一昨年、サンストリート亀戸で。 | …

i am so disapointed.

一昨年の3月30日は水曜日で、昼間はわりと暖かかったような記憶がある。取り敢えず電車を乗り継いで、総武線の亀戸という駅で降りたのだろう。東京で生活をしてもう長いのだが、亀戸の駅で降りたのはこの時がはじめてであった。iPhoneのグーグルマップアプリを起動し、それを頼りにサンストリート亀戸というショッピングセンターのような所に向かった。地元の人たちから18年間にわたって愛されてきたが、3月いっぱいをもって閉館してしまうということであった。経営不振などの理由によるものではなく、元から期間限定での営業だったのだという。

 

このショッピングセンターには野外ステージがあり、そこでは過去に様々なアイドルやイベントが開催されてきたのだという。中でもアイドルのイベントは多く開催され、かつては大ブレイクを果たす前のPerfumeも出演していたということである。そのような経緯から、「アイドルの聖地」などとも呼ばれていたようだ。とはいえ、その少し前まで私はこのショッピングセンターのことをまったく知らなかった。それがなぜ閉館直前になって来ようと思ったかというと、Negiccoというアイドルグループのリリースイベントに参加するためであった。

 

Negiccoは2003年に新潟で結成されたアイドルグループで、現在も地元を拠点として活動しているということであったが、楽曲の良さやメンバーのキャラクターによって、少しずつ人気を全国区に広げているようであった。2013年リリースのシングル「アイドルばかり聴かないで」は元ピチカート・ファイヴの小西康陽さんが作詞・作曲・プロデュースということで、少し話題になっていたことを覚えていた。しかし、それ以上知ろうとするわけでもなく、そのまま時間は過ぎていった。その後、たまたま新宿のタワーレコードに行ったらよく知らないアイドルのような人たちがファンと交流をするイベントのようなものをやっていて、近づいてポスターを見たらNegiccoと書いてあったこともあった。おそらくどこかの地方のローカルアイドルで、東京にもそういうのを追いかけているコアでマニアックな人たちがある程度いて、それなりに需要があるのだろう。当時の認識はその程度のものである。

 

この月のはじめに妻と銀座に行ったのだが、有楽町の無印良品が見たいというので、その間、近くの三省堂書店で時間を潰すことにした。アイドルと中年ファンについての新刊が平積みされていたので立ち読みしていたところ、前々年の11月26日でモーニング娘。'14(当時)を卒業し、芸能活動を無期限休止していた道重さゆみの卒業スピーチに言及されていた。私はその現場にいたし、それはとても素晴らしいものだったので、別に他のアイドルに興味があるわけではないが、取り敢えず記念に買っておくことにした。家に帰って読んでみるとこれがとてもおもしろくて、2冊の本をほぼノンストップで一気に読み終えてしまったのだ。いろいろな感想があったのだが、アイドルブームといわれているが、いまはアイドルの世界も多様化、細分化されて、いろいろなタイプの人たちがいるのだな、とも思った。

 

その中でもNegiccoというグループについてはなんとなく聴いてみた方がいいのではないかという予感がして、Apple Musicで検索してみたところ、その時点での最新作ではなかったが、「Melody Palette」というアルバムがあったので軽く聴いてみることにした。どんなものかチェックしてみようという程度であり、けしてじっくり聴き込むつもりではなかった。どうやら私の音楽の趣味に近いことをやっていそうな気もするのだが、そうはいってもアイドルであり、それほど気に入るとは思っていなかった。ところが聴いているうちに、これはすごく良いのではないかと思えてきたのである。元々、ポップスはジャンルを問わずにいろいろ好きなのだが、基本的に新しいポップ・ミュージックというのは若者のものであり、大人が聴いてもそれほど良いとは思えないのではないか、稀にそういうのもあることは知っているが、まさかアイドルでそれは無いだろう、いまとなってはまったくの偏見であり、先入観ではあるのだが、当時は普通に何の疑いもなくそう思っていた。ところが、これはかなり良いのではないか。シティ・ポップとか「渋谷系」を聴きたいのならばオリジナルのアーティストの音楽を聴けばいいのだが、この音楽にはそれらの要素を取り入れつつも、新しい日本のポップスとしてアップデートしているというか、もしかして高校生ぐらいの頃に松田聖子の曲を大滝詠一などが作っていて、本人の歌も素晴らしく、アイドルではあってもポップスとしてものすごく優れていたのだが、ああいう感じでもあるのだろうか。

 

それからNegiccoの過去の動画を観たりファンの人たちのブログを読んだりするうちにどんどん好きになっていき、どうしていままでこんなに良いものを知らなかったのだろうと思うようになった。そうなるとやはり直接に観たくなるというものである。ちょうどニュー・シングルの「矛盾、はじめまして。」がリリースされるということで、そのビデオも公開されていたのだが、これがまたものすごくおしゃれな曲だったのである。リリースイベントというのがあり、無料でミニ・ライブが観覧できるほか、CDを買うとメンバーと握手もできるということであった。そして、直近で行けそうだったのが、この日のサンストリート亀戸だったのである。

 

ちなみに「Melody Palette」をはじめて聴いた時だが、1曲目の「愛のタワー・オブ・ラヴ」でなかなかカッコいいじゃないかと思い、2曲目の「あなたとPop With You!」ではどこかかつてのシティ・ポップを思わせるようなところがあり、懐かしさもあるが間違いなく好きだと思った。続いて、小西康陽が作詞・作曲した「アイドルばかり聴かないで」は、やはり歌詞がひじょうにおもしろいが、曲調やアレンジが普通に「渋谷系」ではないか。そして、4曲目の「イミシン☆かもだけど」だが、これもアイドルポップスとかいう以前に、私がそれまでに聴いてきたいろいろなポップ・ミュージックの最新型として聴ける強度を持っていたし、ストリングスがすごくきれいで素敵である。そして、好きな相手に本音を言いそうになるのだが、その後の「ごめん 今のナシ」という部分が最高で、これはアイドルポップスとしてもかなり良いぞと思ったのである。

 

当時における最新アルバム「Rice&Snow」はこの時点ではApple Musicで配信されていなかったのだが、ちょうどその頃にNegiccoは全国ツアーを回っていて、短い動画が少しずつアップされていた。そこで「二人の遊戯」という曲のライブ動画を観て、かなり心を掴まれたのである。そのライブ動画は生バンド演奏をバックにしたもので、ボーカルの音質があまり良くなくて聴き取りにくいのだが、曲調とサウンドがまさにシティ・ポップという感じでカッコよく、歌いながら踊るNegiccoの雰囲気がどこか大人の色香を醸し出してもいて、こんな感じのグループはじつは見たことがないのではないかという気分になった。アルバムの全曲試聴用動画を再生してみると、曲はひじょうにバラエティーにとんでいて、どれも良い。それでアルバムをダウンロード購入したのだが、かなり良くてずっと聴いていた。その頃、仕事が忙しくて、真夜中に一人で聴きながら作業していることなどもあったのだが、「1000%の片想い」というモータウンのようなリズムの胸キュンソングが本当にすごく良くて、思わず泣きそうになるという謎の現象が発生した。

 

 

 

平日の温かい午後で、サンストリート亀戸はおそらく地元の人たちでにぎわっていた。閉館を惜しんで写真を撮る人たちの姿も見かけた。本当に地元の人たちから愛されていたのだな、と思った。物販の列はそれなりにできてはいたが、それほど長いわけでもなく、雑誌を読んでいるうちに順番がきた。「矛盾、はじめまして。」のシングルCD買い、ネギ券なるものを1枚もらった。これでメンバーと握手ができるのだという。別に握手会には参加できなくてもよかったのだが、何も買わずにミニ・ライブを観るのは何か申し訳ないような気がしたのと、純粋にCDは買いたかったのだ。

 

ステージの前に椅子が置かれているのだが、まだそれほど客も集まっていなく、前から数列目ぐらいに座ることができた。雑誌を読みながら待っている間に外はだんだん暗くなり、肌寒くもなってきた。昼間は暖かかったのでシャツ1枚だけで来たのだが、さすがに夜は寒くなってくる。やがて、Negiccoの3人、Nao☆、Megu、Kaedeがステージに登場した。簡単に自己紹介をしてから、リハーサルがあるようだ。アイドルの挨拶というと、テレビなどでよく見るやたらと長くてキャピキャピしたものをイメージしていたのだが、Negiccoの場合は手短であり、しかもテンションがそれほど高くはないな、と思った。そこがナチュラルで良いのかもしれない。

 

リハーサルに選ばれたのは、「あなたとPop With You!」であった。本番でやる曲をリハーサルするものかと思っていたのだがそうではないらしく、この曲は何年か前にリリースイベントをサンストリート亀戸で行ったという理由での選曲だったようだ。それにしても、この曲はかなり好きである。夏のはじまりをテーマにしているので、むしろ肌寒くすらなってきたこの時の状況にはまったくマッチしていないのだが、いずれもっと相応しい状況でぜひ聴いてみたいと思ったのであった。

 

ところがじつはこの曲はシングル曲であるにもかかわらず、この当時のセットリストにはほとんど入っていなく、その後、私は何度かNegiccoのライブやイベントに足を運ぶのだが、一度も聴くことができなかった。そして、翌年の4月に行われたZepp DiverCityでのライブにおいて、最高の状況で体験をすることになるのだが、これについて書くとまた長くなるので、今回は割愛しておく。

 

 

一旦ステージからはけたメンバーがふたたび登場し、リリースイベントの本編がはじまった。まずは最新シングル表題曲の「矛盾、はじめました。」である。ラテン・フレーバー溢れるシティ・ポップで、土岐麻子さんによる詞は女子会的な内容を持つものである。この曲を収録したアルバム「ティー・フォー・スリー」が5月にリリースされるのだが、明らかにターゲットを同性に向けてきたと、ファンの間でも話題になっていたような気がする。結果的には女性や新規のファンも増えてよかったのではないかという印象があるのだが、本当に申し訳ないぐらいにNegiccoのライブやイベントには行けていないので、何ともいえないところである。

 

私の周りの大人の女性音楽ファンに聴かせてもこの曲はすこぶる評判がよく、良い意味で思っていたのと全然違ったとか、とにかくおしゃれだという評価を受けている。

 

 

続いてMCになり、デビューして間もない頃にもここでイベントをやらせてもらったが、その時には人が全然集まらなかったというような話になった。Negiccoというグループ自体、かなりの紆余曲折の末、今日に至っている苦労人なわけだが、この日はその歴史をかなり以前から見てきたファンの方々もかなり訪れていたらしく、気がつくと会場にはかなりの数の人が集まっていた。かつてPerfumeがここでイベントをやっている時に、Negiccoの曲を書いているconnieさんがCDを手渡したというようなエピソードも話された。そして、次の曲は「矛盾、はじめまして。」のカップリング曲「楽園の余韻」なのだが、表題曲のおしゃれなイメージとは打って変わった、謎の猫ソングとなっている。メンバーが猫のポーズを取るような振り付けもあり、ファンにもそれを真似することが期待されているのだが、おそらくはじめて観る人が多く、うまく対応できずにいる。すると、リーダーのNao☆ちゃんが「何を恥ずかしがっているんだ」などと、あくまでゆるめに煽るのである。

 

この曲のビデオはメンバーがただただ猫とたわむれるという心和むものなのだが、かえぽことKaedeは猫アレルギーのため、ガラス越しにいる。まったくの余談だが、そんなかえぽの愛犬と私の家の飼い猫のうちの1匹とは名前が同じである。知らんがな。

 

 

じつはこの曲をライブでやることがきわめて少なく、私は初回にしてかなり貴重な現場に居合わせたことになるのだ。

 

続いて、テクノポップのようなイントロに続き、曲は「完全攻略」である。これもレーベル移籍前の曲であり、ライブでやる機会はそれほど多くはないようである。最近の大人っぽくておしゃれな路線とはかなり異なるのだが、ポップスとしてひじょうにおもしろい構造を持っているように思える。私は過去の動画でこの曲のライブやテレビ出演時のパフォーマンスを観て、そのユニークさに打ちのめされていたので、早くもライブで体験できたことをとてもうれしく思ったのである。「ネギ!ネギ!」「ハイハイハイハイ」などの掛け声も、ひじょうに楽しいものである。あくまで自発的かつ平和的なのがすごく心地いい。

 

 

続いて、「トキメキ★マイドリーム」もかなり以前の曲らしく、サンストリート亀戸における最後のアイドルイベントということを意識しての選曲なのであろう。残念ながらNegiccoの音楽を知ってから1ヶ月も経っていない私には分からない思い入れが、特に古くからのファンにはあるようで、会場は大いに盛り上がっている。そして、人気曲の「圧倒的なスタイル」へと続く。この曲では途中にファンがみんなでラインダンスをする所があり、はじめて来た私のような者にはひじょうにハードルが高いなと思っていたのだが、メンバーの誘導もひじょうに分かりやすく、かつここまでの挙動から私のことを新規かよく知らない非ファンであると判断してくれたと思われる隣のファンの方が、ごく自然に誘ってくれた。「右!ハイ!左!ハイ!右!ハイ!左!ハイ!」。いや、楽しい。何だ、この楽しさは。

 

そして、「さよならMusic」である。オリジナルアルバム未収録のシングルカップリング曲でありながらひじょうに人気が高く、ライブでも重要なところで歌われる。この時点で私にはあまり聴き覚えがなかったのだが、すぐに気に入ってしまった。メロディーがカッコよく、歌詞に英語が多いと思っていたのだが、後で調べると「Goin' now」だと思っていた箇所は「強引な」、「You've been known」だと思っていた箇所は「指の」、そして、よく聴き取れなかったのだがおそらく英語に違いないと思っていたところは「Oh! 新潟 超いいな アイドルとかだナァ」、さらにぽんちゃことMeguのカッコいいラップパートのリリックは「Yeah この蕎麦へぎじゃないが そうだネギ洗い 加茂!」である。

 

「嬉しすぎて最高 だから余計に終わりを考えてしまう」という歌詞にもあるが、楽しい瞬間は永遠には続かないからいまを大切にしようという人生における大切なメッセージが込められながら、じつはアイドルとファンとの関係性のアナロジーになっていたり、シングル表題曲をつくった西寺郷太さん率いるNONA REEVESへのオマージュを含んでいたりと、重層的にも楽しめまくる最高の曲である。私がよくブログで用いる「偶然の運命」というフレーズは、この曲の歌詞からの引用に他ならない。

 

 

そして、最後は前年の秋にリリースされたシングル「ねぇバーディア」である。この曲もアース・ウインド・アンド・ファイアーとかキャンディーズとか日比谷野音とか直江兼続とかいろいろな仕掛けがあるのだが、この時点ではそんなことはまったく知らなかった。それでも単純にすごく良い曲だと思っていた。イントロが終わり、歌がはじまるとファンがただ手拍子をするのだが、この感じがなんだかすごく良いなと思った。また、「あなたに あなたに あなたに 恋したんです」のところでの指差し的なやつ、「好きになってもいいのかな」「いいよ~」の掛け合い、途中のセリフや、後にケチャと呼ぶのだと知ることになるやつなど、この日はじめて体験することが多すぎるのだが、早くこういうのを全部把握してみんなと一緒にやりたいとか、そもそも自分はそういうノリに人間ではないと思っていたのだが、そんなことは関係がなくなっていた。そして、ファンの人たちが持っているネギの形と色をしたペンライトのようなものが欲しいとも思った。これはネギライトといって、通信販売で買うことができるとおしえてくださったファンの方とは、先日もWHY@DOLLのライブ会場でお会いした。

 

 

とにかく大満足、これは良いものを知ったものだと思ったのである。その後、特典会があり、Nao☆ちゃんは体調不良で欠席ということであった。アイドルの握手会というとすぐに剥されるようなイメージがあったのだが、見ているとわりと1人1人ゆっくり話せている。これに怖気づいてしまったことと、とにかくライブだけで大満足していた。これからゆっくりと段階を踏んでいこうと、そのような思いもあり、この日はネギ券を使わずに帰った。

 

その後、私はNegiccoを育んだ新潟の街にはじめて行ったり、さらにライブやイベントに足を運び、ますますNegiccoのことが好きになっていくのであった。

 

とか言いながら最近はライブやイベントにまったく行けていなく、まったくもっていかんともしがたいのだが、この日をきっかけに私がNegiccoのライブをはじめて知ったことはその後に大きく影響を及ぼし、同時代のポップ・ミュージックをリアルに楽しめている現在にも繋がっている。

 

 

{2ACDDC01-800F-4305-95C1-592CCF57FF0D}
 
{31EBC6B3-5471-4B45-AE2E-5359B528F4A0}


{762FF664-5F47-4C07-B8A5-C5003F105A4A}

 

 

{A6045BA9-6D89-4A1E-961D-73990BF613BD}

 

 

 

 

 

Negicco 2011~2017 -BEST- 2 Negicco 2011~2017 -BEST- 2
3,213円
Amazon

 

 

Negicco 2003~2012 -BEST- Negicco 2003~2012 -BEST-
2,160円
Amazon