真夜中に目が覚めたので習慣的にiPhoneの画面を見たところ、何年も前から所属部署が別々になったため、もはや仕事以外の用件でしか連絡を取らない同僚からLINEが届いていた。前回は欲しいレコードを海外のサイトで見つけたのだが買い方が分からないということで連絡を取り合っていたのだが、あれも最初の取っかかりは本部の会議で会った時に直接聞いたところからだった。「電気グルーヴのオールナイトニッポン」で1993年に聴いて以来ずっと探していたレコードらしく、とても喜んでもらえたのでよかった。
それにしても今回は、こんな遅い時刻になんの用件だろう。なんかURLが貼られていて、それから「おめでとうございます」とクラッカーの絵文字が。何事かと思いリンクをタップすると、Negiccoのリーダー、Nao☆のツイートが表示され、「ファンの皆さんへ」とあり、なにやら重要な発表なのかと思い、読みすすめていくと、「この度、私NegiccoのNao☆は、私が31歳になる誕生日4/10に入籍することになりました」とのこと。
これはすごい。まず最初に訪れた感情は驚きであり、それから祝福する思いが湧き起こってきた。最近はあまり開けていなかったツイッターのタイムラインを確認すると、ファンの人たちによる祝福のツイートが次々と流れていった。トレンドにまでNegiccoが入るような状態である。
破天荒という言葉の意味は一般的に誤解されがちな豪快というようなものではなく、いままで誰も成し遂げていない前人未到の境地を切り開くということである、とは「ハロモニ@」で吉村崇が赤チン国王の声をやっていた頃の平成ノブシコブシの漫才でよく言われていたことである。
Negiccoについては結婚しても続けてほしいとか応援するというようなファンのツイートなどをよく見かけることがあったが、実際にそうなったとしたらどうなのだろうというところまでは具体的にイメージはできていなかった。
アイドルの結婚発表というと、実際にはアイドルはすでに卒業し、女優やアーティストやバラエティータレントとして活動している場合、もしくは現役バリバリのアイドルである場合には、ファンが裏切られたというようなムードになりがちである。アイドルという業種がファンの疑似恋愛的なファンタジーを商売にしている以上、それは避けられないことであろう。
かつてのアイドルはそもそも寿命が短かったし、ファンの平均年齢も同年代か少し年上という場合がほとんどだったため、お互いが自然に卒業していった印象が強い。それが現在はまったく異なり、中年や初老の男性が娘かもしかすると孫ぐらいの年代のアイドルのファンであるケースも珍しくはない。
Negiccoは2003年にローカルアイドルとしてデビューし、昨年、2018年には結成15周年を迎えた。2011年にタワーレコードのアイドル専門レーベル、T-Palette Recordsに移籍し、新潟で一般の会社員として生活しながら楽曲提供を続けているconnieや、小西康陽、田島貴男などをはじめとした、いわゆる「渋谷系」やシティ・ポップ的な音楽性が、それまでアイドルにはあまり興味がなかった人たちにまで広がっていった。小西康陽が作詞・作曲・プロデュースし、2013年にリリースされたシングル「アイドルばかり聴かないで」は、「どんなに握手をしたって あのコとはデートとかできないのよ ざんねーん!!」という身も蓋もないことを極上のおしゃれサウンドに乗せて歌うという素晴らしいアイドルポップスである。
というようなことを書いている私は当時、この曲についての話題をインターネットで見たが、特に聴いてみるということまではしなかったし、Negiccoについてはほとんどなにも知らないに近い状態であった。その少し後には日曜日に新宿に買物に行き、妻がルミネの無印良品を見ている間にフラッグスのタワーレコードを見にいった時、3人のアイドルのような人たちがイベントのようなことをやっていた。貼ってあったポスターに近づいてみて、Negiccoというグループだと知った。グループ名からしてネギを特産とする地域のローカルアイドルなのだろう程度のことは思ったかもしれないが、それ以上の興味はなく、そのまま通り過ぎていった。数年後には同じ建物の上で開催されたNegiccoのバーベキューイベントに参加することになるなど、その時にはまったく予感していなかった。
Negiccoのことは2016年3月3日に読んだ本で興味を持ち、軽くチェックをしてみようとApple Musicで聴いてみたところ、私がローカルアイドルからイメージしていたのとはまったく異なる、かなり好みの音楽であったところから知っていった。アイドルポップス、シティ・ポップス、「渋谷系」など、私が好きだった日本のポップスのエッセンスが凝縮され、しかもアップデートされたような音楽ではあったが、そもそも私はどちらかというと海外のインディー・ロックのようなものの方が好きなのだが、にもかかわらずこんなに夢中にさせてしまう魅力とはいったいなんなのだろうと思ったのだった。その後、当時、T-Palette RecordsでNegiccoを担当し、数年前からはNegiccoの事務所であるEHクリエイターズに移籍した雪田容史が着ていた海外アーティストのTシャツや、彼が選曲しているというライヴ前の音楽から、その理由がなんとなく分かったような気がした。
音楽が好きになるといろいろな動画なども観はじめるのだが、そうなると3人のメンバーそれぞれの個性やグループが辿って来た紆余曲折のストーリー、それを取り巻くファンやスタッフ、周囲のクリエイターたちの関係性などにもひじょうに良いものを感じ、それには新潟から東京に拠点を移して活動するのではなく、あくまで新潟というホームベースがあるからこそなのではないか、という気がしてきた。そして、私はNegiccoのライブやイベントがあるわけでもないのに、たまたま仕事が休みの日に新潟まで行ってきた。ミュージックビデオに映っていた場所やグループにとってゆかりの地など、街そのものが聖地巡礼である。古町の商店街で当時の最新シングル「矛盾、はじめました。」のミュージックビデオが普通に大きなスクリーンに映されていたのには、素直に興奮した。それまで新潟のことはほとんど知らず、スキー場に行ったことがある程度だったのだが、それから街そのものがとても好きになった。
その翌週、中野サンプラザでNegiccoのライブがあり、リリースイベント以外で私が参加するのはそれがはじめてだったのだが、「おやすみ」という曲の時に、夜の新潟の街を映した映像が流れた。前の週に新潟に行っていたことによって、それをより深く味わうことができた。
というわけで、私がNegiccoを好きになった理由は音楽だったのだが、その後、他の魅力にもいろいろ気づいていったのだが、あくまで音楽アーティストとして認識しているところがひじょうに大きい。私はアイドルが恋愛をしていても別にかまわないし、むしろどんどんするべきではないかと思っている派なのだが、先ほども書いたように、アイドルという業種がファンの疑似恋愛的なファンタジーを商売にしている以上、それでは商売にならないのだろう。かつてのようにアイドルの寿命が短く、ファンも大人になれば卒業するのであれば問題はないのだが、ある程度の年齢になってもまだファンのために恋愛を表向きは禁止されなければならないとするならば、それはとても不幸なことではないか、という思いもある。
音楽アーティストや表現者として好きなので、もちろん人として幸せになってほしい。恋愛や結婚、家庭を持つことが幸せになることだと思っているのであるならば、ぜひそれを実現させてほしい。しかし、アイドルという職種でいる以上、それはプロとしてファンを喜ばせることと矛盾するのではないか、だとしたらそれは果たして幸福なことだろうか、という思いがどこかにあり、Negiccoについてもそれをうっすらと感じていたことは事実である。
しかし、それはちゃんと両立するどころか、むしろ相乗効果さえ生むのだという新たな可能性を、今回の結婚発表は予感させるようでもある。これは実に画期的なことであり、まさに破天荒だといえるのではないだろうか。
今回、Nao☆との結婚が発表されたのは空想委員会の岡田典之であり、「Perme FES~三人祭」というライブが出会いのきっかけだったのだという。このライブが行われたのは2015年9月22日、私がNegiccoの音楽を初めて聴く約半年前である。2016年3月30日に閉館前日のサンストリート亀戸で行われた「矛盾、はじめした。」のリリースイベントで、私はNegiccoのライブを初めて観たのだが、その時に前の方におそらく「Perme FES~三人祭」のTシャツを着たファンの姿があり、その頃はまったく知らなかったので、空想委員会とプリントされた文字を見て、なんらかのサークル的なもののオリジナルTシャツなのかと思っていた。
私がNegiccoの音楽を聴きはじめた頃、大きなライブやイベントは東京や所沢の航空記念公園で行われることが多い印象で、新潟の地元のファンの方々も多く遠征されているようであった。しかし、少し前から新潟で行われることが多くなり、全国各地のファンが新潟に集まるような感じになっている。私は仕事の日程上、このようなライブには参加できないことが多いのだが、昨年の7月に朱鷺メッセで行われた結成15周年を記念するライブには、ツイッターでリーダーから「朱鷺メッセ来て(笑)」とリプライをもらったことが大きく影響しているのだが、各方面に無理を言って参加することができた。そして、その約2日間の体験はひじょうに濃密で価値があるものであった。Negiccoをきっかけとして新潟の魅力に気がついた人たちはひじょうに多いと思われ、わりと難しい課題でもある地域活性化のヒントがここにはあるのではないかというような気もする。
Negiccoはある時期から、長く続けられることを大きな目標としているというようなことを言っているような印象があり、それはこれからの日本社会にとって重要なテーマになるであろう持続可能性(サステナビリティ)にも繋がるように思える。また、性差別の解消という課題において、女性が結婚した後も仕事が続けられる職場環境をつくる必要があるのだが、それが最も困難だと思われるアイドルという業種において、それを実現しようとしているNegiccoは、このような点においても大きな希望だといえるのではないだろうか。
などと、相変わらず文章をコンパクトにまとめる能力に著しく欠けているわけだが、要するにNao☆さん本当におめでとうございます、幸せのおすそ分けをありがとう、これからもずっとSee you tomorrow、ということである。
