ベックのアルバム「オディレイ」は、1996年6月18日にリリースされたようだ。ブリットポップブームのピークだったともいわれるオアシスのネブワース公演が行われたこの年、「NME」が年間ベスト・アルバムに選んだのはこの作品であった。その後も様々なメディアによる歴代ベスト・アルバム的なリストに選ばれていることが多いこのアルバムだが、当時のアルバム・チャートにおいては全米で16位、全英で17位と、それほど爆発的にヒットしたわけでもなければ、意外にもあまり売れていなかったというほどでもない、微妙に絶妙な状態であった。
ベックの名前を世に知らしめたのは、「オディレイ」の2年前、1994年にリリースされたシングル「ルーザー」のヒットであろう。当時、私が付き合っていた女子大学生がこの曲が収録されたアルバム「メロウ・ゴールド」のCDを持っていて、部屋でよく流していた。ブラーが「ガールズ&ボーイズ」をリリースしたのと、ほぼ同じ時期だったような気がする。ヒップホップ的なブレイクビーツにのせたフォーキーなサウンドにのせて、脱力気味に歌われる、俺は負け犬、どうして俺を殺さないんだ、というような歌詞が印象的であり、ニルヴァーナ以降のグランジ・ロックの時代感覚にもマッチしていたような気がする。全米シングル・チャートで最高10位というのは、このようなタイプの音楽としてはかなりのヒットだったといえるだろう。
私も「ルーザー」のCDシングルだけは買って持っていたのだが、アルバム全体は当時の私の趣味嗜好とはあまり合わず、買っていなかった。なにせオアシスがデビュー・アルバム、ブラーが「パークライフ」、スウェードが「ドッグ・マン・スター」、マニック・ストリート・プリーチャーズが「ホーリー・バイブル」をリリースした年であり、これ以外にも聴くべき音楽はたくさんあったのである。
「オディレイ」から最初にシングル・カットされた「ホエア・イッツ・アット」は、「ルーザー」ほどヒットしなかった。調べてみたところ、全米シングル・チャートでは最高61位、全英では35位ということである。この曲のミュージック・ビデオを、おそらくフジテレビの「BEAT UK」で観た。ヒップホップみたいでカッコいいと思った。「ルーザー」もまた、オルタナティヴ・ロックなのにビートがヒップホップ的なところが良いと思ったのだが、「ホエア・イッツ・アット」では、よりヒップホップ度が高まっているように感じられた。それも当時、流行っていたヒップホップというよりは、最新型のポップ・ミュージックとしてロックやポップスのファンにも認知されはじめた、1980年代のヒップホップのような感じである。
「2ターンテーブル&マイクロフォン」というフレーズ、また、ミュージックビデオではワイシャツにネクタイ、サングラスのベックが簡素な野外ステージのようなものの上で歌っているのだが、その後ろで男たちがブレイクダンスのようなものをスローモーションで踊っている。サウンドがエレクトロ風になるところも、どこか懐かしいけれども新しさが感じられた。後半ではカウボーイ風の格好をした人たちなどが、ミラーボールの下でベックの演奏に合わせて踊ったりもする。まったくもってよく意味は分からないのだが、このユーモアのセンスはなかなか好きだと思えた。ビースティ・ボーイズにも通じるトレンディーなクールネスも感じられ、とりあえずこの曲が収録された「オディレイ」のCDは買った。
カントリーやフォークに影響を受けたような音楽性は以前からなのだが、ヒップホップやダンス・ミュージックからの影響がさらに強く感じられ、最新型のハイブリット・ポップとして、ひじょうに魅力的だと思えた。「ホエア・イッツ・アット」の次にシングル・カットされたのはアルバムの1曲目に収録された「デヴィルズ・ヘアカット」だったのだが、やはりおそらく「BEAT UK」で観たミュージックビデオではベックが大きなステレオラジカセを持って街を歩いていて、やはりこのセンスはたまらなく好きだと思えたのであった。
その後もベックは長きにわたって、様々なタイプの作品を発表しながら、高いクオリティーを保っていて、私もだいたいは聴いてわりと気に入っているのだが、やはりこのアルバムを最も気に入っている。
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