「ミュージック・マガジン」の「RCサクセション~忌野清志郎ベスト・ソングス100」特集について。 | …

i am so disapointed.

1986年の1月、大学受験を間近に控えた私は「ミュージック・マガジン」の最新号を買って、寒いアパートの部屋で電気ストーブに張り付きながら読んでいた。RCサクセションの「ハートのエース」を取り上げた「クロス・レヴュー」で、当時の編集長、中村とうようは忌野清志郎のヴォーカルについて、次のように書いていた。「ひどいシャガレ声で、パワーのなさを一種のブッキラボーさでカバーしてる彼のヴォーカルを何曲も続けて聞くのは少々苦しい」、そんな「ミュージック・マガジン」がRCサクセションや忌野清志郎を大きく取り上げるのは、もう何度目かのことだと思う。

 

今回は曲単位でカウントダウンにしているところがおもしろいと思い、告知をはじめて見た時からずっと楽しみにしていた。発売日の6月19日、調布のパルコブックセンターで買おうと思ったのだが、19時で閉店ということだったので、真光堂書店で買った。最後の一冊であった。元々、入荷が少なかったのか、いつもと比べてわりと売れているということなのかはよく分からない。以前はたいていの店に入荷していた印象があった「ミュージック・マガジン」だが、最近では置かれていない場合もたまにはある。「レコード・コレクターズ」はあるけれども、「ミュージック・マガジン」はない、という場合すらある。

 

それはそうとして無事に購入はできたものの、その日は他にやることがいろいろあったのと、読みはじめてしまったとするならば、おそらく他のことに手がつけられないだろうと思ったことなどから、まったく手をつけずに一日を終えた。明けて、朝、通勤の電車の中で「ミュージック・マガジン」に掲載されている「RCサクセション~忌野清志郎ベスト・ソングス100」をiPhoneでプレイリスト化した。最大公約数的な人気曲がやはり上位に入っているなと思った一方で、世間一般的には地味な印象もあったり、あまり知られていない可能性もあるような曲が上位に入っていたり、知名度が高い曲の中にも、それほど順位が高くはないものがあったり、「ミュージック・マガジン」らしさも感じられた。ちなみに、この雑誌や「レコード・コレクターズ」のこのタイプの企画と同様に、何名かの選者のアンケートを集計したものがランキング化されている。

 

順位についての詳しい言及は避けるが、それぞれの曲についての解説がされると共に、初リリース時のレコードジャケットが掲載されているのもとても良い。ランキングが終わった後で、「文化人/ミュージシャンが選ぶ”忌野清志郎・私の3曲”というコーナーがあり、なかなかおもしろかった。特に作家、絲山秋子による「DDはCCライダー」の解釈については、曲のチョイスそのものが渋すぎるだけにとどまらず、とても新鮮であり、この曲を聴く上でのまったく新しい楽しみを提示しているようである。

 

その後は、選者30名が選んだ25曲のリストとコメントが、すべて掲載されている。仕事の休憩時間と帰りの電車の中と、少しだけ降りたホームですべて読み終えた。最大公約数的な人気曲というのは、やはり突出しているものがあるが、それ以外では人それぞれに好きなRCサクセション~忌野清志郎の曲のタイプがあるようで、読みながら共感したり、そういう聴き方もあるのかと思ったりいろいろ楽しかった。

 

そして、私の個人的なベスト25もやはりやってみたくなったのでやってみて、プレイリスト化もした。あくまでいまの気分でのベスト25なので、少し経ってからやると、また変わっている可能性は大きくある。

 

1980年、私が中学2年の頃にRCサクセションがロック化してから最初のアルバム「ラプソディー」が出て、翌年にはビートたけしがラジオで「トランジスタ・ラジオ」をかけるのなどを聴いていた。忌野清志郎の派手な化粧とファッション、あまりにもユニークなヴォーカルなどから、ギミック的な見方もしていなくはなかったのだが、ニュー・ウェイヴ的なものという感じでおもしろがっているうちに、本当に曲が良いということに気がついていった。ロックの(当時の日本においては)マイナーな世界だけではなく、マスコミや芸能界的なところにまで影響を及ぼすようなポップさがとても魅力的に感じられた。高校に入学する少し前に忌野清志郎+坂本龍一の「い・け・な・いルージュマジック」がオリコン週間シングルランキングで1位になって、その年の夏にはRCサクセションのシングル「SUMMER TOUR」もヒットした。学校では悪そうでカッコいい女子がRCサクセションのファンで、彼女によく思われたいという思いで聴いていたところもあったということは、まったく否定しない。

 

1983年、札幌でRCサクセションとサザンオールスターズの対バン野外ライヴこと「Super Jam '83」というすごいものがあり、これにも行って大興奮した。その年に出たRCサクセションの「OK」とサザンオールスターズの「綺麗」はいずれもバンドの最高傑作とはされていないのだが、私にとっては最も好きなアルバムである。「OK」はバンド・メンバーのコンディションもそれほど良くはなかったらしく、あまり好ましく語られていなくて悲しい思いをしていたのだが、今回の「ミュージック・マガジン」のリストではこのアルバムからわりと選ばれていてよかった。

 

1984年は事務所やレーベルの移籍があったり、ベスト・アルバムがバンドの意向に反して発売され、忌野清志郎がファンに不買を訴えるというようなこともあった。東芝EMI移籍第1弾のシングル「不思議」はわりと実験的でどうなることかと思いきや、アルバム「FEEL SO BAD」ではかなり怒っていて爽快であった。しかし、このアルバムの中で私が特に好きなのはアルバムではB面の1曲目に収録され、「ミュージック・マガジン」では誰一人として選んでいなかった「NEW YORK SNOW(君を抱きたい)」だったりする。シャンペンとワイン、フライドチキンとかなにかを買って帰り、煙草とコーヒー、アイスクリームなどを恋人と一緒に、というウォーミングでハッピーでセクシーなムード満点の楽曲で個人的には最高だと思うのだが。そして、「夢を見た」は、好きな人のことを夢に見たのだが、目が覚めて実際にはそこにいないという現実に気づいたので悲しいという、ただそれだけの曲である。しかし、これがとても良い。

 

この頃、高校の友人から「ハード・フォーク・サクセション」という、初期のフォーク編成だった頃のRCサクセションの曲を集めたレコードを借りて、これにも衝撃を受けた。本当のことなんか言えない、言えば殺されると歌われる「言論の自由」、また、「ぼくの自転車のうしろに乗りなよ」は、忌野清志郎の作品において重要でもある「理解者」という概念について力強く歌われたようなバラードであるのと同時に、当時、まだ見たこともない国立の景色が心に浮かんでくるようでもあり、当時から現在までずっと大好きな曲である。

 

高校を卒業し、東京で一人暮らしをはじめてからは、西武球場や日本武道館、中野サンプラザや渋谷公会堂にRCサクセションや忌野清志郎のライヴを観に行った。「カバーズ」は1988年の夏休みに北海道に帰省して、留萌の祖父母の家に遊びに行った時に、もらったお小遣いでLPレコードを買った。実家にはまだCDプレイヤーが無かったからである。妹はレベッカの「OLIVE」を買っていた。

 

この25曲をプレイリスト化したものを聴きながらいまこれを書いているのだが、年代も曲のタイプもバラバラでまったく統一感がなく、流れも計算などは一切されていないのだが、個人的にはしっくり来すぎる。これ以外には無いだろうという感じで、私にとってのRCサクセションや忌野清志郎というのは、まさにこういう存在なのだろうなということに気づかされる。

 

エディ・コクランのヒット曲を反原発ソングにアップデートした「サマータイム・ブルース」にはRCサクセションのファンであることを公言していた元おニャン子クラブにして、現在は秋元康の妻である高井麻巳子も参加している。あと、泉谷しげるがとにかくキャラ立ちしているが、「あきれて物も言えない」で「オレが死んでる」と言っていた「どっかのヤマ師」とは、実はこの泉谷しげるのことだったらしい(オリジナルの歌詞はもっと辛辣なものだったという)。THE TIMERSの「デイ・ドリーム・ビリーバー」はモンキーズのカバーで、いまどきの若者たちにはセブンイレブンの歌として知られているらしい。ここで歌われている彼女とは、忌野清志郎の亡くなった母親のことだという説もあった。そう考えると、「もう今は彼女はどこにもいない」「ずっと夢を見て 安心してた」「今は彼女 写真の中で やさしい目で 僕に微笑む」というフレーズに対する、グッとくる感じもまた違ってくる。

 

「シングル・マン」に収録された「やさしさ」の、「誰もやさしくなんかない だからせめて 汚いまねはやめようじゃないか」には衝撃を受けたし、その後の人生の指針になったような気さえしている。「OK」に収録された「Oh! Baby」と「指輪をはめたい」は、とにかく最高のラヴ・ソングだと思う。

 

①トランジスタ・ラジオ(RCサクセション)

②スローバラード(RCサクセション)

③多摩蘭坂(RCサクセション)

④君が僕を知ってる(RCサクセション)

⑤ぼくの自転車のうしろに乗りなよ(RCサクセション)

⑥Oh! Baby(RCサクセション)

⑦やさしさ(RCサクセション)

⑧指輪をはめたい(RCサクセション)

⑨わかってもらえるさ(RCサクセション)

⑩言論の自由(RCサクセション)

⑪2時間35分(RCサクセション)

⑫デイ・ドリーム・ビリーバー(THE TIMERS)

⑬い・け・な・いルージュマジック(忌野清志郎+坂本龍一)

⑭あきれて物も言えない(RCサクセション)

⑮サマータイム・ブルース(RCサクセション)

⑯ボスしけてるぜ(RCサクセション)

⑰シュー(RCサクセション)

⑱お墓(RCサクセション)

⑲NEW YORK SNOW・きみを抱きたい(RCサクセション)

⑳ぼくはぼくの為に(RCサクセション)

㉑エンジェル(RCサクセション)

㉒夢を見た(RCサクセション)

㉓あの娘の悪い噂(RCサクセション)

㉔I LIKE YOU(RCサクセション)

㉕あの娘とショッピング(DANGER)