デュア・リパ「フューチャー・ノスタルジア」について。 | …

i am so disappointed.

イギリスのシンガー・ソングライターで、ポップ・スターでもあるデュア・リパが2007年のデビュー・アルバム以来、約3年ぶりとなるアルバム「フューチャー・ノスタルジア」をリリースした。当初は4月3日を予定していたのだが、諸事情により1週、繰り上げられたようだ。

デビュー・アルバムのリリース時にここでも個人的な感想のようなものを書いたのだが、その頃はまだ世界的にブレイクしてはいなかった。スタートしてのオーラが強く感じられ、表情や仕草の1つ1つがとても魅力的だ、とも書かれている。

デビュー・アルバムに対しての評価は概ね高かったが、その後、アルバムには収録されていないシングル「ニュー・ルールズ」、カルヴィン・ハリスとコラボレートした「ワン・キス」が全英シングル・チャートで1位になったり、グラミー賞とブリット・アワードというアメリカとイギリスでそれぞれ最も大きな音楽賞で受賞したりと、そのブレイクぶりは理想的であった。

デュア・リパの音楽の魅力はポップ感覚に優れたトラックとハスキーさが特徴的なボーカル、リベラルでフェミニストなアティテュードが反映された歌詞といったところだろうか。アルバムのリリースは約3年ぶりなのだが、デビュー・アルバムの後に出たシングルがヒットして、それらも収録したデラックス・エディション的なものが出たり、映画のサウンドトラックに楽曲を提供したりといった話題があったため、久々という感じがそれほどしない。先行シングル「ドント・スタート・ナウ」は昨年の秋にリリースされ、アメリカとイギリス、どちらのシングル・チャートにおいても最高2位の大ヒットを記録した。

大きな成功を収めてから初めてのアルバムだが、期待を裏切ることのない素晴らしいダンス・ポップ・アルバムで、ボーカルにもサウンドにも大きな成長が見られる。デビュー・アルバムの感想のようなもので私はデュア・リパについて、これでまだ21歳だというのだから可能性しかないのではないか、というようなことを書いているのだが、その時に思い描いていたものを遥かに超えた現実があり、それを踏まえて制作されたであろうこのアルバムも期待以上のクオリティーである。

アルバム・タイトルが「フューチャー・ノスタルジア」であるように、ディスコ・ポップの伝統を継承していながらも現在のテクノロジーを駆使したサウンドで、アティテュードはリベラリズムやフェミニズムの観点、そして、もっと具体的にいうならば女性アーティストとしての在り方がひじょうに現在的である。

アルバムの1曲目に収録されたタイトル・トラックはジャム&ルイスがプロデュースしていたジャネット・ジャクソン、ダフト・パンクなども連想させる。これからとても素晴らしい時間が訪れることを予感させるようでもあり、フェミニスト的なメッセージもはっきりと歌われている。

先行シングルとしてヒットした「ドント・スタート・ナウ」はキャッチーなディスコ・ポップで、失恋ソングである。しかし、恋が終わっていつまでもくよくよしているわけではなく、弱みにつけ込ませないしっかりとした芯が感じられる。この曲のシチュエーションとよく似た状況にいる女性に対してのメッセージ・ソングのようでもあり、シスターフッドという意識がデュア・リパにははっきりとあるのだということを実感させられる。

ノスタルジーがテーマの1つでもあるアルバムに「フィジカル」という曲があると、どうしても1981年にオリヴィア・ニュートン・ジョンが全米シングル・チャートで10週連続1位を記録したあの曲を思い出してしまうのだが、これはカバーではない。「Let’s get physical」というフレーズが出てはくるが。

女性が日々を生きていく上でのリアリティーを歌っているところがリアルであり、もちろんセックスについても必要以上に理想化されるわけでも忌避されるわけでもなく、そこにある事実として当然のように歌われる。

アルバムでは終わりの方に収録された「グッド・イン・ベッド」はサウンド的には他の曲に比べリラキシンなのだが、それだけにデュア・リパのボーカルの魅力が感じられる。心はもうすでに冷めているようにも思える、いわゆる倦怠期ではあるのだが、セックスは続いていき、それはけして悪いものではない。この関係はおそらく長くは続かないだろうし、続けるべきではない。それでもなんとなく続いていく感じ。

また、「ラヴ・アゲイン」は恋愛がうまくいかず、気分はすぐれないのだが悲観的ではないという状況について歌われているようだが、1997年にワン・ヒット・ワンダー、つまり一発屋であるホワイト・タウン「ユア・タウン」のサンプリングがじつに絶妙にハマっている。

そして、その次に収録された「ブレイク・マイ・ハート」はイン・エクセス「ニード・ユー・トゥナイト」のあの印象的なフレーズがサンプリングされている。これがまた素晴らしくて、新しい恋に出会い、それはうれしいことなのだが、その瞬間からこの人はこの先、私を傷つけはしないだろうか、という心配がはじまる。このようなあるあるをポップ・ミュージックのフォーマットでキャッチーにまとめ上げる才能がはじけまくっている。

11曲で約37分間という時間の中に、コンテンポラリーにアップデートされたダンス・ポップスが目一杯、詰め込まれている。そして、アルバムの最後に収録された「ボーイズ・ウィル・ビー・ボーイズ」は、女性が夜の帰宅時に感じる恐怖心、これは理不尽であるという主張がはっきりと込められている。曲調もボーカルもポップだが、その根底には計り知れない怒りがあるのではないかと思ってしまう。

この優れたポップ・アルバムの最後にこの曲を収録することによって、現在の社会における問題をスルーしないという意志表示のように思える。性別に関係なく、人々がより抑圧を感じず、人間らしく生きることができる社会の実現において、フェミニズムは必要不可欠だと私は考える。

そういった意味で、ポップ・カルチャーのメインストリームにいながら、しっかりとこの辺りについての主張をしているデュア・リパの存在は、人類の希望だということができる。




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