ヴィンス・ステイプルズ「FM!」を聴いた。 | …

i am so disappointed.

昨年のアルバム「ビッグ・フィッシュ・セオリー」がかなり気に入っていたヒップ・ホップ・アーティスト、ヴィンス・ステイプルズがニュー・アルバム「FM!」をリリースした。「ビッグ・フィッシュ・セオリー」は水槽の中の金魚のようなものが写ったジャケット写真もひじょうにインパクトがあったのだが、内容もデトロイト・テクノなどからの影響を取り入れたヒップホップで、ひじょうに印象的であった。

 

ところが今回のアルバムについては、タイトルが「FM!」であり、ジャケットもポップ・アート的なイラストであり、かなり思っていたのと違う。11トラックが収録されているが、22分しかない。タイトルから想像できるように、ラジオ番組風の構成になっていて、スキットやインタールードをも含めたトラック数である。

 

1980年代ぐらいまでのアルバムというのはだいたい10曲前後が収録されていて、46分のカセットテープに収まるものがほとんどであった。それは、収録が可能な時間の関係もあったのだろう。それがCDの時代になると、曲数が増えて収録時間が長くなる傾向が出てきた。それがここ数年、また収録曲数が少なく、時間が短いアルバムが増えてきているような気がする。世の中の音楽の聴取スタイルの中心が、CDからストリーミングへと移行していることと関係があるのだろうか。聴きたいものや聴かなければいけないものが多い場合、玉石混交にたくさん入っているよりも厳選された良いものが少なく入っている方がなにかと便利だし、気に入れば何度も聴くので印象に残りやすい。

 

それで、「FM!」なのだが、たとえば1990年代に流行したGファンクなどを思い出されるところもあり、ラジオ番組風に構成されたアルバムにはお似合いの音楽性だといえるだろう。というか、このようなコンセプトに沿った曲ばかりがセレクトされているのだろうか。しかも、11月のはじめにリリースされたというのに、1曲目はフィール・ライク・サマー」で、確かにそのような気分がじゅうぶんに感じられる曲である。そんなフィール・グッドな気分はやがて過熱し、厄介なトラブルが引き起こされる。表面的な気分の良さの内面には、やはり前作と同様に、暗くて深刻な現実が描写されている。その構造が複雑化しているだけに、よりインパクトは強くも感じられる。

 

ヴィンス・ステイプルズ自身はアルコールも非合法ドラッグもやらない、ストレート・エッヂまライフスタイルを送っているという。音楽性がひじょうに先鋭的であり、それでいてコンシャスであるという点において、ヴィンス・ステイプルズはいまやポップ・ミュージックのメインストリームとなったヒップホップが今後、向かうべき方向性を指し示しているようであった。ひじょうに新しさが感じられたアルバム「ビッグ・フィッシュ・セオリー」の後で、この才能に溢れた若きアーティストがどのような作品を生み出すのか、とても楽しみにしていた。「FM!」はヴィンス・ステイプルズのキャリアにおいてどのような位置づけにあるのか定かではないのだが、前作を超える衝撃的な問題作を期待するならばやや物足りない印象を受けるのだが、この前作とかなり異なった方向性によって、クオリティーは高く、また、より高度な表現法を身に着けたのかもしれないと考えるのならばものすごさを感じるし、今後も新しく生み出される作品が楽しみでならない。