1976年に行われたザ・バンドのラスト・ライヴを記録したドキュメンタリー映画「ラスト・ワルツ」が公開40周年を記念して劇場で公開されていると聞き、興味をひかれた。
元々、この映画が公開されたのは1978年で、日本では7月1日からということである。当時、小学生だった私はまだ洋楽を意識的に聴いてはいなく、もちろんザ・バンドなどというシブいバンドのことも知っているはずがない。日本ではサーカス「Mr.サマータイム」や矢沢永吉「時間よ止まれ」が大ヒットしていた夏である。日曜日に弟と一緒に自転車で旭川の市街地まで行き、私がピンク・レディー「モンスター」、弟が世良公則&ツイスト「宿無し」のシングル・レコードを買ったのは、おそらくこの頃であろう。
夜はHBCかSTVのラジオ放送を聴いていたのだが、「ラスト・ワルツ」のCMが流れていたのを覚えているので、かろうじてリアルタイムで知っていたといえなくもないのだが、かなり無理がある。そのCMで分かったことは、ザ・バンドとはすでに解散してしまった伝説のバンドであり、「ラスト・ワルツ」はその最後のライヴを記録した映画なのだということである。バックグラウンドでは「ザ・ウェイト」が流れていたと思う。
1980年代の終わりにアメリカの音楽評論家、グリール・マーカスの「ミステリー・トレイン ロックに見るアメリカ像」という本を買った。わりと分厚くて値段もそれなりにしたと思うのだが、その価値はじゅうぶんにあった。アメリカの歴史や社会情勢に絡めてロックを論評しているところがひじょうにおもしろく、音楽評論でこんなことができるのかと、軽く感動を覚えたのであった。グリール・マーカスは当時、「ミュージック・マガジン」に「リアル・ライフ・ロック」という連載を持っていたのだが、じつはいま書いているこのブログのタイトルはこれからインスパイアされている。とはいえ、内容はまったく別なものになっている。
この本の中でもザ・バンドのことがかなり取り上げられていたのだが、その時点で私はあまりちゃんと聴いていなかった。確か夏休みに旭川の実家に帰省したとき、近所のレンタルビデオ店で「ラスト・ワルツ」を借りて妹と一緒に観た。とにかく有名なアーティストがたくさん出てきて豪華だなとは思ったのだが、当時の私はその良さを理解するにはポップ・ミュージックの聴き手として経験値が低すぎて、それほど感銘を受けることもなかったのである。
あれからかなりの月日が流れ、今回、なぜかこの上映に行ってみたいと思った。これまで、もっと思い入れの強いアーティストのライヴ映像だとか、かなり好きな映画の再上映などがあったのだが、それほど強く行きたいとは思わなかったし、実際に行ってもいない。だから、なぜ今回に限り、じつはそれほど思い入れが強いわけでもない「ラスト・ワルツ」を観に行きたいと思ったのかがよく分からない。タイミングだとしか言いようがない。
ゴールデン・ウィークはずっと仕事なのだが、興味本位で「ラスト・ワルツ」がどこでいつまでやっているのかを調べてみたところ、どうやらヒューマントラストシネマ渋谷というところで13時と19時からのようであった。この劇場に行ったことはなかったが、渋谷までならバスで30分もあれば行けるのと、気が重い案件が運よく午前中で片付いてしまったことなどもあり、これは行く運命なのだろうと大いに盛り上がった。iPhoneでチケットを購入しようとしたところ、しかも映画の日で料金も安いときたものだ。これも日頃の行いが良いせいであろう。
渋谷行きのバスは違う路線のに乗ってしまったものの、上映時刻の10分ぐらい前に着くことができた。青山学院大学に行く方に出て左折し、ボーリング場などを越えて真っ直ぐ行ったところである。つまり、ロック・バンドの熱いギグを観に行く際に待ち合わせしがちな明治通りの歩道橋をわたるわけだ。ビルの中にあり、スクリーンが3つあるようなのだが、今回、「ラスト・ワルツ」が上映されるスクリーン3はかつてよく行っていたミニ・シアターぐらいのスケールであり、ひじょうに懐かしかった。それでいていまどきの劇場らしく、ちゃんと床に傾斜がついているので、前の席に多少座高が高めの人が座ったとしても、スクリーンが見えなくなる心配がない。
客層はやはり大人の男性やカップルが中心であった。旭川の実家でレンタルのビデオを観たときからおそらく四半世紀以上のあいだに、私もいろいろな音楽を聴いてきて、「ラスト・ワルツ」に出演しているアーティストたちがいかにすごい人たちであるか、また、その音楽の良さもそれなりに理解できるようになった。ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ヴァン・モリソン、ジョニ・ミッチェル、エリック・クラプトン、ドクター・ジョン、マディ・ウォーターズ、ポール・バターフィールド、エミルー・ハリス、ニール・ダイヤモンド、ロニー・ホーキンスなど、錚々たるゲスト陣である。最後のセッションにはリンゴ・スター、ロン・ウッドも加わる。
ロックンロールとはそもそもブルーズやカントリーといった様々な音楽がミックスされて生まれた音楽なのだが、ザ・バンドの音楽はそのハイブリッド感がひじょうに高度に表現されたもので、旭川の実家でレンタルビデオで観たときの私のようにコンテンポラリーなポップ・ミュージックばかり聴いてきたような耳にはやや地味に聴こえてしまうのだが、様々な音楽を聴くことにより、そのツボが深まれば深まるほど豊潤な味わいを堪能できるようなものなのであろう。
まさに極上のライブ音楽が次から次へと演奏され、その合間にバンドのインタヴューが挿入され、その歴史やエピソードなどが語られる。ロックを効果的に用いた素晴らしい映画を多数生み出しているマーティン・スコセッシが監督しているということもあり、そのバランスも絶妙である。また、この映画は大音量で観てくれというようなテロップが冒頭に出るのだが、それを汲んで劇場では普段よりも大きな音量で上映していたようである。それによって臨場感が増し、より音楽を楽しめたように思える。
40年前の映画だとかそんなことは関係なく、その世界に没入してしまった。というか、ここで演奏されている音楽そのものがひじょうに素晴らしく、古いとか新しいとかを超越した圧倒的な強度を持っているのだ。
ひじょうに満足度の高い体験であり、他にもこのような企画があればぜひ今後、行ってみたいと思った。
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