イギリスの音楽賞「ヒュンダイ・マーキュリー・プライズ2019」の授賞式が先日行われ、サウスロンドン出身のヒップホップ・アーティスト、デイヴのデビュー・アルバム「サイコドラマ」が受賞した。
「マーキュリー・プライズ」は1992年に、「マーキュリー・ミュージック・プライズ」として設立された。イギリスで最も大きな音楽賞である「ブリット・アワーズ」の保守性に対抗する目的もあったと思われ、有名、無名を問わず、幅広いジャンルの作品がノミネートされるのが特徴的である。
第1回の受賞作はプライマル・スクリーム「スクリーマデリカ」、PJハーヴェイは2001年の「ストーリーズ・フロム・ザ・シティ、ストーリーズ・フロム・ザ・シー」、2011年の「レット・イングランド・シェイク」で2度、受賞している。「マーキュリー・アワーズ」には、他の音楽賞のように数多くのカテゴリーはなく、シンプルに最も優れていたアルバムのみが選出される。また、この賞にノミネートされた多くの作品は、その後、売上が増加する傾向があり、特にそれほど有名ではないアーティストにとっては影響が大きいようである。
当初はイギリスの電気通信事業者、ケーブル・アンド・ワイヤレスが保有するブランドであったマーキュリー・コミュニケーションズがスポンサーであり、賞の名前もそこから取られている。その後、テクニクスやパイオニアといった日本企業やバークレイカードなどを経て、2016年からは韓国の現代自動車がスポンサーとなっている。
今回、ノミネートされた12タイトルのアルバムもやはりバラエティーにとんでいた上、現在のイギリスの社会情勢を反映すると共に、それに対するこの賞の立ち位置を表明するようなものであった。
デイヴ「サイコドラマ」、スロウタイ「ナッシング・グレイト・アバウト・ブリテン」、リトル・シムズ「グレイ・エリア」は、いずれもイギリスの黒人アーティストによる意欲的な作品であり、現在のイギリス社会におけるリアリティー、それに対する異議申し立てを含んだものである。
デイヴのデビュー・アルバム「サイコドラマ」は2019年3月にリリースされた当時から各メディアによってひじょうに高く評価されていた上に、全英アルバム・チャートでも1位になるという成功をおさめていた。コンセプト・アルバムであるこの作品は、デイヴの個人的な精神的な問題や家庭環境についてのリアルな告白、社会問題に対する異議申し立てが卓越したスキルによって表現されたものである。
受賞スピーチにおいて、デイヴは母親をステージ上に招き、関係者に対する感謝、服役中であり、この作品に強い影響をあたえた兄に対する思いを述べた。
スロウタイはパフォーマンスの冒頭で「ファック・ボリス!」と、ボリス・ジョンソン首相の政策に対する怒りをシャウトし、その後も圧倒的なステージを見せていた。これを公共放送局であるBBCが放送し、YouTubeのチャンネルで動画を公開しているのだから、じつに健全だということができる。
インディー・ロックからは、The 1975「ネット上の人間関係についての簡単な調査」、ブラック・ミディ「シュラゲンハイム」、フォールズ「エヴリシング・ノット・セイヴド・ウィル・ビー・ロストPart1」、ファウンテインズ・D.C.「ドッグレル」、アイドルズ「ジョイ・アズ・アン・アクト・オブ・レジスタンス」といった、いずれもひじょうに評価の高いアルバムがノミネートされている。
他にはオルタナティヴ・ポップのアンナ・カルヴィ「ハンター」、フォーク・ロックのケイト・ル・ボン「リワード」、ソウル/R&Bのネイオ「サターン」、新世代ジャズのシード・アンサンブル「ドリフトグラス」がノミネートされている。
現政権が理想としていると思われるようなかたちとは異なり、実際には多様性に満ちたイギリスという国の魅力を音楽作品のノミネートという方法で表現したかのようである。また、ノミネートされた12作のアルバムのうち、約4割にあたる5作が女性アーティスト、または多くの女性メンバーを含むグループによる作品だという点も素晴らしい。
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