ザ・スタイル・カウンシル「アワ・フェイヴァリット・ショップ」について。 | …

i am so disappointed.

ザ・スタイル・カウンシルにとって2枚目のアルバムとなる「アワ・フェイヴァリット・ショップ」がリリースされたのは、1985年6月8日のことである。当時、池袋パルコにあったオンステージヤマノというレコード店で、私は入荷したばかりだと思われるこのアルバムを見つけ、すぐに買ったのだった。東京で一人暮らしをはじめてから2ヶ月と少しが過ぎた頃で、海外で新しくリリースされたレコードがすぐに買えることに、東京はやはりすごいところだなと感激したことを覚えている。

 

ザ・スタイル・カウンシルは、ザ・ジャムを解散したポール・ウェラーによって、1982年の暮れに結成されたバンドである。ザ・ジャムは今日ではモッズ・リヴァイヴァルの中心的なバンドとして認知されているようだが、当時の日本の音楽メディアではセックス・ピストルズ、ザ・クラシュと並ぶパンク・バンドとして紹介されていたような気がする。もしかするとそうでもなかったような気もするが、少なくとも私はそう認識していた。デビューした時にまだ10代だったポール・ウェラーの、怒れる若者としてのイメージが先行していたような記憶もある。

 

とはいえ、しばらくの間、ザ・ジャムの音楽は聴いたことがなかった。私が洋楽を聴きはじめてからしばらくは、全米ヒット・チャートを指標としていたようなところがあり、ザ・ジャムの曲はアメリカではまったくヒットしていなかったので、聴くきっかけにも巡り合えなかったのだ。土曜の深夜にアールエフ・ラジオ日本の「全米トップ40」を聴きながらいつの間にか寝ていて、真夜中に目覚めると大貫憲章が出演していた「全英トップ20」になっていた。そのCMで、ザ・ジャムの「悪意という名の街」をほんの一部ではあるが、はじめて聴いた。想像していたよりもポップだと思ったし、オルガンのような音色がかなり気に入った。

 

ザ・ジャムのイギリスでの人気はひじょうに高く、シングルが全英チャートの1位になったり、テレビの音楽番組にもよく出演していたようだ。そんな人気の絶頂期にザ・ジャムは解散を表明し、これは大きな話題になった。当時、購読していた「ミュージック・マガジン」でも大きく取り上げられていて、ザ・ジャムというバンドは全米ヒット・チャートにはまったく登場しないが、影響力の強いバンドだったのだな、と思ったのであった。

 

日曜の午後6時からNHK-FMで放送されていた「リクエストコーナー」というまったくなんの捻りもないタイトルを持つ番組は、中学生や高校生だった頃の私にとってはひじょうに重要であり、アメリカやイギリスのヒット・チャートに入った曲がほとんどすべて、ノーカットでかかるという素晴らしいものであった。この番組で全英チャートでヒット中だという、ザ・スタイル・カウンシルの「ロング・ホット・サマー」を聴いた。モダンなソウル・ミュージックを感じさせるこの曲はわりと好みではあったが、ものすごく好きになるというほどでもなかった。ポール・ウェラーがキーボーディストのミック・タルボットと組んだザ・スタイル・カウンシルは、ザ・ジャムと比べると、よりソウル・ミュージックやジャズからの影響が強く感じられる音楽をやっていた。ザ・ジャム時代のファンからは、賛否両論があったようである。

 

1984年の春にやはり「リクエストコーナー」で、ザ・スタイル・カウンシルの「マイ・エヴァ・チェンジング・ムーズ」がかかった。この少し前に友人からアズテック・カメラ「ハイ・ランド、ハード・レイン」のレコードを借りて、こういうアコースティックな感じのやつが良いなと思っていたのだが、この曲には同じようなテイストを、さらにポップでキャッチーにしたような雰囲気があり、すぐに気に入ったのであった。録音したカセット・テープを何度も繰り返し聴いて、ついにこの曲が収録されているはずのアルバム「カフェ・ブリュ」を買った。確かに「マイ・エヴァ・チェンジング・ムーズ」は収録されていたのだが、「リクエストコーナー」でかかったのとは異なる、ピアノ弾き語りのようなヴァージョンであった。しかし、これはこれで良かったし、アルバム全体がバラエティーにとんでいながらものすごくおしゃれで聴きやすく、それでいて怒りも感じられるようなもので、気に入って何度も聴いていた。「マイ・エヴァ・チェンジング・ムーズ」は全米シングル・チャートでも29位まで上がって、ザ・ジャムの頃よりもヒットするという結果になった。

 

「カフェ・ブリュ」は日本でもかなり人気があった。といっても、マイケル・ジャクソンの「スリラー」のようにものすごく売れたということではなく、旭川の高校生だった私は実際に見たことがない、業界人やファッション関係者といった、好感度人間たちに受けていたような印象がある。シャーデーやマット・ビアンコといった、ジャズに影響を受けたポップスがイギリスでは流行していたこともあり、その流れで語られることもあったような気がする。ザ・スタイル・カウンシルの音楽はおしゃれな音楽にのせて、政治的なメッセージなどが歌われているというところが特徴だったのだが、少なくとも日本においてはおしゃれアイテムとして消費されていた印象があるし、当時の私もおそらくそのように聴いていたはずである。「カフェ・ブリュ」の後にシングル「シャウト・トゥ・ザ・トップ」がリリースされ、これも「リクエストコーナー」で聴いたのだったと思う。

 

池袋のオンステージヤマノで買った「アワ・フェイヴァリット・ショップ」のレコードを、千石の大橋荘に持ち帰った。レコードプレイヤーに載せて、針を落とすと、接続したラジカセのスピーカーから小さく音が出た。大橋荘は壁が薄かったので、ステレオの持ち込みが禁止されていた。後日、世田谷区に住んでいた友人の部屋に他のレコードと一緒に持っていき、カセットテープにダビングしてもらった。それを池袋のビックカメラで買ったウォークマンで聴きながら、予備校に通ったりバスの車窓から東京の街をながめたりしていた。

 

先行シングルの「タンブリング・ダウン」は、パンク・ロック的でもあり、ザ・ジャムの音楽をも思い起こさせるものだったが、アルバム全体としては「カフェ・ブリュ」と比べ、より整理された印象があるが、楽曲のクオリティーは高まっていると感じた。全英アルバム・チャートでも、ザ・スタイル・カウンシルとしては初の1位に輝いた。これもまた、日本ではおしゃれアイテムとして消費されていたような印象があるし、実際に私もそうしていたのではないかと思う。タイトルがあらわすように、お気に入りのものばかりを置いたセレクト・ショップのようなところにいるポール・ウェラーとミック・タルボットが写されたアルバムジャケットもかなり良かった。

 

しかし、このアルバムもやはり歌詞に込められたメッセージがじつはひじょうに重要であり、音楽がより洗練された分、その効き目はさらに強まっているようでもある。サッチャー政権下のイギリスにおける社会問題がおもに取り上げられていて、失業や貧困という問題は、当時のイギリス国民にとっては切実なものだったのであろう。当時、イギリスのポップ・ミュージックを好んでよく聴いていたし、音楽雑誌のインタヴューなども読んでいたのだが、サッチャー政権に対する批判を多くのアーティストが行っていた。これについてはよく感覚が分からなかったのだが、現在の日本においてはもちろんそれがよく分かる。

 

経済的格差が広がり、家計を支えるには遠くに働きに出なければいけない。これによって古き良き家族のかたちは失われる、と歌われているのが、あのソウル・ミュージック的でカッコいいと思って聴いていたアルバムのオープニング・トラック、「ホームブレイカー」である。続く、「オール・ゴーン・アウェイ」は、ボサノバ的なおしゃれな曲だが、通貨主義がコミュニティーや家族さえも殺していく、なにも残らずにすべては消えてしまった、と万物流転の無常観のように歌われるが、その根底にははげしい怒りがあると思われる。

 

シングル・カットもされたポップでキャッチーな「カム・トゥ・ミルトン・キーンズ」においても、軽快なメロディーとリズムにのせて、今夜は手首を切るかもしれない、などと歌われる。サウンドやヴォーカルスタイルからして激しさが感じられる「インターナショナリスツ」においてはレイシズムを糾弾し、ソウルフルな「ロジャース」の副題にある「小売店主の娘」とは、マーガレット・サッチャーのことである。「マン・オブ・グレイト・プロミス」は自殺した旧知の友人のことが歌われた曲で、「ラック」は希望にあふれた純粋なラヴ・ソングというように、わりとバラエティーにとんでもいる。「タンブリン・ダウン」は権力の横暴に対抗するために、団結を呼びかける曲であり、ポール・ウェラーの激情がヴィヴィッドに感じられる。この曲は「インターナショナリスツ」と共に、この年の夏に開催された「ライヴ・エイド」でも演奏された。

 

大学受験に合格した私は、本厚木の丸井で生まれてはじめてのCDプレイヤーを買ったのだが、最初のCDソフトとして選んだのは、約1年前に池袋のオンステージヤマノでアナログ盤をすでに買っていた「アワ・フェイヴァリット・ショップ」であった。「シャウト・トゥ・ザ・トップ」がボーナス・トラックとして収録されていた。キャンパスのバス停でバスを待っていると、テニスサークルに所属していそうな爽やかな男子が知人を見つけたらしく、イヤフォンをしていた彼に話しかけた。なにを聴いていたのかと尋ねられて、イヤフォンを外しながら彼はザ・スタイル・カウンシルだと答えていた。日本の雑誌でザ・スタイル・カウンシルのことを、「スタカン」と略して表記しているのを見た。マクセルのカセットテープのCMにも、ザ・スタイル・カウンシルが出演していた。

 

 

 

 

 

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