プリンスの未発表音源などを収録したアルバム「オリジナルズ」が誕生日である6月7日にストリーミングサービスのTIDAL限定で配信されたが、その後、他のサービスやCDでも聴けるようになった。プリンスが他のアーティストに提供した曲のデモ音源を収録したもので、全15曲中、1990年にシニード・オコナーのバージョンが大ヒットした「愛の哀しみ」を除く14曲がこのアルバムではじめて公開されたものである。
日本ではシンガー・ソングライターが他のアーティストやアイドル歌手に曲を提供する場合が多く、それらをつくった本人が歌うセルフ・カバー・アルバムというのが話題になったりもする。有名なものでは竹内まりや「リクエスト」、井上陽水「9.5カラット」といった大ヒットアルバムがある。
プリンスは1970年代の後半にデビューし、音楽通の間では人気のあるアーティストではあったが、1982年にリリースしたアルバム「1999」から、翌年に「リトル・レッド・コルヴェット」がヒットしたあたりから一般的にも本格的に注目されはじめ、さらに翌年、つまり1984年の「パープル・レイン」で大ブレイクを果たしたのであった。それからプリンスはしばらくの間、毎年ニュー・アルバムをリリースし続けるのだが、ある時期まではそれ自体がポップ・ミュージック界の大事件になるぐらいの影響力を持っていた。実際にその頃のプリンスの作品は、革新的でありながら大衆的であるという、ポップ・ミュージックとしてひじょうに理想的なもののように思えた。
そして、プリンス以外のアーティストによって歌われたプリンスの曲も、当時のヒットチャートにはよく登場した。特によく覚えているのは「パープル・レイン」がリリースされた1984年にヒットしたチャカ・カーン「フィール・フォー・ユー」だが、これはプリンスの過去のアルバムに収録されていた曲をカバーしたものであり、書き下ろされたわけではない。もちろんプリンスによるオリジナルはすでにリリースされていたため、今回のアルバムには収録されていない。
ザ・タイム、シーラ・E、アポロニア6といったいわゆるプリンスファミリーのアーティストの曲以外だと、バングルス「マニック・マンデー」、シーナ・イーストン「シュガー・ウォールズ」などが印象に残っている。シーナ・イーストンは後にアルバム「サイン・オブ・ザ・タイムズ」にも参加していたが、「オリジナルズ」に「シュガー・ウォールズ」は収録されていない。
アルバムを再生すると、アポロニア6に提供した「セックス・シューター」、そして、ザ・タイムに提供した「ジャングル・ラヴ」という親しみのある2曲が続けて流れる。いずれも「パープル・レイン」のサウンドトラックには収録されていなかったが、映画には使われていた曲である。まったく違和感がないというか、これがデモテープではなく、本当のオリジナルだといわれても信じられるレベルのクオリティーである。岡村靖幸の「いじわる」「聖書(バイブル)」などを1988年にはじめて聴いた時にプリンスからの影響を強く感じたのだが、具体的にどの作品と言い切ることができなかった。今回、「セックス・シューター」のプリンス自身によるデモ音源を聴き、それに近いものを感じた。プリンスの作品におけるセクシュアリティーというのは、コミュニケーションの希求であるということは、当時からよく言われていたことだが、そういった点においても、岡村靖幸はプリンスから影響を受けていたのではないかと思える。
続いて、バングルスによって1986年にヒットした「マニック・マンデー」である。元々はアポロニア6のために書いた曲らしいのだが、バングルスにとってはじめての大きなヒットとなり、全米シングルチャートで最高2位を記録した。その時の1位は、プリンス&ザ・レヴォリューションの「キッス」であった。この曲は大好きで、当時、7インチのシングルも買ってよく聴いていた。あまりにもバングルスの印象が強いため、「オリジナルズ」に収録されたプリンスのデモでは、ヴォーカルが低音すぎるように感じられる。この時点でこれだけの有名曲ばかりということは、まさにヒットパレード状態なのではないか、というか、プリンスが他のアーティストに提供したヒット曲というのはそんなにも数多くあっただろうか、などと思っていたところ、そこからは聴き覚えのない曲が続いた。
私は特に1980年代、プリンスが大好きで、ニュー・アルバムがリリースされるのをいつも楽しみにしていたのだが、プリンスファミリーと呼ばれるアーティストたちのアルバムまで熱心に聴くほどではなかった。調べてみたところ、アポロニア6やシーラ・Eといったプリンスファミリーのアーティストに提供した曲が多い。ケニー・ロジャースに提供したという曲は、おそらく知らなかった。しかし、これはこれで純粋にプリンスの未発表曲として楽しむことができた。キーボードとギターソロと、もちろんヴォーカルにひじょうに特徴があるのだが、様々なタイプの曲がありながら、プリンス以外の何者でもないという記名性があり、これは2重の意味で「オリジナルズ」だなと思ったのである。
「ホリー・ロック」はヒップホップをテーマにした映画「クラッシュ・グルーヴ」のサウンドトラックに収録された、シーラ・Eの曲のオリジナルデモのようだ。そして、シーラ・Eといえば石川秀美「もっと接近しましょ」にも強い影響をあたえた「グラマラス・ライフ」だが、このオリジナルも収録されていてカッコいい。そして、シニード・オコナーが大ヒットさせた「愛の哀しみ」はこのアルバムに収録された唯一の既発曲だが、これが最後に収録されたことにより、アルバムとしてひじょうに内容が濃いものになっているような気がする。
ミーハーな音楽ファンであり、特定のアーティストについて掘り下げて聴くよりも、いろいろなアーティストの良いところをたくさん聴きたいタイプのリスナーであるため、こういった未発表音源集のようなものを熱心に聴くことはあまりしないのだが、これは軽くチェックだけはしておこうぐらいの気分で聴いたわりにはひじょうに内容が良く、大満足であった。
それにしても、いまから35年前、1984年といえばブルース・スプリングスティーン「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」、プリンス&ザ・レヴォリューション「パープル・レイン」、マドンナ「ライク・ア・ヴァージン」がリリースされた年でもあるが、ブルース・スプリングスティーンとマドンナのニュー・アルバムがリリースされたのと同じ月にプリンスのこのようなアルバムも出るというのが、なんだか感慨深いのである。
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