017年に「柳都芸妓」が2位、年間ベスト・トラックでは2018年に「青空シグナル」、2019年に「センシティブサイン」がそれぞれ10位以内にランクインしている。とはいえ、単なる野次馬的なポップス好きにすぎないため、ただCDを買ったり音楽や映像を視聴しているぐらいで、特にファンといえるほどではなかった。ライブは観たことがないに等しいのだが、厳密にはまったく観たことがないわけでもない。といっても、まだそういう名前の新潟のグループがあるらしい、という程度の知識しかなく、曲を聴いたことさえなかった頃に、Negiccoを観に行った「古町どんどん」のステージで、たまたま見かけただけであった。

 

「青空シグナル」のシングルの頃に、他のアイドルのライブやイベント会場でよく見かけていた方からRYUTistのことをいろいろ教えていただき、特集記事が載った新潟のミニコミ誌のようなものを注文して読んだりもしていた。まあ、その程度の知識しかない。

 

「ファルセット」は少なくとも私のTwitterのタイムラインでは絶賛の嵐という感じでもあり、いまこのタイミングでRYUTistの結成9周年を記念するものだという、このライブ配信をしれっと視聴するという行為は、単なる野次馬的なポップス好きというキャラクター設定とも、整合性が取れていなくもない。視聴にあたり、少しでも新潟にいる気分を味わいたいと思い、表参道で新潟限定のお菓子や缶ビールを買ったり、ランチにはたれカツ丼を食べたりもしていた。

 

 

 

 


RYUTistのライブ配信が14時からだったのだが、その1時間前にテイラー・スウィフトの前日に突然、発表されたアルバムの配信がはじまり、これもとても良かった。このアルバムをもっとじっくり聴いたりもしたかったのだが、全部を聴き終えるよりも先にRYUTistの配信の方がはじまったので、泣きながら中断してそちらに集中した。

 

オープニングでリーダーが他のメンバーについて語ったり、いろいろな映像を織り交ぜたムービーが流れ、気分を高めていく。ただライブをそのまま配信するだけではなく、このような構成にしているところに気合いと誠意を感じたりもする。「ファルセット」の1曲目、「GIRLS」はメンバーのボーカルがコラージュのように使われてはいるものの、インストゥルメンタルといえばいえなくもない。この音楽と共に、あの素晴らしいミュージック・ビデオとはまた違った映像が流れる。過去のミュージック・ビデオから引用されたものもたくさんあり、私が一昨年にNegiccoを観るため新潟に行った時に聖地巡礼的なことをしたコインランドリー寿で本を読む宇野友恵なども登場した。まったくの余談だが、「青空シグナル」のミュージック・ビデオでは、コインランドリー寿の名前の上にあったサンヨーというメーカーか何かの名前が見えなくなっている。

 

「ファルセット」と同じように「GIRLS」から「ALIVE」に繋がり、映像がステージ上のライブに換わった。「ALIVE」はプログレッシヴ・アイドル・ポップともいえる凝った内容の曲なのだが、マニアックでおたくっぽくはならず、ポップに開かれていて、文学的な香りすら感じられるところが素晴らしい。と思っていたのだが、これがステージでしっかりと再現されているというのが、またすごい。RYUTistについてはミュージック・ビデオでの印象が強く、ライブの映像はあまりちゃんと観ていないのだが、「春にゆびきり」のミュージック・ビデオでも感じたのだが、意外にも動いて、しかもかなりキレッキレなのだ、ということに驚かされたりもした。また、メンバー4人によるボーカルを録音された作品ではまとめて聴いていたようなところがあったのだが、ここはこの2人で歌っているのかとか、この歌声はこのメンバーによるものだったのだ、とかいろいろ新しく分かることもあってとても良かった。

 

MCに続いて、「青空シグナル」「センシティブサイン」「きっと、はじまりの季節」とシングル曲が続き、こんなに序盤で出しまくって大丈夫なのだろうかとよく分からない心配をしてしまったりもしたのだが、いずれもやはり素晴らしい。視聴者が投げ銭をすると、それがアイコンやイラストのようなものになって、MCの間に画面に表示されるというシステムが採用されている。その中にはリーダー、佐藤乃々子が飼っている猫だという、ぽてまるのものもある。とても愛嬌のある顔をしていて、ぽてまるという名前、そして、「ぽて」と呼ばれたりしているところも良い。MC中にステージの設備のようなものの上でくつろいでいるぽてまるが画面には表示されているのだが、実際に現場にいるわけではない。しかし、これをあたかも実際になでているかのように見せる宇野友恵の技術には目を見張るものがあった(おそらくライブ全体において注目すべき箇所はもっとあるのだが、個人的に本当にすごいなと思ったのである)。

 

「絶対に絶対に絶対にGO!」は、これがライブでは初披露なのだという。圧倒的にポジティブ前回の疾走感溢れる楽曲であり、普通、こういうタイトルはあまり付けないような気もするのだが、これ以外にはあり得ないというような内容である。「ファルセット」では「センシティブサイン」と「青空シグナル」の間に収録されることによって、ひじょうに重要な役割を果たしているようにも思えたが、ライブでもとにかく弾けまくっていて、ただただ楽しい。「いつも今がスペシャル!」という気分に満ち溢れている。

 

「Majimeに恋して」は「ファルセット」には収録されていない曲だが、配信された時に聴いてはいて、私の好みにはちょっと明るすぎるという印象を持っていたのだが、ライブで観るととても良い。「バ・バ・バカンス!」も「ファルセット」未収録曲で、西興部村のコッパーさんというリーゼントでサングラスの男性が登場する。このコッパーさんのことについては、「青空シグナル」の頃にいろいろ教えてもらった流れでなんとなく知っていた。私が通っていた旭川の高校には興部出身の男子も通っていて、ストレートに「興部」などと呼ばれてもいたので、「興部」と書いて「おこっぺ」と読むことも知っているのだが、行ったことは一度もない。RYUTistと西興部村とは特別な関係で結ばれているということだが、コッパーさんは西興部村のゆるくないキャラだという。ゆるくないキャラとは、いわゆるゆるキャラの対義語なのだろうが、ゆるくないは北海道弁で楽ではない、大変だ、というような意味である。大雪の日に雪かきをしていると、「ゆるくないべさ」などと言われたりもする。

 

このコッパーさんなのだが、ゆるくないキャラとしてひじょうに素晴らしい。キャラクター設定にブレが無いし、言葉を一言も発しないのだが、寡黙にしてあたえられた任務をストイックかつ、チャーミングに遂行している姿がじつに男前である。ダンスはキレッキレであり、その他の動きにも目を奪われる。個人的にはこの曲の間、メンバーではなくてコッパーさんばかり見ていた。

 

この後は「ファルセット」の中でもやや大人っぽく、都会的なイメージが強い「時間だよ」「春にゆびきり」「無重力ファンタジア」と続いていく。この辺りの曲では、グループのこれまでにあまり見られなかったかもしれない新たな魅力を感じさせ、未来のイメージにもつながっていきそうな気がする。図らずもこのあまりにもいつもとは違う春を予見し、象徴してしまったかのような「春にゆびきり」には、やはりグッとくるものがある。

 

「好きだよ...」は「ファルセット」収録曲の中でも一般的にイメージするアイドル・ポップスであったり、初期のRYUTistを感じさせもするが、やはり違っているというような曲であろう。もちろん好きなのだが、このアルバムの中では個人的には良さを深く理解する能力に欠けているタイプで、好きな人たちにとってはたまらないのだろうな、という気もなんとなくする。この辺りが「ファルセット」というアルバムの広くて深いところであり、この作品を好んで聴いている人たちの中でも好きな曲の順番はいろいろなのだろう。しかし、この曲でもライブで聴くと印象が少し変わり、特に宇野友恵のエモーショナルなボーカルにすごみを感じた。

 

MCに続いて、シングル曲の「黄昏のダイアリー」だが、この曲は「ファルセット」の最後に収録されていて、ライブでも最後の方に歌われることが多いという。それではこのライブでもこの曲でおしまいなのかとも思ったのだが、ラストは「ファルセット」の収録曲でも私が最も好きな「ナイスポーズ」であった。これはまるで小説のような素晴らしい内容の曲で、人生の何気ない1コマであり、簡単に忘れ去られてしまいそうなのだが、実はとても大切な瞬間というのを素晴らしい方法と技術で記録しているところが特別にたまらなくすごいと思うのである。そして、その肝心の「ナイスポーズ」の部分なのだが、実際の出来事としてはおそらく一瞬であるのを、克明にディテールにこだわって、しかもそれを最高のボキャブラリーとパフォーマンスで表現しているのが、もうとにかくたまらないのである。そして、ライブだとこれがまた良い。良すぎて泣きそうになった。

 

ライブを観ていると、それぞれのメンバーの個性というのもとても良いし、そのバランスが取れていて全体としてもとても良いなと思わされる。横山実郁のもちろん良い意味でしかないあざとさというか、ナチュラルボーンアイドルとでもいうべき表情、所作、発声などにはすさまじいものを感じる。

 

ライブはこれで終わりなのだが、この後の映像がまたとても良くて、花火が上がって、メンバーがそれを見ていたり、あの「思い切り地面を蹴って ジャンプして両手でピース」をする「ナイスポーズ」を、メンバーそれぞれが取り、静止画になっている間に直筆のメッセージが横に映し出される。

 

結成9周年記念ライブということで、これまでの活動の集大成的なセットリストになるのではないかという気もしていたのだが、以前の代表曲などはまったく入っていなく、「ファルセット」収録曲が中心となっていた。「ファルセット」がとても気に入って、この配信を観ようと思った私にとっては、とても満足のいく内容だったのだが、ファンの人たちにとってはどうだったのだろうか。それを想像することは私にはできないが、いずれにしてもこれこそがいまであり、いまが最高なのだ、というような勢いのようなものは感じられるような気がした。これから、「ファルセット」を聴くことがもっと楽しみになったし、いつか生のライブもぜひ観てみたいと思わされた。本当に素晴らしいライブ配信であった。