グリーン・デイ「ファーザー・オブ・オール・マザーファッカーズ」について。 | …

i am so disappointed.

グリーン・デイが通算13作目となるスタジオアルバム「ファーザー・オブ・オール・マザーファッカーズ」をリリースした。「すべてのクソッタレどもの父」である。

 
1986年にスウィート・チルドレンというバンド名で結成され、地元の少し似たバンドとの混同を避けるため、好んで服用していたドラッグに由来するグリーン・デイに改名した。結成されてから約34年、メンバーは47歳である。
 
1994年にリリースされた通算3作目にしてメジャーデビューアルバムでもあった「ドゥーキー」が大ヒットし、バンドは一気にブレイクした。深刻な憂鬱や苦悩を歌い、オルタナティヴ・ロックをオーヴァーグラウンド化させたのは1991年にリリースされたニルヴァーナ「ネヴァーマインド」だったが、バンドの中心的存在であったカート・コバーンは、グリーン・デイが「ドゥーキー」をリリースした約2ヶ月後に自らの命を絶った。
 
ニルヴァーナをはじめとしたグランジ・ロッグの陰鬱な雰囲気とは異なり、当時のグリーン・デイの音楽は明るく楽しいパンク・ロックとでもいうような、生命力に溢れていた。歌詞には実はシリアスな感じもあったりはするのだが、カートゥーン的なアートワークやノリで付けたという排泄物を意味するタイトルも含め、イメージは明るくポップであった。これが圧倒的に支持されたのであった。
 
イギリスではデビューしたばかりのオアシスや飛躍的な音楽的成長を遂げたブラー、苦節の末にブレイクしたベテラン、パルプなどによるブリットポップが勃興し、こちらも明るくポップな方向性が支持される傾向にあった。
 
実に楽観的な時代ではあったが、世界にはその後、色々なことが起こり、グリーン・デイが次に高い評価を受けるのは2004年のアルバム「アメリカン・イディオット」によってである。「アメリカの馬鹿者」と題されたこのアルバムは当時のアメリカ政府を徹底的に批判するものであった。当時のアメリカ大統領はジョージ・W・ブッシュであり、イラク戦争を先導していた。これ以上に愚かな大統領はいないだろうと、当時はまだ信じられていたのだから、まだ牧歌的であったといえるだろう。
 
アメリカ大統領選を控えたこのタイミングでグリーン・デイがリリースしたアルバムのタイトルは「ファーザー・オブ・オール・マザーファッカーズ」で、「マザーファッカー」ははしたない言葉なので、タイトルが「ファーザー・オブ・オール...」とされている場合もある。「すべてのクソッタレどもの父」ということは、「アメリカン・イディオット」の頃以上に格段に最低最悪な現政権のことをいっているのだろうか。「アメリカン・イディオット」の「ファック」という歌詞をライブで「トランプ」に変えて歌っているグリーン・デイだが、答えはノーとのことである。
 
もはやそれどころではない。フェイクがまかり通り、何が真実かも分からない、信じられてきたすべての道徳はすべて幻だったのかというぐらいに、世界は短い期間に酷く変わってしまった。それは我々の国でも同じこと、というかある意味それ以上に酷く、それでも歴史は続いていく。この局面で絶望するのか、その上で前に進むのか、思考停止するのか、長いものに巻かれた気分で安心するのか、それでも生きていくのだとすれば問題ではあるだろう。
 
「ファーザー・オブ・オール・マザーファッカーズ」というアルバムを一言でいうならば、短くて楽しいアルバムである。デビュー・アルバムの「39/スムーズ」よりも短い約26分12秒である。ネタが無さすぎてこの短さになったのかというとそうとは思えず、むしろとても充実した内容だということもでき、個人的にはここ数年のグリーン・デイのアルバムの中では一番好きかもしれない。
 
ガレージやグラム・ロック、ロカビリー、ソウル・ミュージックなどのような原初的な楽しさに溢れ、それでいてベテランならではのクオリティーの高さがある。「アメリカン・イディオット」などの怒りを原動力とした反骨精神溢れる大作を是非ともこの最低最悪の時代に、と期待したファンや批評家にとっては肩すかしというか、がっかりであろう。「ドゥーキー」の頃のグリーン・デイの魅力は楽しいところでもあったので、そういった意味では本来の得意とする路線に戻ったともいえるが、そうでもない。
 
ポップやキャッチーなサウンドに乗せて歌われている内容からは、絶望とそれを乗り超えて前に進もうという意志が感じられる。現状から目を逸らした現実逃避的なポップスというわけではけしてなく、もはやどうにもならないとことまで来てしまった現実を引き受け、その上で出来ることといえば立場を明確にした上でやれることをやる、という境地であろう。無力感に苛まれながらも立場を明確にし、やれることを全力でやる。それで、まともさが息を吹き返す可能性を信じ、それを待つ。そのような境地が、この作品のポップスとしての強度に繋がっているような気が、個人的にはする。
 




 
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