「M-1グランプリ2019」ではミルクボーイをなんとなく応援していたので、優勝してとてもうれしかったのだが、それ以外でもトータル的にとても内容が充実していて、大会史上最高ではないかという声にも納得している。その後、関連するラジオ音源や動画などをいろいろ聴いたり観たりして、余韻に浸る濃度も個人的にかなりのレベルである。そして、その決定版ともいえるのが、1月11日の深夜に朝日放送テレビで放送された「M-1 アナザーストーリー」である。
関西ローカルでの放送だったような気もするこの番組はその後、GYAO!やTVerでも見逃し配信され、おそらく一時的に全国で観られるようになっている。放送の数時間後、見逃し配信で視聴したのだが、「M-1グランプリ」ファンとしてとても満足のいく内容であったのみならず、ドキュメンタリー作品としても優れ、リアルな感動をも含むものであった。
タイトルから想像ができるように、これは「M-1グランプリ」の舞台裏などを記録した映像であり、映画のメイキング映像などと似たようなものだろう。ファイナリストに密着するなどして録りためられた長時間の映像と過去のアーカイヴから選りすぐられ、最高の編集、演出がほどこされたのではないか、という気がする。要はこれを観て私は、深夜のインターネットカフェのブースで号泣していたわけである。
「M-1グランプリ」にこの年が最後の出場となった、かまいたちと和牛との関係性をあらわす数々の映像が素晴らしく、感動的である。大阪よしもとのお笑いが好きなつもりでいながら、実はかまいたちと和牛とが同期だという認識がそれほど無かった。2010年で「M-1グランプリ」が一旦、終了した頃の時点において、かまいたちはモンスターエンジン、ジャルジャル、銀シャリ、天竺鼠などと共に、関西ではすでに売れっ子という印象であった。対して、和牛はそれほどでもなく、劇場でのランクもわりと下の方だったような気がする。当時はよく歌ネタをやっていた印象が強い。それが、2015年に「M-1グランプリ」が復活して以降は、大会の常連であり、3年連続で準優勝するほどの実力を身に着けていたのである。
お互いをリスペクトし、讃え合う姿がいくつも記録されている。途中まで1位がかまいたち、2位が和牛だったところを、ミルクボーイがコーンフレークのネタで「M-1グランプリ」最高得点を叩きだし、圧倒的な1位に躍り出る。ネタ中に審査員の松本人志が「クソーおもろいな」「やべっ!」などと言っていたことを、この番組を観てはじめて知った。また、暫定ボックスにいたかまいたちの濱家隆一と和牛の水田信二は、ミルクボーイのネタが680点ぐらい行くのではないかと言い、敗者復活戦の楽屋ではマヂカルラブリーの野田クリスタルと囲碁将棋の根建太一が、100点を出す審査員がいるのではないか、というようなことを言っていた。
ミルクボーイを追った密着映像やアーカイヴは、大学生時代は駒場孝が中田カウスの物真似のようなことをやっていたり、肯定と否定とを繰り返す、松本人志が行ったり来たり漫才と評したスタイルを、プロ1年目からやっていた事実などを証明する。大学の落語研究会で知り合い、漫才師に憧れたものの、一時期は駒場孝が淡路島でのバーベキューなど、内海崇がギャンブルにハマり、漫才をサボっていた時期が実に5年ほどもあったというエピソードは、いろいろな番組で語られている。しかし、一念発起して、先輩からの飲みの誘いもすべて断り、ストイックにお笑いを追求した結果、それまで準々決勝止まりだった「M-1グランプリ」のファイナリストに初めて選ばれ、しかも優勝という、じつにおめでたいストーリーになっているのである。
この番組では、これが実態をともなったドキュメンタリー映像になっている。二人が打ち合わせをする大阪の喫茶サモア、内海崇が無料で散髪をしてもらっていたという理髪師、この方が実に男前である。自分が散髪をしているのだから絶対に優勝するというようなことを言われ、帰り道で思わず泣いてしまう内海崇には、好感度が上がるのみである。
ミルクボーイをなんとなく応援していた「とはいえ、単にネタが好きだっただけであり、メンバーの人間性についてはほとんど知らなかった。しかし、「M-1グランプリ」優勝以降、ひじょうに増えたメディア露出だとか、先日は「オールナイトニッポン」なども、可能な限り視聴しているのだが、知れば知るほど魅力的だし、いまの時代に合っているのではないかとも思える。
内海崇の自宅の壁には、いろいろな前向きな言葉を書いた紙が貼られていた。その中に、彼女を幸せにするというようなものがあったのも、また良かった。優勝後の様々なメディアで、8年付き合っている彼女がいて、収入が目標としている額に達したら結婚すると言っているのだが、その人のことなのだろう。また、「オールナイトニッポン」では、浮気は絶対にダメだと熱く語っていた。
駒場孝は結婚をしているが、帰宅できたのは優勝翌日の夜であった。出迎えた妻は、スマートフォンで録画した映像を見せた。「M-1グランプリ2019」でミルクボーイのネタに対する審査員の得点が発表され、それをテレビで観ながら大喜びする映像である。その中には、ミルクボーイのネタの中に登場する、駒場孝の「おかん」の姿もあった。これを観て駒場孝は感動して涙を流す。「よかった」という言葉がとても重い。これに寄り添う妻の姿も素晴らしく、ミルクボーイのネタに出てくるコーンフレーク、もなか、デカビタなどをまつった一角に、いつもお祈りをしていたというエピソードもすごく良かった。
内海崇は理髪店に報告に行くのだが、あの男前の理髪師は今回から料金をもらうと言って、「M-1グランプリ2019」での雄姿を誉め讃える。理髪師が内海崇を一人前の芸人として認めた瞬間であり、内海崇は髪を刈られながら嬉し泣きしてしまう。
本当に良いものを観たなという気持ちでいっぱいであり、お笑い芸人がその裏側を見せすぎるのはどうかという意見もあるだろうが、私はこういうのも込みでお笑い芸人が好きで、中でも今回のこれは最高だなと思ったのであった。
そして、ミルクボーイにはやはりどこか懐かしくもありながら、人間味のようなものが感じられ、時代が必要としているものなのかもしれない、と思ったりもする。