ベック「ハイパースペース」について。 | …

i am so disappointed.

ベックの14作目となるアルバム「ハイパースペース」が先日、リリースされた。ジャケットのアートワークでは、赤いスーパーカーのようなカッコいい車の前で、白いジャケットを着たベックが光を避けている。その上にはカタカナで「ハイパースペース」の文字が描かれている。「サーキットの狼」や「頭文字D」あたりを思わせなくもないが、実はちゃんと見たことがないのでよく分からない。レトロフューチャー感とでもいうべきものを、なにか感じる。「サーキットの狼」のプラモデルはモーター付きで400円とお買い得だったので、小学生の頃によく買った。このカタカナのセンスは、ジグ・ジグ・スパトニックだとかを思わせなくもない。

 

それはそうとして、この「ハイパースペース」というタイトルは、1979年にアタリ社が出て大ヒットしたアーケードゲーム「アステロイド」から取られているという。自機が消えた後、ランダムに選ばれた別の場所に再び現れるという機能で、日本ではワープと呼ばれていたようである。アメリカでは「スペース・インベーダー」と並ぶほどの大人気だったという。1970年生まれのベックはこれをリアルタイムで体験していると思われ、このアルバムにはやはりノスタルジートリップの要素もあるのではないかという気がしてくる。

 

最大の話題性はファレル・ウィリアムスとのコラボレーションということになる。話は1990年代の終わりからあったということなのだが、約20年越しにやっと実現したということである。あの超ポップな大ヒット曲「ハッピー」が有名なファレル・ウィリアムスとベックとの共作ともなれば、キャッチーでハイパーポップな作品になるのではと想像するのだが、実際にはそうではなく、よりミニマムなフューチャーポップというような印象である。ベックは当初、やはりファレル・ウィリアムスがプロデュースしたスヌープ・ドッグ「ドロップ・イット・ライク・イッツ・ホット」のようなものになるのではないかと思っていたようだが、ファレル・ウィリアムスからよりシンガー・ソングライターっぽい感じで、というようなことを言われ、このような作品になったということである。

 

1970年にロサンゼルスで生まれたベックは、1989年にニューヨークに移り住み、アンチ・フォークのシーンでパフォーマーとしての経験を積んだ。その後、ロサンゼルスに戻り、1993年にリリースしたシングル「ルーザー」がスラッカー世代のアンセムとしてヒットしたことにより、注目をあつめることになった。ヒップホップのビートとフォークやカントリーから影響を受けた音楽との組み合わせが、特徴的であった。1996年にリリースされたアルバム「オディレイ」はサンプリングを多様したユニークな音楽性を持ち、音楽メディアからも大絶賛された。その後、よりカントリー色を強めた「ミューテーションズ」を出したかと思えば、次作の「ミッドナイト・ヴァルチャーズ」ではプリンスからの影響も感じさせるファンク色の濃い作風と、変幻自在のスタイルで優れたポップ・アルバムの数々をリリースし続けた。2002年にリリースされた「シー・チェンジ」では、シンガー・ソングライターとしての実力を見せ、その後も様々な音楽性の作品を発表し続けるが、2014年の「モーニング・フェイズ」でグラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞、翌年の「カラーズ」も最優秀オルタナティヴ・アルバム賞、最優秀アルバム技術賞を受賞するなど、ポップ・ミュージック界のエスタブリッシュメントからも高く評価されているような状況である。

 

タイトルの「ハイパースペース」がアタリ社のアーケードゲーム「アステロイド」のいわゆるワープ機能をあらわしているように、アルバム全体に漂うのは、現在を生きることのしんどさと、そこからの逃避願望である。「アステロイド」が遊ばれていた頃に想像されていた未来とは、より夢があり、輝いていたはずなのだが、現実にその時代が訪れてみたところ、まったくそうではない。このような現実認識は、今日の時代精神に意識的なアーティストの多くに共通するものだが、それに対してどのようなアプローチを取るのかに違いが出ている。

 

このアルバムについての話題性の一つとして、コールドプレイのクリス・マーティンやスカイ・フェレイラといったアーティストのゲスト参加もある。クリス・マーティンが参加しているのは、ファレル・ウィリアムの作品ではない「ストラトスフィア」だが、1970年代半ばのラジオから流れるヒット曲のよいでありながら、未来的な雰囲気もある。現在の世界を取り巻く状況と対峙し、テクノロジーも駆使しながら、アナログ感覚というか、温かみとかやわらかさというようなものを取り戻そうとしているようにも感じる。それは加速しすぎた現代社会のある部分に対するカウンター、便利で快適にはなっているはずなのだが、幸福度はむしろ下がっているような感じを反映しているような気もする。アナログレコードやカセットテープの人気というのも、こういった気分と無関係ではないように思える。

 

 

 

 

 

 

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