Chara「Baby Bump」について。 | …

i am so disappointed.

Charaのニュー・アルバムが良いという情報を信頼ができる筋から得てはいたのだが、聴かないうちに年が明けてしまった。件のアルバムとは2018年12月19日にリリースされた「Baby Bump」のことであり、アートワークでは髪のボリュームがものすごく、芸術が爆発しているようである。

 
信頼ができる情報筋がこのアルバムについて発していたメッセージというのはすごく良いということのみであり、どのような音楽性だとかどういったアーティストがかかわっているかというようなことについては一切言及されていなかった。しかし、その人が良いと言うならば私にとっても良い可能性はひじょうに高い。そんなふうに思いながら、クリスマス前からの数週間が過ぎた。
 
1月3日の午前中、出かける前に机の上で有益な情報のインプットを行っていた。そうすると実はうっすらと忘れかけていたCharaのニュー・アルバムについての情報があり、それはとても興味を引くものであった。Apple Musicのカタログには追加されていたような気がするので、出かける時に聴いていくことにした。この日も高円寺に行く予定になっていたのだが、ツイッターを開くと純情通り商店街の入口にいるキャシー・クラレの画像が流れてきたので、「いいね」を押すとフォローされた。
 
部屋のドアに鍵をかけて、マンションの階段の踊り場で再生ボタンをタップした。1曲目は「Pink Cadillac」。ブルース・スプリングスティーンのシングル「ダンシング・イン・ザ・ダーク」のB面に収録され、ナタリー・コールのカヴァー・ヴァージョンが1988年にヒットした同タイトルの曲を思い出したが、まったく別の曲である。ナタリー・コールのヴァージョンは日本テレビの「11PM」でアダルトビデオ女優の前原祐子がストリップティーズをする際のBGMとして使われていたことを覚えている。
 
しかし、その連想もあながち間違えてはいなく、イヤフォンからはナタリー・コールの「ピンク・キャデラック」がヒットした1988年に辺りを思い出させるサウンドが流れてきた。ソウル・ミュージックだが、シンセサイザーやトーク・ボックスが効果的に使われているタイプである。この種類のサウンドはポップ・ミュージック史の中において、一時的に時代遅れでダサく聴こえがちなこともあったのだが、少し前からまたトレンドになっているような気がする。シティ・ポップのリヴァイヴァルやディスコ・ポップの中でもブギーの流行、新世代のアーティストたちが実際には体験していない1980年代の音楽からの影響を再構築したかのようなヴァイパーウェイヴとかフューチャーファンクとか、そういった流れともリンクしているように感じた。
 
Charaのシングル「Heaven」でデビューしたのは1991年9月21日で、ニルヴァーナの「ネヴァーマインド」がリリースされる3日前である。当時、ソウル・ミュージックからの影響が感じられる女性ソロ・アーティストとして注目を集めた。一度、六本木ウェイヴでCDを探しているところを見かけたことがあるのだが、想像していたよりも小柄で、しかし強いオーラを感じさせた。まだ六本木ウェイヴで日本人アーティストによるCDを3階で扱っていて、照明は明るかったので1992年秋のリニューアルよりも前だったのだろう。
 
リニューアルで照明が薄暗くなった後、用事で2階に行った時、岡村靖幸の最新シングル「パラシュート★ガール」がかかっていたのだが、ゲストとしてCharaのヴォーカルがフィーチャーされていた。それまで岡村靖幸の曲に入る女性ヴォーカルといえば、PHY・SのCHAKAのイメージが強かった。岡村靖幸と同様に、CHARAもまたプリンスから強い影響を受けたアーティストであった。
 
Charaは次第に人気を得ていき、1993年のアルバム「Violet Blue」ではオリコン週間アルバムランキング最高4位の好セールスを記録した。
 
日本のポップ・ミュージック界において、コンテンポラリーなソウル・ミュージックから影響を受けた音楽をポピュラーにしたのは、1986年にデビューした久保田利伸なのではないかと思う。私は当時、フジテレビの「オールナイトフジ」でデビューして間もない久保田利伸のパフォーマンスを観たのだが、まさに日本人離れしたセンスだなと思い、すぐにアルバム「SHAKE IT PARADISE」を買った。
 
女性アーティストでは1996年に「情熱」をヒットさせたUAや、1998年に「つつみ込むように...」でデビューしたMISIAの貢献が大きく、その年の暮れに宇多田ヒカルが「Automatic」でデビューする。ローリン・ヒルの「ミスエデュケーション」が、もすごく売れた年である。
 
その前の年にCharaがシングル「やさしい気持ち」で初のトップ10入り、アルバム「Junior Sweet」は1位を記録した。UAやMonday満ちるのプロデュースやMONDO GROSSOで活動していた、大沢伸一がプロデュースを手がけていた。MONDO GROSSO周辺の音楽はフリッパーズ・ギター亡き後の「渋谷系」的なメディアでもよく取り上げられていたような印象があり、それはアシッド・ジャズのムーヴメントともリンクしていたような気もするが、個人的にはほとんど興味が無かったので、あまりちゃんと把握していない。
 
その前の年に岩井俊二監督の映画「スワロウテイル」の劇中バンド、YEN TOWN BANDのヴォーカルストに、主演もしていたCharaが選ばれ、その名義でのシングル「Swallowtail Butterfly〜あいのうた」とアルバム「MONTAGE」が共にオリコンで1位を記録していた。バンドのメンバーでもあるプロデューサーは、小林武史であった。
 
これがCharaの世間一般的な本格的ブレイクという印象もあるが、同じ頃によりソウル・ミュージックからの影響が強く感じられるUAが「情熱」をヒットさせたこともあり、よりJ-POP的なイメージが付いたような気もする。しかし、Charaはそ元々、ソウル・ミュージックからの影響が感じられる女性ソロ・アーティストとして世に出たような印象がある。それを強く思い出し、そして再認識させられた。
 
デビューから25周年を超えた現在、Charaはもはやベテラン・アーティストという域に入っていて、そのオリジナリティーのあるヴォーカルも堂々たるものだが、同時にこのアルバムを聴いて感じたのは、そのフレッシュさであった。
 
1980年代に10代だった私は、アレサ・フランクリンやティナ・ターナーといった、かつて一時代を築いたベテラン女性シンガーが、彼女たちをリスペクトする若きアーティストたちの力も借りて、コンテンポラリーなポップ・シンガーとして生み出した素晴らしい作品を楽しんでいた。昨年、亡くなったアレサ・フランクリンのことを調べていて、若いアーティスト達とのコラボレートは本人の希望だったことを知った。
 
2018年の暮れにリリースされたCharaのニュー・アルバムがコンテンポラリーなポップスとしてこれほどフレッシュであることは、おそらくそれと近い理由によるのかもしれない。
 
電車で高円寺に着くまでの間、このアルバムをずっと聴いていたのだが、すっかり気に入ってしまい、これは感想のようなものを記録しておかなければいけないと思った。
 
次にブログに上げるための記事は数日前に書き上がっているのだが、その日に最も印象に残ったことを書くというルールを設けているため、前々日のNegicco、前日のlyrical schoolに続き、今回はこのアルバムについて書くことにしたのである。
 
電車に乗りながら聴いていて、特に気に入った曲があったのでiPhoneをコートにポケットから取り出して確認すると、「愛のヘブン」というタイトルであった。後から調べたところ、この曲にはミュージック・ヴィデオも作られていて、アルバムの中でも重要な曲なのだろうと思った。
 
それからこのアルバムについてのインタヴュー記事などを読んで分かったのだが、「愛のヘブン」のサウンドプロデュースはLUCKY TAPESのKai Takahashi、他にもアルバムには個人的にはNEGiBANDのドラマーとしてNegiccoのライヴに参加していた印象も強いmabanuaなど、若いアーティストが多数参加しているということである。かと思えば屋敷豪太のようなベテランの大御所、初期のアルバムに参加していたというシンセプログラマー、Keiji Tanabeなどの名前もある。特におもしろかったのは、高校生の頃に5年以内にCharaのバンドで演奏したいとツイートしていたというベーシスト、高木祥太が23歳になり、本人直々のオファーによって参加しているということである。また、Charaの実息であるHIMIも何曲かでギターを弾いているという。
 
「愛のヘブン」は27年以上前にリリースされたデビュー・シングルと同様に、タイトルに「ヘブン」という言葉が入っているなと思ったのだが、実はデビュー前のデモテープに入っていた曲なのだという。サウンドや曲のテーマなど、まったく古さを感じさせない。というか、一貫性を感じさせられる。Charaの音楽には愛の力に対する大きな信頼が感じられ、不安な時代になればなるほど、その重要性は強まっていく。デビュー当時から個性的であったヴォーカルは、より表現力を増し、ウィスパーからシャウトまで豊かな表情を見せる。タイトルの「Baby Bump」とは妊婦のふくらんだお腹のことらしく、「愛を身ごもる」というテーマをあらわしているようだ。つまり、以前から持っているテーマが、より確信をこめて歌われているということだろうか。音楽やヴォーカルの面においても、基本的なコンセプト、アーティストとしてのコアの部分はまったくブレずにアップデートした、Chara流ポップスの最新型という感じがする。
 
このような作品が生まれることに、日本のポップ・ミュージックの成熟を感じる。先ほど言及したアレサ・フランクリンが「フーズ・ズーミン・フー」を、ティナ・ターナーが「プライヴェート・ダンサー」をリリースした時の年齢を、現在のCharaはすでに超えていることに気がついた。このフレッシュでありながら自由な音楽は、この時代における希望の1つだと思うのである。
 

 

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