ザ・ウィークエンド「アフター・アワーズ」について。 | …

i am so disappointed.

ザ・ウィークエンドの4作目のアルバム「アフター・アワーズ」は3月20日のリリースから1ヶ月と少しが過ぎたところなのだが、とにかく売れまくっている。いまこの文章を書いている時点で「ブラインディング・ライツ」がアメリカでもイギリスでもシングル・チャートの第1位、アルバムはアメリカで1位、イギリスで5位となっている。イギリスでもリリース直後は初登場1位を記録していた。

 

このアルバムが持つダークなトーンが、現在の世界を取り巻く空気感にひじょうにマッチしているようにも思え、それがヒットにもつながっているのかもしれない。元々、ザ・ウィークエンドの熱心なファンというわけではない私だが、このアルバムには時代感覚を見事に捉えているようなところがあり、ついつい何度も繰り返し聴いている。

 

ダークなトーンのR&Bで、ニュー・ウェイヴ的な要素も感じられるザ・ウィークエンドの音楽は、すでに何年も前から世界的にヒットしているのだが、個人的にはそれほどガツンときていたわけではなかった。ドレイク、ダフト・パンク、ビヨンセといったメジャーなアーティストとのコラボレーションも話題になり、ジャンル越境的な魅力もあるのだが、メインストリームのR&Bなのかオルタナティヴなポップ・ミュージックなのか、おそらくそのどちらでもあるのだろうが、それがどっち付かずであるようにも感じられ、なかなかピンときてはいなかったというのが正直なところである。しかし、実はそこがとても良かったのであった。この感じは何かに似ているなと思ったのだが、おそらく「リトル・レッド・コルヴェット」がヒットする前までのプリンスに対する感じ方ではないかというような気がする。

 

それはそうとして、このアルバムは音がとても良い。「ブラインディング・ライツ」や「イン・ユア・アイズ」「セイヴ・ユア・ティアーズ」といった、アルバムの後半に収録された曲には1980年代のエレ・ポップからの影響が感じられ、特に「イン・ユア・アイズ」にはあの時代を象徴するサウンドの1つ、サックスも効果的にフィーチャーされている。それでもまったくノスタルジックな感じはしなく、これぞ最新型のポップ・ミュージックだと思える理由の1つは、音の良さなのではないかという気がする。

 

曲の内容は欲望や未練、後悔といったもので、広義におけるラヴ・ソングだといえる。幸福の絶頂というようなものではまったくなく、うまくいかない感じと嫌な予感ばかりがヴィヴィッドに表現されているように思える。それらはおそらく多くの人々にとって身に覚えがあり、かつ、共感されがちではないのだろうか。文字通り、恋愛や愛欲の現状や記憶というのみならず、漠然とした実存の不確かさという意味においてもである。ましてや、世界を取り巻く現在の状況である。

 

ザ・ウィークエンドの英語でのスペルはTHE WEEKNDであり、「週末」を意味する「WEEKEND」から「E」が抜けている。しかし、これはザ・ウィークエンドと同郷のカナダで同名のバンドが活動していたからで、プロデューサーのジェレミー・ローズによって付けられたアーティスト名は、やはり「週末」を意味している。それは、ザ・ウィークエンドことエイベル・マッコネン・テスファイが高校をドロップアウトしたことについて、ある週末に姿を消し、2度と戻らなかったといわれていたことに起因しているらしい。

 

2011年にリリースしたミックステープが話題になった時、その大きな魅力の1つとして、匿名性というのも大きかったとは思うのだが、その後、ヒットを連発し、グラミー賞なども受賞した現在、バリバリの記名性が特徴というか、現在のポップ・スターである。その役割を引き受けている。収録曲の歌詞でも言及されるラスベガス、富と名声とを手に入れた成功者としての自分自身、それでも求める真実の愛を手に入れることはできないし、それを求めることからは逃れられないとしても、もはや不可能ではないかと確信しかけてもいる。

 

これと高度資本主義社会の限界、偶然にも現在の世界を取り巻く状況などがすべてつながっているのではないかとさえ思え、私にはこのアルバムが現状に最も相応しいサウンドトラックのようにも聴こえる。「閉店後」を意味する「アフター・アワーズ」というタイトルを含めて、である。

 

エルトン・ジョン「僕の歌は君の歌」の引用があったり、プリンス「パープル・レイン」やR.E.M.「ルージング・マイ・レリジョン」のタイトルが歌詞に出てくる曲のタイトルがジョージ・マイケルの大ヒットアルバム「フェイス」と同じだったりもするが、この辺りもこのアルバムがポップ・ミュージック史に残る作品となりうる予感を感じさせたりもする。