アイドルラップグループ、lyrical schoolが最新アルバム「BE KIND REWIND」をリリースした。前身となるグループが活動を開始したのは2010年だが、minan、hime、hinako、yuu、risanoの5人組という現在の編成になったのは2017年からである。現メンバーでのオリジナルアルバムは2018年の「WORLD'S END」に続き、これが2作目となる。
タイトルの「BE KIND REWIND」とは、「巻き戻してお返しください」のことらしい。いまから20年近く前、DVDはまだそれほど普及していなく、多くの人々はビデオカセットで映像を楽しんでいた。家庭や部屋にはビデオデッキがあり、街にはレンタルビデオショップがあった。ビデオカセットを最後まで観終えると、またはじめから観るためには巻き戻すことが必要となる。ビデオデッキの巻き戻しボタンを押すと、およそ数分間で完了したと記憶している。観終わった後でこれをやってから返すと、レンタルビデオショップとしてはそのまま次の客に貸すことができるので、ひじょうに助かる。しかし、巻き戻さずに返却される場合もけして少なくはないため、レンタルビデオショップのカウンター内には、巻き戻し機(リワインダー)が設置されていたのだという。
「BE KIND REWIND」からの先行トラックとして発表された楽曲のうちの1つ、「LAST DANCE」のミュージックビデオはビデオカセットの映像を思わせる処理と、古今東西の様々な映画に対するオマージュを含んだ、とても楽しいものであった。ビデオカセットの頃を思わせる映像というのは、ある種のノスタルジーを喚起するということもあるだろうが、わりと流行りなのかもしれない。アイドルポップス全般について、まったく明るくはない私だが、数年前にリリースされたテンテンコ「Good bye, Good girl.」や、最近ではハロー!プロジェクトの新人グループ、BEYOOOOONDS「Go Waist」のミュージックビデオにも、それを感じたものである。
lyrical schoolの音楽はヒップホップを基本としているが、言葉や音の情報量がすさまじく、それがとても魅力的である。アルバムのジャケットに江口寿史のイラストを使ったり、Tシャツやキャップといったグッズに関してもひじょうにスタイリッシュなものが多い。元々は武蔵野美術大学の学生だったというプロデューサーらが都市をテーマにして発行していたフリーペーパーの企画として立ち上げられたグループだというのも、肯ける話である。しかし、現在のグループの魅力は、こういったコンセプトに対し、各メンバーのキャラクターやスキルが拮抗しうる強度を持っていて、それゆえに生じる化学反応といったところだろうか。コンセプチュアルなようでいて、とても自由なイメージがあり、それは録音された作品やライブパフォーマンスにもじゅうぶんにあらわれている。
スキットと呼ばれる寸劇的なものがところどころに入るのは、ヒップホップのアルバムらしいところなのだが、オープニングは海外のラジオ番組を思わせるところがあり、そして、ビデオカセットを再生する時のような音も聴こえる。1980年代の、ヒップホップがポップ・ミュージック界における新しいアートフォームとして、とてもフレッシュだった頃を思わせるブレイクビーツ感覚のアイドルラップが、lyrical schoolのいくつかの曲には感じられ、今回、アルバムのはじめの方に収録された「Over Dubbing」もそのようなタイプの曲である。ビデオカセットに新しく録画すると、前に録画されていた映像は消えてしまう、それが上書きである。これを過去と現在、未来の話につなげているわけである。
インターネットがまだそれほど普及していなかった時代、レンタルビデオショップこそが、見たことのない国や時代への入口でもあり、それは夢にあふれ、わくわくする空間だった。ような気もするのだが、じつのところはっきりとは覚えていないし、必要以上に思い出を美化してしまっているような気もする。ではあるのだが、「BE KIND REWIND」におけるレンタルビデオとは、おそらくそういった感覚を象徴するものなのではないか、という気はする。
ノスタルジーは、まだ20代であるlyrical schoolにももちろんある。それがあらわれているのが「大人になっても」であり、彼女たちが小学生ぐらいだったと思われる時代のあれこれが歌詞に埋め込まれているが、その感覚は世代を問わず理解ができる普遍的なものではないだろうか。
lyrical schoolといえば、夏についての曲がとても多い印象がある。前作の「WORLD'S END」にも、現体制になってはじめてのシングルでもあったサマーアンセム「夏休みのBABY」や、スチャダラパーやかせきさいだぁによって書かれた「常夏リターン」をはじめ、夏を感じさせる曲がひじょうに多かった。「WORLD'S END」がリリースされたのは2018年6月19日であり、これから夏がはじまるというわくわく感にもぴったりだったし、実際にあの夏のBGMとして、個人的にも強く印象に残っている。しかし、今回、「BE KIND REWIND」がリリースされたのは2019年9月11日、もう夏も終わりである。ここにきて夏のイメージからの脱却をも図っているのだろうかと思いきや、昨年の夏に発表され、ライブではお馴染みだった「秒で終わる夏」が、わりとはじめの方に収録されている。続く「ドゥワチャライク」も、「夏真っ盛りでフレンズとピース」ではじまる。
つまり、これは私が中学生の頃に読んでいた片岡義男の小説の表紙に印刷されていた、「夏は単なる季節ではない。それは心の状態だ」ということだろうか。
歌詞における情報量は今回もすさまじく、「トゥルー・ロマンス」のクリスチャン・スレーターからルー大柴やグッチ裕三、「上野発の夜行列車」なども登場する。しかし、それはナンセンスなおもしろネタにとどまらず、ある状態をリリカルかつシリアスにあらわす上での必然性を帯びているようにも感じられる。
「LAST DANCE」には「いつか終わる時のなかで 少しだけ君と出会ったこと」という、フレーズがある。ここでは永遠はあらかじめ信じられてはいなく、いずれ終わってしまう現実に対する認識があり、だからこそ「楽しまなきゃ今夜」が切なくも力強い説得力を持っているともいえる。ここでいう最後のダンスとは、いつか終わる人生において、日々、行っていくひとつひとつの事柄のことをいっているように、lyrical schoolの大半のメンバーの倍以上の年齢である私には思える。もちろん深読みである可能性はひじょうに高いのだが、それゆえにこの曲を歌い、そしてミュージックビデオの中で演技をするlyrical schoolのメンバーたちの姿に、私はグッとくるのである。
そして、これまでも素晴らしいポップ・ミュージックをたくさん聴かせてくれたlyrical schoolにとっての新機軸だと特に思えるのが、今年のはじめにシングルでもリリースされた「Tokyo Burning」である。アイドルグループのシングルとしてはひじょうに異質にも感じられるこの曲は、わりと実験的なトラックにのせて、「眠らない街で 今夜も二人で 焦げてしまいそうなくらい熱く抱いて」と、ストレートな愛欲が歌われている。この感情をおそらく、多くの人々が知っているし、覚えているのだろうし、とどのつまり生きるとはそのような状態を求め続けたり、思い返したりすることなのかもしれない、と思わされる。
「Fast forward rewind play with you」
早送りをしたり巻き戻したり、再生をしたりする、人生をビデオテープにたとえているようでもある、アルバムの最後に収録された「REW) PLAY (FF」ではこのように歌われ、「to be continued...」で終わっているようにも聴こえる。
NONA REEVESの人気曲を元にしていて、Negiccoファンならば思わず「Oh! 新潟 超いいな アイドルとかだナァ」と口ずさんでしまうがちな「LOVE TOGETHER RAP」や、キュートでポップな「パジャマパーティー」など、ポップアルバムとしても、とてもバラエティーにとんだ楽しい作品になっている。
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