1990年代後半に大人気だったガールズ・ポップ・グループ、スパイス・ガールズが来年に再結成ライブを行うことがイギリスのメディアで話題になっている。改めて当時の全英ヒット・チャートの記録を確認してみると、1994年のデビュー・シングル「ワナビー」から2001年に活動休止するまでにリリースしたシングル10枚のうち、9枚が1位、残る1枚も最高2位ということである。アルバムもオリジナル・アルバム3枚中の2枚が1位、残る1枚とベスト・アルバムが2位である。
ミーハーなポップス・ファンであった私も当時、数枚のシングルCDを買ったりしていたが、このグループの全盛期をリアルタイムで体験した立場として、当時の全英シングル・チャートを参照しながら、デビュー・シングルが発売された年の夏から暮れまでを振り返ってみたい。
スパイス・ガールズのデビュー・シングル「ワナビー」は、イギリス本国に先がけて、日本と東南アジアで先にリリースされていて、その日付は1996年6月26日だったという。これはグループを国際的なスターにしようとする、レーベルの意向だったという。おそらくそのためだったと思うのだが、私は「ワナビー」が全英シングル・チャートにランクインする少し前に、すでにこの曲のビデオ・クリップを観ていたのだった。それは、金曜深夜にフジテレビで放送されていた「BEAT UK」という番組を録画したビデオの番組の後だったような気がする。
当時、私は広告代理店に勤務していて、「NME」「メロディー・メイカー」「SELECT」「THE FACE」「i-D」といったイギリスの音楽やカルチャーについての雑誌を何種類も定期購読していたが、日本国内のメディアにはほとんど接していなく、音楽も特に気に入っているごく一部を除いてまったく聴いていなかった。土曜日は深夜のうちに録画されていた「BEAT UK」のビデオを観て、それから渋谷や新宿にCDや本を買いに行くのがほぼお決まりのパターンとなっていた。
その前の年、1995年に渋谷のタワー・レコードは宇田川町から現在の場所に移転し、売場が大幅に拡大した。その後、渋谷ロフトの1階にあったウェイヴは上の階に移転したのだが、それから行く頻度が少なくなったような記憶がある。その年の秋にリリースされたパルプ「コモン・ピープル」のアルバム、それからコーネリアス「ムーン・ウォーク」のカセット・シングル(1本200円で様々な色のものが数種類発売されていた」とカヒミ・カリィ「グッド・モーニング・ワールド」のCDシングルは確か同じ日に発売されていて、それもこの上の階に移転したウェイヴで買ったような気がする。毎週水曜日にイギリスで発売されていた「NME」がその週の土曜日には入荷する確率が高いのは、渋谷のウェイヴと新宿アルタの中にあったシスコ、それからマルイシティ新宿の地下にあったヴァージン・メガストアであった。
ブリットポップのブームはピークに達していて、その象徴ともいわれるオアシスのネブワース公演は、1996年の8月10日、11日に行われ、その時の全英シングル・チャート1位はスパイス・ガールズの「ワナビー」であった。
翌年、1997年にはブリットポップの中心的なバンドであったオアシス、ブラーがいずれもニュー・アルバムをリリースしたのだが、この年はレディオヘッド「OKコンピューター」、ザ・ヴァーヴ「アーバン・ヒムス」、スピリチュアライズド「宇宙遊泳」が出たことによって記憶されている。ブリットポップの狂騒はいつしか収まり、よりシリアスな音楽が求められていたような印象がある。この年のはじめ、ブラーが久しぶりにリリースしたシングル「ビートルバム」は全英シングル・チャートで1位を記録したが、ひじょうにダウナーな内容であった。
しかし、「ワナビー」がリリースされた1996年の夏、つまりオアシスのネブワース公演が行われる少し前、悪い予感のかけらもなかった。全英シングル・チャートにランクインする少し前、偶然に観た「ワナビー」のビデオだが、当時のトレンドとはあまり関係がない、どこか時代錯誤的でズレた印象を持ったのだが、間違えていたのは私の方だった。「ワナビー」は7月20日付の全英シングル・チャートに3位で初登場すると、翌週には元テイク・ザっとのゲイリー・バーロウが歌う「フォーエヴァー・ラヴ」と入れ替って1位になり、その座を7週間にわたりキープした。
「ワナビー」が1位になった週の全英シングル・チャートで2位だったのは、フージーズのアルバム「ザスコア」から、ロバータ・フラック「やさしく歌って」のカバーであった。5位には映画「トレインスポッティング」のエンディングで使われ、最高2位の大ヒットとなったアンダーワールド「ボーン・スリッピー」、10位にはライトニング・シーズによる全英No.1シングルでフットボール・アンセムともなった「スリー・ライオンズ」など、この年を代表するヒット曲がランクインしている。
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スパイス・ガールズの結成は「ワナビー」がリリースされる2年前、オアシスのデビュー・アルバムやブラーの「パークライフ」が大ヒットした1994年である。大人気だったテイク・ザット、イースト17のようなポップ・グループの女性版をつくろうという意図でオーディションによって集められたメンバーで結成された。レッスンを重ねたり曲を書いたりする日々だったが、元々にプロモーション会社ではあまりうまく行かず、自分たちで行動を起こしたりした結果、デビューすることができたのだという。
曲がポップでキャッチーだったことに加え、男の言いなりにならない強くて自由な女の子像、「ガール・パワー」というコンセプトも大いに受けた。メンバーそれぞれが個性的で、スケアリー、ベイビー、ジンジャー、ポッシュ、スポーティというそれぞれのキャラクターに合った呼び方も普及した。
ブリットポップの勢いはまだ続いていて、「ワナビー」が1位の間にも、数々のイギリスのインディー・バンドがシングル・チャートの上位にランクインしていた。「ワナビー」が3週目の1位となった8月10日付のチャートでは、3位にスウェード「トラッシュ」、4位にドッジー「グッド・イナフ」、その前の週には5位にマニック・ストリート・プリーチャーズ「エヴリシング・マスト・ゴー」が初登場している。
スウェードの「トラッシュ」は、オリジナル・メンバーのバーナード・バトラーが脱退し、新メンバーを迎えてレコーディングされた最初のアルバム「カミング・アップ」からの先行シングルであった。サウンドや曲調がより分かりやすくなり、それがブリットポップのムードともマッチしてヒットを記録した。この夏、私はこのスウェードとスリーパー、プッシャーマン、日本からEL-MALOが出演したライブイベントに行っていたのだが、その週の「NME」の表紙がスウェードで、開演を待ちながらインタヴュー記事を読んでいた記憶がある。ごく普通の女子高校生ぐらいの観客も多く、会場で流れるスーパー・ファリー・アニマルズやディヴァイン・コメディーの曲を難なく口ずさんでいた。「ロッキング・オン」が契約社員を募集していたのでこの曲のレヴューで応募したのだが、もちろんあっさり落とされた。
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8月も終わろうかという頃になっても「ワナビー」は引き続き、全英シングル・チャートの1位であった。8月31日付のチャートでは、3位にジャミロクワイの「ヴァーチャル・インサニティ」が3位に初登場している。この曲が収録されたアルバム「トラベリング・ウィズアウト・ムービング~ジャミロクワイと旅に出よう~」は日本でもものすごく売れた。また、ビデオ・クリップもひじょうに印象的であった。
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Travelling Without Mov
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9月7日付の全英シングル・チャートで「ワナビー」は7週連続の1位を記録するが、この週には2位にクーラ・シェイカーの「ヘイ・デュード」が初登場している。当時、メディアでもかなり取り上げられていたブリットポップのバンドであり、デビュー・アルバム「K」も全英アルバム・チャートで1位を記録していた。順調にいけばオアシス、ブラー、パルプなどと並ぶぐらいの人気バンドになりそうな雰囲気もあったのだが、ナチス礼賛とも取られかねない発言などによりメディアからバッシングを受け、ブリットポップの終息と呼応するようにして人気を落としていった。このアルバムは当時、ラフォーレ原宿の地下にあったHMVで買った記憶がある。
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K
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この週、「ヘイ・デュード」の1ワンク下、3位に初登場したのはザ・シャーラタンズの「ワン・トゥ・アナザー」である。1990年代のはじめまで続いたマッドチェスター、インディー・ロックのブームにのって、「ジ・オンリー・ワン・アイ・ノウ」をヒットさせたインディー・バンドである。当時はブームの勢いに便乗して売れたような印象があったこのバンドだが、やはり同じような見方も一部ではされていたブラーと同様に、ブリットポップ時代を生き抜くどころか、むしろ当時を凌ぐ人気を得ていたのであった。ザ・シャーラタンズの場合は途中から音楽性も正統的なブリティッシュ・ロック的なものになり、1994年のシングル「キャント・ゲット・アウト・オブ・ベッド」などはポール・ウェラーからも絶賛されたりしていた。
そんな状況の中、この年の7月にはキーボーディスト、ロブ・コリンズを交通事故で失うという苦難を乗り越えてリリースされたのが、このシングルであった。1990年以来のトップ10入り、しかも3位の大ヒットとなったが、これにはオアシスのネブワース公演に出演することにより、ファンを拡大したという要因もあったように思える。
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翌週、9月14日付のチャートにおいて、「ワナビー」はついに1位の座をピーター・アンドレの「フレイヴァ」に明け渡し、この週に2位に初登場したフージーズ「レディ・オア・ノット」が、翌週には1位になった。この曲を収録したアルバム「ザスコア」はヒップホップ、R&B、レゲエなどの要素を取り入れたアーバンなポップスとして、幅広い音楽ファンから支持されていた。
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THE SCORE
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10月12日付の全英シングル・チャートにおいては、ケミカル・ブラザーズの「セッティング・サン」が初登場で1位になっている。ブレイクビーツとサンプリングによるダンス・ミュージックを特徴とする音楽性はインディー・ロックのファンにも受けていて、シングルのリミックスを依頼するバンドも多かった。このシングルには、ゲスト・ボーカルとしてオアシスのノエル・ギャラガーが参加していて、これが売れないはずがないという感じではあったのだが、当然のように1位を記録したのであった。
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Dig Your Own Hole
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そして、10月26日付のチャートではスパイス・ガールズの2枚目のシングル「セイ・ユール・ビー・ゼア」が、順当に初登場1位を記録したのであった。もはやスターの風格が感じられるビデオ・クリップは、アクション映画をイメージさせる。よりR&B色の強い音楽性で、間奏のハーモニカやラップパートなども印象的である。この曲は2週連続で1位を記録したが、その後もチャートの上位にわりと長くランクインされていた。
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11月23日付のチャートで初登場1位に輝いたのは、プロディジーの「ブリーズ」である。5月の「ファイアスターター」に続き、2作連続の全英1位となった。匿名的なテクノ・ユニットとして「チャーリー」を1990年にヒットさせたプロディジーだが、この頃にはユニークなメイクをしたボーカルのキース・フリントが前面に出て、ポップ・アイコン化していた。ブリットポップのブームによって、ギター・ロックがチャートの上位に入る一方で、ケミカル・ブラザーズやプロディジーといったテクノ・ユニットが大きなヒットを記録する場合もあった。
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The Fat of the Land
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イギリスではクリスマス・ナンバー1といって、文字通りクリスマスにヒット・チャートの1位であることに価値が認められる傾向があり、毎年、これを狙ったシングルがいろいろとリリースされているようである。かつて「Xファクター」というテレビ番組から生まれたシングルが、このクリスマス・ナンバー1に輝くことが続き、これを阻止するためにみんなでレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの「キリング・イン・ザ・ネイム」をダウンロードしまくって1位にしようというキャンペーンが起こり、本当にこの17年も前の曲がクリスマス・ナンバー1になってしまうということが、2009年にあった。それはそうとして、1996年のクリスマス・ナンバー1は、スパイス・ガールズの3枚目のシングル「2・ビカム・1」であった。この季節に相応しいラヴ・バラードでありながら、けして暑苦しくはならず、適度に良い感じである。
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SPICE
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まったくの余談だが、スパイス・ガールズにおける私のいわゆる推しメンは、今回の再結成には参加しないポッシュ・スパイスことヴィクトリア・ベッカムである(知らんがな)。







