ごぼ天うどんについて。 | …

i am so disapointed.

大規模なプロジェクトにかかわっているため、自宅に数日間、帰れないこともあるのだが、先日、近所のスーパーのアプリをiPhoneで見ていると、全国うまいもの市のようなやつで、九州のカップ麺を特集した企画をまたやっていたので、行けないことをとても残念に思った。カップ麺ばかり食べることは必ずしも体に良くはないので、なるべく控えようと思ってはいるのだが、サンポー焼豚ラーメンや味のマルタイの長崎ちゃんぽんなど、パッケージを見ただけで気分が盛り上がってしまう。

 

しかし、やっと帰宅できた日の夜、そのスーパーに行くと、企画そのものは終わっていたのだが、マルちゃんバリうまごぼ天うどんだけ残っていたので、もちろん買って帰ったのだった。パッケージデザインは赤いきつねうどんや緑のたぬき天そばなどのシリーズとよく似ているように思えるのだが、福岡ソフトバンクホークスのマスコットキャラクターとロゴや、「好きばい博多 太かごぼ天」という方言によるコピーがプリントされている。

 

翌日、仕事の休憩時間に食べようと思い、持って行ったのだが、これだけでは足りないのではないかとか、博多うどんといえばやはりかしわ飯のおにぎりだろうと思い、セブンイレブンでそれに近いものを買った。カップうどんではあったものの、やはりごぼ天うどんは素晴らしいものだと思い、そうなると店で本格的なやつも食べたくなった。

 

1997年の夏、私は生まれてはじめて博多に行った。現在の妻にあたる人の家に、挨拶に行くためである。そこは博多ではなくて、小倉からローカル線に乗って、下車した駅からタクシーで数十分のところにあったのだが、せっかくなので博多にも行ってみようと思ったのだ。私は皿うどんが大好きだったので、小倉についてすぐにまずはそれを食べたのだが、そのおいしさに感動し、翌日、博多ではやはり豚骨ラーメンだろうということで、キャナルシティで食べたのだった。さて、次になにを食べようかと思ったのだが、咄嗟には思いつかなかったところ、現在の妻にあたる人はうどんが食べたいという。当時の私には博多にうどんのイメージがまったく無かったので、せっかく博多まで来たのだからうどんとかどこでも食べられるものではなく、もっとご当地感が感じられるものが良いのではないかとも思ったのだが、他になにも思いつかなかったので、とりあえずそれを食べることにした。特にこだわりの有名店というわけでもなく、商業施設のレストランフロアにあるような店だったと思う。

 

さつま揚げかなにかが載ったものを注文したと思うのだが、待っている間、隣の老夫婦がなにも載っていない、いわゆる素うどんにネギをたっぷり載せて、それだけ食べて、立ち去っていった。それを私はとてもカッコよく思った。私たちが注文したものが届き、食べてみると、まず透き通ったスープのおいしさに驚き、東京のうどんとはまったく違うのだなと感じた。そして、特にトッピングなど載せず、いわゆる素うどんにたっぷりのネギだけを載せて食べる、先ほどの老夫婦のような食べ方の方が、うどんやスープ本来の味がきわだって良いのかもしれない、とも思った。

 

それから、新宿の紀伊國屋書店の地下にあった博多うどんの店に行くようになった。どんたくうどんとかいう名前のメニューがあったような気がする。丸い形をしたさつま揚げのことを丸天と呼ぶらしく、博多うどんのトッピングとしてはわりとポピュラーなのだということも知った。というか、いわゆるさつま揚げのことを天ぷらと呼ぶ場合があることも、それまでは知らなかったのである。

 

ところで、1980年代の「宝島」読者としては、ごぼ天といえばカネテツデリカフーズの「啓蒙かまぼこ新聞」に連載されていた、3コマ漫画を思い出してしまう。コピーライター時代の中島らもが手がけていた広告ページで、関西では「プレイガイドジャーナル」「ぴあ」で「微笑家族」というのも連載されていたようだ。カネテツデリカフーズでいうところのごぼ天というのも、ごぼうを練り込んだかまぼこのことである。

 

小倉の商店街ではこのようなかまぼこ、さつま揚げのようなものを、その場で揚げて売っている店があり、種類もやたらとたくさんあった。それらのうちのいくつかを買って食べてみたところ、これがたまらなくおいしいのだった。そもそもさつま揚げは好きだったのだが、この呼び名はけして全国区ではなく、揚げかまぼこと呼ぶのがより正確なようだ。そのうち、薩摩地方でつくられるものを、関東地方ではさつま揚げと呼ぶようである。

 

それはそうとして、博多うどんのトッピングとしてポピュラーだというごぼう天を載せたごぼ天うどんだが、ここでいうごぼう天とは、ごぼうを練り込んだかまぼこのことではなく、ごぼうに衣をつけて油で揚げた、かまぼこではない方の天ぷらである。

 

紀伊國屋書店の地下にあった博多うどん店にごぼ天うどんがあったのかどうかは覚えていないのだが、注文をしたことはおそらく一度もない。私がごぼ天うどんの存在を知ったのがいつだったのかもよく覚えていないのだが、秋葉原の方にそれを食べられる店があって、そのうちに行きたいと思っていたところ、引っ越した世田谷区の街にも同じ系列の店があることを知った。引っ越したその日に早速行ってみたのだが、これが驚きのおいしさであった。湖池屋カラムーチョのコピーで「ポテトが辛くてなぜおいしい!」というのがあるが、「うどんにごぼう天でなぜおいしい!」という感じであった。九州の人たちにとってはなにをいまさらという話だとは思うのだが、うどんのトッピングといえば油揚げや海老天、牛肉などが思い浮かび、ごぼう天という発想にはなかなかならないし、実際に博多うどん以外ではほとんど見かけないのではないだろうか。

 

なぜ、博多うどんだけにごぼう天がよく載っているのかというと、それは鶏肉を食べる文化が根強く、筑前煮がそうであるように、鶏肉とごぼうはとてもよく合うので、ごぼうもよく食べられるようになった、という説があるらしい。そうなると、博多うどんのサイドメニューとして、鶏肉が入った味飯である、かしわ飯のおにぎりがポピュラーであることともつながってくる。

 

ごぼ天うどんをはじめて発案したのは、1897年創業の乙ちゃんうどんだといわれているようだが、この店は太平洋戦争中になくなってしまったのだという。辛子明太子のふくやがこの味を再現し、元祖ごぼ天うどんとして物産展で販売したりもしていたようである。

 

今日、東京でごぼ天うどんが食べられる店を検索するといくつか出てきて、そのうちの1つは先ほども挙げた、私の自宅にわりと近くにある店である。豊前うどんの武膳という店で、他には神田小川町にもある。祖師ヶ谷大蔵にあった店は、数年前に閉店してしまった。博多ではなく、北九州の方が発祥である。ここのごぼ天うどんは、かき揚げ状になったものが丼からはみ出す、見た目にもひじょうにインパクトが強いものである。ふくやが復刻した元祖ごぼ天うどんの写真を見ると、スティック状のごぼう天が3本載っている。また、マルちゃんのカップうどん、バリうまごぼ天うどんには、小ぶりのごぼう天がいくつか入っている。ごぼ天うどんといっても、いろいろあるようだ。高田馬場にある大地のうどんは本店が福岡のようでとても気になるのだが、ここのごぼ天はかき揚げ状のようである。

 

やはり都心の方にある店が多いのだが、私は東京から少し離れたところで仕事をしていることが多く、アクセスすることがなかなか難しい。以前は東京駅の近くにある、丼拓という博多うどん店にも行ったことがある。博多うどんの特徴といえば、まずあの透き通ったスープなのだが、麺がやわらかいということも挙げられる。讃岐うどんのブームによって、うどんとはコシがある方がおいしいのだというイメージがなんとなくありがちだが、博多うどんにはコシがなく、むしろコシがあってはいけない、というようなことを、「秘密のケンミンSHOW」に出ていた人が言っていたような気がする。この丼拓という店では、基本メニューとしては東京の客に合わせて麺を硬めにゆでているのだが、50円を追加すると、本場に近いやわらかい麺で食べられるようになっていたと思う。

 

私が仕事をしているところのわりと近くで、ごぼ天うどんを食べられる店が1軒あった。しかも、じつは以前から一度は行ってみたいと思っていた店である。九州では有名なチェーン店だというウエストがそれで、東京にはここ1軒だけしかない。町田店ということだが、JRや小田急の町田駅からはかなり遠く、バスでしばらく行ったところにある。相模原市内のとある停留所から神奈川中央交通バスに乗り、桜美林学園前で降りた。Googleマップのアプリに表示されているように信号を渡って、左折した。右手にはマクドナルドやステーキのどん、左手には忠生都営住宅があり、蝉がけたたましく鳴いている。やがて、「ウエスト」という赤い看板が見えてきた。実物を見るのははじめてであり、早くも軽い興奮を覚えた。

 

大きな看板には、「生そば 博多うどん」とある。ウエスト町田店についてのレビューやブログをいろいろ読んでもいたのだが、東京では博多うどん中心ではなかなか厳しいらしく、そばを中心に据えたメニューになっているとも読んだような気がする。しかし、実際には九州にも生そばを中心とした店はあるらしく、町田店とよく似た看板が出されているようだ。しかし、私が見た写真では、「うどん」の前に「博多」という文字はなかった。これは九州でうどんといえば博多うどんであるのに対し、東京では通常のスープの色も味も濃いうどんとはかなり異なっていることに対しての配慮であろう。

 

また、そばに限り、3玉まで同一価格という素晴らしいサービスを行っているが、これも町田店に限ったことではなく、九州の店でも実施しているようだ。コストパフォーマンス的にはもちろんそばの方がお得なのだろうが、ごぼ天うどんを食べるためにわざわざバスに乗って来たのであり、やはりそれを注文する。透き通ったスープは紛れもない博多うどんであり、麺の硬さやごぼう天の具合も理想的である。ウエストのメニューではごぼ天うどんではなく、ごぼう天うどんとなっている。スープがやはりとてつもなくおいしく、すべて飲み干してしまうレベルであった。ごぼう天の風味と食感、食べすすむにつれ、ごぼう天の油がスープにブレンドされ、ナチュラルに味わいが変化していくのも、また楽しい。このクオリティーで、税込み520円という安さである。もっと都心にもあればいいのに、と強く思ってもみたのだが、最近は都心まで行く機会もほとんど無いので、駅から歩いて行ける距離にあればいいのに、ぐらいに落ち着いたのだった。

 

店内には博多もつ鍋、1人前300円という告知もあった。夜は生そば居酒屋でもあるらしく、生ビール1杯380円、ハイボール1杯320円、おつまみ的なメニューもわりと充実しているようであった。1つ残念だと思ったのは、九州の店にはあるというかしわ飯のおにぎりがメニューに無かったことである。高菜葉巻おにぎりと白おにぎりが町田店のメニューには載っていたのだが、九州の店ではこれに加えて、かしわおにぎり、いなりがあるようなのだ。レジのところでは、持ち帰り用の家庭でつくる博多うどんも販売されていた。

 

ウエストは元々、うどんやそばの専門店だったわけではなく、様々なタイプの飲食店をあつめた「ウエスト味の街」として営業をしていたようである。創業は1966年で、九州ではテレビCMも放映されているという。現在も焼肉、中国料理、カフェなどの店舗を経営し、グループ店には生そばあずま、焼肉AZUMA、立喰そば酒場すじ一などがあるようだ。

 

福岡のうどん店チェーンとしては、ウエストの他に資さんうどん、牧のうどんというのも有名らしく、特に食べても減らないなどといわれているらしい、牧のうどんには底知れぬ迫力を感じる。また、資さんはおはぎも名物ということで、九州うどん文化への興味は尽きないのであった。