AKB48「11月のアンクレット」の記憶。 | …

i am so disappointed.

ポップ・ミュージックを好きになったのはいつからだったのだろう。おそらくその頃はポップ・ミュージックなどという言い方をしていなかったはずである。ヒット曲とか流行歌とか、そんな感じだったのではないだろうか。現在は好きな曲が必ずしもヒットしていたり流行していたりするわけではないので、音楽のタイプを指すポップ・ミュージックという言い方をしている。私がポップ・ミュージックを好きになった頃は、おそらくヒットしたり流行している曲ぐらいしか耳に入ることがなかったと思う。北海道の小さな町で、小学生だった頃だ。テレビでは流行歌手がいろいろな曲を歌っていた。それは見て、聴いていて楽しいものではあったのだが、歌われている内容についてはよく分からなかった。大人の恋愛について主に歌われていたが、共感したり理解するにはまだ幼すぎた。

 

町におそらく1軒だけ書店があった。「テレビマガジン」などの雑誌は小学校に行く途中の曲がり角のところにあった酒屋で買っていた。酒屋がやがてコンビニエンスストアになったなどとも言われているので、あれが進化したのがおそらくコンビニエンスストアの雑誌コーナーなのだろう。書店の方にはたまに行っていたが、年末には家計簿が付録についた「主婦の友」などが平積みにされていたことが思い出される。あの店で流れていたのはラジオだったのか有線放送だったのか。それは1976年の冬から春にかけてで、お昼から夕方までの間だったと思う。私はその店に1人でいて、店内では岩崎宏美の「ファンタジー」が流れていた。その曲が持つどこか切ないムード、そして、「地下鉄の出口で ふと心に感じた あなたのまなざしを 立ちどまり 私もただあなたを見つめてた」というところの歌詞とメロディー、それがとても印象的で、この曲すごく良いな、と思ったのであった。

 

実はこの前の年、細川たかしが「心のこり」でデビューしていて、「私バカよね おバカさんよね」という歌詞が面白くて、母にレコードを買ってもらったのだった。この年の年末、日本レコード大賞の最優秀新人賞を細川たかしと岩崎宏美が争ったが、この頃には岩崎宏美の曲がなんとなく好きだなと思い、軽く応援していた記憶がある。「ファンタジー」がリリースされたのはこの少し後で、これがいわゆるヒット曲であり流行歌、後にポップ・ミュージックというようになるものを私がはじめてすごく良いと思った最初であった。岩崎宏美がこの歌をテレビで歌うところを、おそらくこそれまでに観ていたのかもしれないが、この小さな町の書店で聴いた時にはじめて本当にすごく良いと思ったのであった。

 

ちなみに歌詞に出てくる「地下鉄」というものをこの時点で私は一度も見たことがなく、それはよく分からないのだがなんとなく都会的を象徴するようなものであり、それもまたこの曲が良いと思った理由の1つであった。

 

その後、私はヒット曲や流行歌、それからヒットや流行をしていないものも好きになるのでポップ・ミュージックと呼ぶものをよく聴くようになるのだが、そうなると情報も集めるので、なかなかあの小さな町の書店で岩崎宏美の「ファンタジー」を聴いた時のような、それほど詳しくはないがこの曲、すごく良いぞというような体験も少なくなっていった。たとえばDJのイベントだとかセレクトショップ的なレコード店だとかでかかっているのを聴いて気になり、それから好きになった曲というのはいくつもあるのだが、それはそういうものに出会うことを目的に行っているので、また少しニュアンスが違う。最近ではスーパーの西友でよくネオ・アコースティックっぽい曲がかかっていて、知っているような知らないような、誰の何ていう曲だっただろうと思うようなこともあったが、経営母体が変わるとか変わったとかで、確かそのタイプのBGMももう流れなくなったはすである。

 

昨年の年末、ずっと仕事をしていたのだが、流す音楽を選曲する気力すらなく、そもそも推奨されていた、ヒット曲を次々と流すタイプの有線放送をかけていた頃があった。ポップ・ミュージックは基本的に若者のためのものであり、すでに大人になってしまった私には心に響く流行歌やヒット曲はほとんど無くなってしまった。それでも、それ以外で楽しめる音楽はたくさんあるから、それでもポップ・ミュージックはずっと好きなままでいる。ヒット曲は基本的に好きなので、一部の美意識的にどうしても苦手なものを除いては流していても苦痛ではないし、流行しているものが知れるので、なかなか良いものである。仕事をしている間は流れている音楽に意識を集中してはいないし、文字どおりバックグラウンドミュージックとしてしか認識していない。完全に油断しているので、ふとした瞬間に心に入り込む場合がある。この曲もそうだったのである。

 

実は誰の曲か分からなかった。若い女性が複数で歌っている感じはあったのでアイドルグループだが、AKB48だとかハロー!プロジェクトとかではなく、いわゆる楽曲派などと呼ばれるような、大人の鑑賞にも耐えうるようなタイプの音楽を持ち味としているグループだろうか。私があの小さな町の書店で岩崎宏美の「ファンタジー」を聴いた時に感じたすごく良いという感覚には、大人や都会への憧れというものが多分に含まれていたのではないかと思う。その後、シティ・ポップや海外のロックやポップスを好んで聴くようになるが、そこにもやはり憧れや理想という要素はひじょうに強かったのではないかと思う。

 

曲調がすごく良いと思ったのと、コーラスに入る前の「OK! 君の勝ち!」というところが、とても強く印象に残った。何度も聴いていると歌詞の内容も頭に入ってきて、この曲の主人公が男の子であり、別れたがまだ思いが断ち切れたわけではない以前の恋人と再会し、新しい彼氏ができたことを知る、というちょっと切ない内容であることが分かった。しかし、その悲しみを大げさに騒ぎ立てるわけでもなく、マイルドな心の痛みをとてもお洒落に表現しているのだ。「僕たちが好きなアドバンテージが来ない」と聴こえていた部分は「僕たちが好きだったパンケーキが来ない」と歌われているのは、何度も聴いているうちに分かった。やがて、有線放送でも流れなくなり、仕事はとても忙しくなったので、この曲のことなどはすっかり忘れていた。

 

ある日、インターネットで見かけた文章で、AKB48の「11月のアンクレット」はナイアガラサウンドへのオマージュではないか、ということが書かれていた。あの曲には確かに「11月のアンクレット」というフレーズが何度も登場していたし、聴いていた時にはまったく意識していなかったが、気に入ったのはナイアガラサウンドに影響を受けていたからだったのか。それにしても、あれがAKB48のシングルだったとは。歌詞をインターネットで検索してみたところ、あの曲は間違いなくAKB48のシングル「11月のアンクレット」であることが分かった。

 

少し前、これまでに私が聴いてきたすべての日本のポップ・ソングの中から特に好きなものを100曲に絞ろうという試みを行ったのだが、うまくまとまらずに結局、頓挫した。候補曲を思いつくままに挙げていると、iTunesにも入れていないし、それほど集中してちゃんと聴いていたわけでもない「11月のアンクレット」のことが頭に浮かんだ。しかも、それはたとえば松原みき「真夜中のドア」、松尾清憲「愛しのロージー」、WHY@DOLL「菫アイオライト」などと並び、間違いなく100曲の中に入るとしか思えなかった。そこではじめてこの曲についてより詳しく調べ、その上でミュージックビデオを観た。少し泣いた。

 

この曲がリリースされたのは2017年11月22日、AKB48にとって50枚目のシングルで、フォーメーションにおけるセンターポジションは、この年いっぱいでグループから卒業することになっていた渡辺麻友だったということである。

 

節操のないただのミーハーである私は、2010年には「ポニーテールとシュシュ」のシングルCDを買って、「AKB選抜総選挙」に投票したりもしている。これ以後も毎年開催されている「AKB48選抜総選挙」で私が投票したのはこの時が最初で最後であり、その票を投じたのは渡辺麻友だった。正統派アイドル的なルックスでアニメが好きでありながら、ミッシェル・ガン・エレファントを聴いているようなところが良かったのと、あと声がすごく好きだったのだ。実は渡り廊下走り隊の握手会とかにも行っていて、千円ぐらいのシングルCDを1枚買っただけでアイドルと握手ができるという事実に衝撃を受けた。当時、まだこのタイプの販売促進は珍しかったような気がする。

 

この頃、インターネット掲示板でもAKB48に関するものがひじょうに多かったのだが、メンバーではなく主に渡辺麻友の一部のファンを中心としたとあるスレッドがひじょうに面白く、かなり楽しく読んでいた記憶がある。覚えている限りだと、タカザスパ、ピルクル、やっほい太郎など、登場する実在の人物のキャラクターがひじょうに立っていて、さらに実在の新キャラクターがどんどん追加されていった。渡辺麻友が面白いと言っていたので、アニメ「デュラララ!!」を全話観たのも良い思い出である。それはそうとして、案の定すぐに飽きて、「真夏のSounds Good!」がわりと好きだったり、「恋するフォーチューンクッキー」に感心させられたり、山本彩や横山由依と川栄李奈のコンビ、通称、横栄のおもしろ動画をたまに楽しむぐらいを除いて、AKB48にはそれほど興味を持つこともなく、おそらく私の趣味嗜好とはどんどん関係なくなっていくのだろうな、とそんな気がしていた。

 

と、そんなことはどうでも良いのだが、なにはともあれ、知らぬ間に「11月のアンクレット」という曲が思っていた以上に好きになっていて、調べてみると渡辺麻友の卒業シングルだったことを知ったしだいである。

 

ここ数年間のAKB48についてはほとんどなにも見ていないに等しいので、渡辺麻友のパブリックイメージがこの時点でどのようなものだったかすら定かではないのだが、この曲のビデオでは天真爛漫に楽しそうでナチュラルな姿や表情が見られ、とても魅力的だと思ったのだ。あと、他のメンバーのシーンも含め、とてもよく出来ている。指原莉乃とか山本彩とか、AKB48とは離れたところでの動画や画像でよく観ていたのだが、本業のグループではこんな感じなのかと改めて思ったり、特殊効果的なものが使われている場面もあり、よく分からない表現だがちゃんとしているな、とそんなことを思ったのである。

 

このシングルを最後にグループを離れる渡辺麻友、いよいよ恋人との本当の別れを悟るこの曲の主人公、シチュエーションは異なっているのだが、切なさという感情には共通するところがある。新しい未来への旅立ち、ということも含めて。それがとてもよく表現されていると思った。また、仕事場である店のスピーカーから流れるのを聴いていただけでは分からなかった曲の細部までを聴くと、やはりこれはナイアガラサウンドへのオマージュなのではないか、と思えるところがあった。

 

先日、1980年代の日本のポップスについて書かれた本を読んでいると、年代の前半は松本隆、後半は秋元康の時代だったのではないかというような記述があり、なんとなく納得がいった。松本隆は文学的、秋元康は商業的というようなイメージもなんとなくあり、特にいまどきの人たちにとって秋元康にはあまり良くないイメージがあることも納得はいくのだが、実際に秋元康が書いた歌詞のいくつかを本気で良いと感じた経験が何度もある私としては、微妙な思いもわりとしていた。ナイアガラサウンドなどと大まかぶったことを言っているが、私たちの世代にとっては主に大滝詠一の「A LONG VACATION」なわけであり、収録曲の大半を作詞していたのは松本隆である。振られた男の強がりをヴィヴィッドに描いた「恋するカレン」など、高校1年の学校祭の打ち上げで、好きになりかけていた生徒会の女子生徒に実は彼氏とまではいかないまでもかなり親しい男子がいたことを知った時の悲しみを和らげてくれた。

 

「11月のアンクレット」の歌詞はやはり秋元康が書いているのだが、この曲は丸谷マナブによる曲にナイアガラサウンドに対するオマージュを感じるのみならず、歌詞においてもひじょうにそれに近いテイストを感じる。

 

ところで、タイトルに出てくるアンクレットとは、足首につけるアクセサリーのことである。この歌詞においては、かつての恋人からプレゼントされたアンクレットを別れた後も外せずにいたのだが、新しい彼氏ができたと知ったいま、いよいよ外すべき時が来たようだ、というようにして使われている。ところでこのアンクレット、私は買ったことももらったことも付けたこともないのだが、いまどきの若者にはわりとポピュラーなのだろうか。Googleでブレスレットを検索すると結果は2億5千8百万件だが、アンクレットは2千7百万件である。少なくともブレスレットに比べると、10%ぐらいしか検索されていないようだ。これはもしかすると、「渚を走るディンギーで」などと、日本人にはそれほど馴染みのない単語をあえて用いる松本隆へのオマージュかもしれない、などとも思うのだが、おそらく深読みのしすぎであり、それ以前にアンクレットはわりとポピュラーなのではないかという気もしている。

 

「OK! 君の勝ち!」は渡辺麻友によるソロパートだったのだが、なぜ「君の勝ち」なのかというと、薬指のリングを見せることによって新しい彼氏ができたことを知らされたからである。その後で、やや元気がない調子で「僕の負け」とも歌われる。その直前の歌詞は、「さよならに こんにちは 僕よりやさしい人と 出会えたのなら しょうがないって 諦めきれるかな」である。これはもちろん強がりであり、取り乱さずに相手の幸せを願うというていの美意識である。しかし、終わり近くのブリッジにおいて、「アンクレット アンクレット」とタイトルにもあるキーワードの後で「左の足首に」、そして、さりげなく「リグレット」と歌っている。つまり、後悔をしているのだと。たまらない。

 

雨で濡れた舗道の上を、大勢のメンバーが走っている。やがてカメラは少しずつ前の方に移動していき、その先頭に映るのは渡辺麻友で、とても良い表情でゴールしたかのようである。

 

テレビやライブにおけるパフォーマンスでは曲の最後に渡辺麻友がマイクを床に置き、ステージを去って行くのだが、これは1980年の山口百恵の引退コンサートに対してのオマージュだという。

 

iTunesのライブラリに、「11月のアンクレット」を追加した。ポップ・ミュージックは素晴らしいものだ。

 

 

 

 

【まったくの余談的なとても懐かしい画像】