山里亮太「天才はあきらめた」について。 | …

i am so disappointed.

先日、放送された「プレミアMelodiX」において、モーニング娘。'20の横山玲奈は山里亮太の著書「天才はあきらめた」を3冊持っていると話していた。1冊目は発売されてすぐに、母に頼んで買ってきてもらったらしい。2冊目は山里亮太のツイートで池袋の書店にサイン本が入荷したことを知り、急いで買いにいったのだという。そして、3冊目は山里亮太本人からサインを入れて贈呈されたものである。

 

番組の中で横山玲奈は「テラスハウス」の副音声で山里亮太のファンになり、日常を独自のトークによって面白くできるところがすごいと思うなど、その魅力について熱く語っていた。その熱量はすさまじく、山里亮太本人が新加入の15期メンバーが引いていないだろうかと心配するレベルであった。

 

そんな山里亮太の「天才はあきらめた」を私も読んでみなければいけないのではないかと、仕事に行く途中に乗り換える立川駅構内の書店で探したのだが無くて、豊田駅前の啓文堂書店で購入することができた。Amazonで調べると朝日文庫だということだったのでその棚を探したのだがそこには無く、平台に積まれているのを見つけることができた。つまり、売れているということなのだろう。

 

深夜に仕事が終わり、東映動画ファンクラブのアプリで「仮面ライダーゼロワン」を3話分観た後、始発まで時間があったので、この本を読みはじめた。まったくの書き下ろしだと思っていたのだが、2006年に出版された「天才になりたい」を大幅に加筆・修正したものだという。「天才になりたい」は当時、書店でよく見かけたし、話題にもかなりなっていた記憶がある。「天才はあきらめた」も書店でよく目にしていたのだが、てっきり「天才になりたい」の続編だとばかり思っていた。

 

私が中学生だった頃に漫才ブームがあり、「ビートたけしのオールナイトニッポン」があり、お笑い芸人や放送作家は憧れの職業でもあった。高校を卒業して上京した後は「お笑いスター誕生」に出ようと友人と漫才のネタをつくったことなどもあったが、当時、そういった若者は全国にたくさんいたのではないかと思われる。

 

しかし、高校を卒業し、アルバイトをしながら大学に通っているうちにテレビをほとんど観なくなり、お笑いにも興味を失くしていった。

 

私がふたたびお笑いに興味を持ちはじめるのはそれからかなり後の、2004年であった。会社の施設で同僚がテレビを観ていて、私は本を読むかなにかをしていたのだと思う。彼がこの漫才は絶対に観た方がいいし、好きになるはずだと猛烈にプッシュしてきた。私はいまどきのテレビのお笑いが面白いと思えるような感性はもう枯渇している自覚があったのだが、彼があまりにもすすめてくるので観てみたところ、思いがけず大爆笑してしまった。そのコンビが笑い飯である。

 

当時、勤務していたショップではアルバイトスタッフに商品のコメントを好き勝手に書かせていたのだが、「M-1グランプリ2003」のDVDには優勝したコンビも確かに面白いが、準優勝のコンビがとにかく最高だというようなことが書かれていたような気がする。それを見た時にはまったく興味がなかったのでコンビ名さえ覚えていなかったが、優勝したのがフットボールアワーで、準優勝が笑い飯であった。

 

それから過去3回分の「M-1グランプリ」のDVDをGEOでレンタルし、とても面白いと思ったし、笑い飯についてはすっかりファンになってしまった。そして、2004年の「M-1グランプリ」も楽しみにしていたのだが、バタバタしていて知らないうちに終わっていた。Yahoo!のニュースでアンタッチャブルが優勝したことを知り、笑い飯ではなかったのか、と思ったことを覚えている。最終決戦に残り、準優勝したという南海キャンディーズというコンビのことを、私はまったく知らなかった。プロ野球の南海ホークス(現在の福岡ソフトバンクホークス」と、1970年代に活躍した女性アイドルグループのキャンディーズのことが思い浮かび、もしかすると女性コンビなのかとさえ思った。実際には男女コンビだったのだが、「天才はあきらめた」を読んだところ、コンビ名の由来は南海ホークスとキャンディーズで、先輩につけられたものだということが分かった。

 

2004年の「M-1グランプリ」は島田紳助と松本人志が事情により参加しなかった回であり、関西出身以外のコンビが初めて優勝した回でもあった。私が「M-1グランプリ」を初めてリアルタイムで観たのは翌年、ブラックマヨネーズが優勝した回であった。その頃から私はどうやら大阪のbaseよしもとという劇場に出演している芸人が好きらしいということが分かってきて、その辺りのDVDや動画を観たり、東京や大阪の劇場に足を運ぶようになったりもしていた。

 

南海キャンディーズは2004年の「M-1グランプリ」で準優勝して以来、順調に活動しているという印象があったのだが、芸人関係の動画や音源を視聴していると、実は山里亮太が2005年の「M-1グランプリ」の後で引退を決意するまで追い込まれていたり、それでも芸人を続けるきっかけになったのが千鳥の大悟だったりといったエピソードを知るようになった。特に大悟とのエピソードトークについては、泣きながら聴くようなこともあった。

 

「M-1グランプリ」はそれ以降もずっと好きで、関連するメディアにもわりと積極的にふれているつもりである。「M-1グランプリ」に関することを観たり聴いたり読んだりすることが、とにかく大好きなのである。

 

「天才はあきらめた」という本の存在を知ってはいたものの、なぜか「M-1グランプリ」とは結びついていなくて、これまで読んでいなかったし、今回、横山玲奈というきっかけが無ければ、ずっと読んでいなかった可能性も高い。

 

しかし、今回、読んでみて、「M-1グランプリ」のファンとしてもとても楽しむことができたし、お笑い芸人の自叙伝としてもひじょうに面白い。そして、山里亮太の芸人としての浮き沈み、そこから学び、失敗を繰り返しながらもそこから学び、確実に成長していくメッセージ性でありストーリー性など、ひじょうに味わい深い著作である。

 

ポップ・ミュージックについての優れた文章というのは、読んだ後にその音楽が聴きたくなるようなものだと思うのだが、「天才はあきらめた」を読み終えてから、いや、読んでいる最中から、私は「M-1グランプリ」の南海キャンディーズのネタをまた観たいという気持ちでいっぱいであった。

 

自らが芸人としてストイックであるがゆえに歴代の相方に対して行ってきた所業に対する真摯な反省と謝罪、屈辱や嫉妬心をポジティヴなエネルギーに変えていく姿勢、相方に対する思いと関係性の変化とそれによる自身の成長、まるで優れた小説のような読後感を得られる。フィクションだとしても素晴らしい内容なのだが、これがあのテレビに出ている人気芸人の実話だというのだからさらに味わい深い。

 

baseよしもととモーニング娘。という00年代の後半に別々に好きになった2つのカルチャーが、横山玲奈と山里亮太によってクロスする快感、運命なのか偶然なのかは定かではないが、これを私はとても幸せだと思う。