ザ・スペシャルズ「アンコール」について。 | …

i am so disapointed.

ザ・スペシャルズといえば1979年にリリースされたデビュー・アルバムをはじめ、スカ・リバイバル、2トーンや「ゴースト・タウン」、スペシャルAKAとなった後の「ネルソン・マンデラ」など、社会的なテーマを扱ったヒット曲で知られる、ポップ・ミュージック史上もひじょうに重要なバンドである。その後、何度か再結成していることはなんとなく知っていて、今回もその何回目かなのだが、現在のメンバーによるニュー・アルバムもリリースされた。それが、今回取り上げる「アンコール」である。

 

ザ・スペシャルズの元々のリーダーであり、スペシャルAKAとしても活動していたジェリー・ダマーズはメンバーにいない。1981年にザ・スペシャルズを脱退し、ファン・ボーイ・スリー、また、ネオ・アコースティックのファンにも人気が高いカラーフィールドなどで活動していたテリー・ホールが、現在の中心メンバーのようである。

 

1曲目の「ブラック・スキン・ブルー・アイド・ボーイズ」はファンキーなディスコ・ソングというような印象であり、ザ・スペシャルズのイメージとは少し違うのだが、やはりオリジナルから40年近くも経っているのであり、音楽性の変化も仕方がないように思える。この曲はイギリスでは「アイ・ドント・ワナ・ダンス」、アメリカでは「エレクトリック・アヴェニュー」のヒットで最も知られているであろうエディ・グラントが所属していたバンド、イコールズのカヴァーである。続く「B.L.M.」は、黒人に対する差別や暴力に対抗する国際的な社会運動「ブラック・ライヴズ・マター」の略である。

 

ザ・スペシャルズが約40年前のデビュー当時に画期的だったのは、人種混合バンドであったという点でもあり、人種差別撤廃のメッセージはその音楽にも込められていた。そして、残念なことにそのメッセージは、あれから約40年が経った現在もまだ有効というか、より必要とされているようなところがある。この曲はやはりファンキーなダンス・ミュージックなのだが、レイシズムについてのストーリーテリングになっている。やはりイメージするザ・スペシャルズの音楽とは違うのだが、これはこれで良いのではないかという気分になってくる。

 

そして、次の「ヴォート・フォー・ミー」、これはアルバムに先がけて公開されていた曲でもあるのだが、1981年の全英NO.1ヒット「ゴースト・タウン」を思わせるような音楽性である。もしもある政治家に投票するとするならば、正直でちゃんとしていて嘘がないことを約束してほしい、という、まさに日本のアーティストにこそ歌ってもらいたいような内容である。さらには国民には賢くならないようにと教え、自分たちの都合の良いように法律をつくるなど、まさに現在の日本における史上最悪の政権のことを歌っているようでもある。つまり、イギリスも同じような状態だということだろうか。

 

続く「ルナティックス」はファン・ボーイ・スリーが1981年に全英シングル・チャートで20位を記録した曲のカヴァーであり、これも内容がまったく古くなっていない。というか、社会は当時と同じような問題をかかえていて、それゆえにザ・スペシャルズの存在意義もあるという、なんとも皮肉な状況となっている。ただし、日本で生活するポップ・ミュージック・ファンとしては、当時は海の向こうの出来事だったのが、現在はひじょうにリアリティーを感じることができる。

 

1980年代にイギリスのアーティストたちがマーガレット・サッチャー首相に対してものすごく怒っていて、それは一体どのような状況なのだろうとよく分からなかったし、階級社会ではない日本においてはそのリアリティーは感じられなくても当然なのだろうと思っていた。しかし、何年か前に、なるごどあれはこういうことだったのかと、日本にいても痛いほど分かるようになったし、その思いは日毎に強くなっている。

 

これ以降も人種問題や経済的不平等、性差別などをテーマにした曲が続き、デビュー当時のザ・スペシャルズと比較すると、もちろん時代のトレンドに対してエッジが効いてはいないのだが、ポップ・ミュージックとしてじゅうぶんに楽しめ、かつメッセージはひじょうに現在的である。

 

 

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