WHY@DOLL「Promises, Promises」を聴いた。 | …

i am so disappointed.

WHY@DOLLのニュー・シングル「Show Me Your Smile」が発売される前日、東京には大雪が降った。発売前日といってもCDはお店に届いていて、もうその日から買うことができる。誰がいつ頃から言い出したのかは定かではないが、発売日よりも前に入手することをフライングゲット、略してフラゲ、ゆえに発売前日のことをフラゲ日と言うようになった。

 

そのフラゲ日に、WHY@DOLLはタワー・レコード新宿店でリリースイベントを行った。21時からという遅い時間帯からだったのだが、その日は大雪のために交通機関が止まったり遅れたり、お店も予定を早めて閉めたところが少なくはなかったようだ。このリリースイベントについても、ある時点までは中止の可能性があったようなのだが、結果的に決行されたようである。

 

とはいえ、私の場合はきわめて個人的な理由により、今年に入ってからいよいよ本格的にライブやイベントに行くことが困難な状況になり、いかんともしがたい。昨年のある時期からその予感はかなり強く感じていて、心の準備もしていたのだが、いざそうなってみると、これがまあつまらなさの極みなわけである。

 

WHY@DOLLのことはデビューしてから5年以上もの間、存在すら知らなくて、とあるきっかけで曲を聴いたらすごく良くて、軽い気持ちでリリースイベントに行ったらまたすごく良くて、たまたま日程にも融通がきくフェイズでもあったため、それまでの私ではありえない頻度でライブとかイベントとかに行けていただけである。トータルでわずか5ヶ月にも満たない期間のことである。

 

音源を聴いて好きになったのだから、またその頃のように楽しめばいいのだが、WHY@DOLLのライブは本当に良くて、音源の良さがまた何百倍にも広がるような類いのものである。知ってしまった以上、聴けば行きたくなることは明白であり、しかし現実的に行くことは出来ず、そのようなジレンマを回避するため、最近はWHY@DOLLの音楽を聴くことすら避けていたという本末転倒ぶりである。弱ったものだ。

 

大雪の影響を心配するファンの声に対し、メンバーの浦谷はるなさんは、むしろ地元の北海道を思い出してテンションが上っているというようなツイートをしていた。食料を買うために外に出ると、雪景色であった。北海道で暮らしていた期間よりも東京に出て来てからの方が長くなってから久しいが、それでも雪が降る日は何もかもがとても懐かしくなる(ピチカート・ファイヴ「メッセージ・ソング」)。特にこの日の雪景色は、地元感がとても強かった。

 

「Show Me Your Smile」のCDは昨年にライブやイベントの会場で何枚か予約していて、池袋サンシャインシティの新星堂にあるはずなのだが、いつ取りに行けるのか分かったものではない。午前0時にApple MusicでWHY@DOLLと検索すると、「Show Me Your Smile」のジャケットが表示された。ライブラリに追加し、それから聴いた。曲、サウンド、ボーカル、これまでに聴いてきたWHY@DOLLの音楽とは路線が違う新境地ともいえる2曲だが、やはりすごく好きである。それから何度もリピート再生した。完全に把握するまで、他のものを聴きたいという気がまったく起こらない。まるで10代や20代の頃に、大好きなアーティストの新作を心待ちにして、手に入れたらそれを何度でも聴いていたようなあの感じである。

 

ライブやイベントの楽しさを知ってしまったいまも、私はWHY@DOLLを音楽アーティストとして純粋に楽しむことができるのだと分かり、それがとてもうれしかった。

 

リリース日は渋谷Gladでフリー・ライブが行われ、生配信もされるのだという。ツイッターのタイムラインを見ていると少しだけ動画が流れてきて、紛れもなくあの渋谷Gladであった。音を出すこともできないし、すぐにやるべきことに戻らなければならなかったが、振り付けの感じからおそらく「夜を泳いで」だろうと思った。つい1ヶ月半前までは普通に行っていたその場所が、なんだかとても遠く感じられた。

 

夜遅くに帰宅する時、やはりiPhoneで「Show Me Your Smile」を聴いた。最近、自転車ではなく徒歩で行き来しているが、これもあと数日間のことであり、もうじきまた新しい環境に身を置くことになる。徒歩だとその間に好きな音楽が聴けるので楽しい。いまは「Show Me Your Smile」がとにかく聴きたいので、リピート再生した。音源をイヤフォンで聴くと、あらためてボーカルがすごく良いと感じられるし、歌詞の意味や全体の世界観なども堪能しながら、夜の世田谷区を歩き続けた。続いて、カップリングの「Promises, Promises」が流れる。

 

ライブで初披露された時、もう私は現場には行けないスケジュールに拘束されていた。その後、ラジオ音源などで聴く手段はあったのだが、聴くと行きたくなるので敢えて聴かなかった。つまり、リリース日を迎えた直後の真夜中に、Apple Musicではじめて聴いたのである。ユーロビートっぽいサウンドに、WHY@DOLLの2人が作詞した可愛らしい歌詞も素敵な、とても楽しい曲だなと思った。

 

あらためて歩きながら集中して聴くと、この曲がさらに良く思えてきた。これは、いわゆるパーフェクト・ポップ・ソングを目指した志の高い曲なのではないだろうか。歌詞の裏テーマはバレンタインデーらしく、同じくWHY@DOLLの2人が作詞した「恋はシュビドゥビドゥバ!」と同様に、恋がはじまったばかりのときめきという、普遍的かつとても強い感情のことを描いている。全体的にポップでキュートなのだが、その中で突然出てくる「酸いも甘いも」というフレーズが、私にはやはりツボである。

 

ザ・スミスが解散した1987年はパブリック・エナミーがデビュー・アルバムをリリースした年でもあり、私は大好きだったインディー・ギター音楽に対する興味を少しずつ失い、ジャージを着てアディダスのスニーカーを履きだしたりしていた。ヒップホップやハウス・ミュージックのレコードを買うことが多くなったのだが、ペット・ショップ・ボーイズのやっていることがすごくカッコいいとも思っていた。

 

すごく批評的な視点を持った2人組ではあったのだが、それを最新型のポップ音楽ともいえる手法でやっていて、しかも大ヒットを連発してしまうという、ひじょうに理想的な活動状況であった。エルヴィス・プレスリーなどで知られる「オールウェイス・オン・マイ・マインド」をユーロビート風にカバーして全英第1位になったりしていたのだが、果たしてパロディーとして茶化してやっているのか、それとも名曲を最新型のポップ音楽としてアップデートしているのか、その真意がやや分かりかねるところがあったのだが、いずれにしても何だかものすごく痛快だったのである。

 

この年のロック界の大ヒットといえば、U2の「ヨシュア・トゥリー」だが、ペット・ショップ・ボーイズは1990年代に入るとこのシリアスなロック・アルバムから「約束の地」を、やはり軽薄なダンス・ミュージックとしてカバーし、さらには1980年代のディスコ・ヒットでWHY@DOLLもカバーしているボーイズ・タウン・ギャング「君の瞳に恋してる」とメドレー化してしまうという、天才的な作品も残している(そして、これも全英4位の大ヒット)。

 

当時、カイリー・ミノーグ「ラッキー・ラヴ」(やはり、WHY@DOLLがカバーしている)やリック・アストリー「ネヴァー・ゴナ・ギヴ・ユー・アップ」などが大ヒットしていて、いずれもイギリスのプロデューサー・チーム、ストック・エイトキン・ウォーターマンが手がけていた。これらの曲は日本でも大ヒットし、当時、大学生が六本木のスクエアビルに入っているようなディスコで開催するパーティーではヘビーローテーションされていたと思われる。

 

私は当時のキャンパスにおいて、このようなパーティーでヒューヒュー言っているタイプを軽蔑しているポーズで嫉妬して、まったく異なったタイプの音楽ばかり聴いていたので、推測でしか言うことができないのだが、青山学院大学の購買部のラジカセから流れるリック・アストリーに合わせて、ワンレングスにボディーコンシャスな洋服を着た女学生がノリノリで踊っているところは見たことがある(知らんがな)。

 

というわけで、じつは当時、このタイプの音楽を完全にバカにしていたようなところがあるのだが、秘かにじつはこれこそが1960年代におけるフィル・スペクターやモータウンみたいに、この時代における最新型のポップスなのかもしれないとも思っていたし、カイリー・ミノーグやリック・アストリーのCDもちゃんと買っていた。あと、ストック・エイトキン・ウォーターマンがプロデュースしたバナナラマの「第一級恋愛罪」などはかなり気に入っていた。

 

WHY@DOLLの「Promises, Promises」を聴いていると、この辺りの音楽が思い出され、ただのインスパイアというよりは、パーフェクト・ポップ・ソングへの高い志のようなものが感じられる。これは、同じく青木千春、浦谷はるなが作詞し、吉田哲人が作詞をした「恋はシュビドゥビドゥバ!」が1960年代のモータウンやグループサウンズをモチーフにしたのに近いような気がする。

 

これらのサウンドがヒット・チャートを席巻していた1980年代後半、1975年10月生れの吉田哲人氏は小学校高学年から中学生ぐらいの頃である。私にとってのディスコやAORがそうであるように、その影響は意識的にしろ無意識的にしろ、かなり強いのではないかと思われる。

 

「Promises, Promises」がライブで初披露された頃、そんなものを読めば余計に行きたくなってつらい思いをするのは分かり切っているのだが、いろいろなWHY@DOLLファンの方々の感想ツイートなどは、やはり読んでいた。全体的になんとなくユーロビートっぽいのかなという印象は受けたのだが、その中で、WHY@DOLLファン界における知性としてひじょうに信頼のおける方がノーランズのヒット曲に言及されていた。これは意外であった。

 

ノーランズは1980年代のはじめにヒット曲を連発したアイルランド出身の女性グループで、日本ではシングル「ダンシング・シスター」が洋楽にもかかわらずオリコン第1位を記録したりもしていた。当時、同じようなタイプのヨーロッパの女性グループが日本でヒットを連発することが多く、キャンディー・ポップなどと呼ばれていた記憶がある。他にはアラベスク、ドリー・ドッツ、トリックスなどがいて、主にディスコでヒットしていたような印象がある。

 

ユーロビートがヒットした1980年代後半とは時代が違い、同じディスコ・ヒットではあるものの、ユーロビートほど電子音のイメージは無い。しかし、「Promises, Promises」を何度も聴いているうちに、なんとなく分かった。曲の最後の方で「イェーイ、イェーイ」と歌われているのだが(3分51秒あたり)、この後に思わず「I'm in the mood for dancing」と、ノーランズ「ダンシング・シスター」の歌い出し(じつはこれが原題でもある)を口ずさみたくなる。しかも、その前の「フーッ、フーッ、フーッ」というコーラスまでも、「Promises, Promises」では引用されているのだ。これはすごい。

 

ユーロビートのテイストが強い曲ではあるが、イントロはおとぎの国への入り口のようなどこかメルヘンチックなメロディーとサウンドであり、加工された「I wanna be your girlfriend」のフレーズは、やはり1987年にリリースされたロジャー「アイ・ウォナ・ビー・ユア・マン」へのオマージュのようにも感じられる。

 

それから、聴いているうちに、「sick sick sick...Boys don't cry」みたいないつかのヒット曲に似たものを感じるな、と思った。あれは何だったのだろうと、夜道を歩きながら思い出していたところ、おそらくWinkの何かだろうと思った。1980年代の終わりから1990年代にかけて大ヒットを連発し、レコード大賞も獲ったはずの日本の女性2人組ユニットである。少し前にWHY@DOLLについてのとある記事を読んでいると、一時期、Winkの現代版のような路線を考えたことがあるというようなことが書かれていた。ユーロビートのカバーをやっていたのは、そのような意図もあったのだろうか。

 

Winkについてはもちろんすごくヒットしていたし、無表情で歌う姿が記憶に残っているのと、WHY@DOLLの「秒速Party Night」の振り付けの一部に「淋しい熱帯魚」を思わせる部分があるな、という程度の印象であった。あと、いつかのWHY@DOLL定期公演終わりの串カツ田中にて、あるファンの方から私が知らないWinkの曲を教えていただき、聴いてみたところかなり良かったということもあった。

 

立ち止まって、路上でWinkのディスコグラフィーを調べてみた。おそらくあの曲は「涙を見せないで~Boys Don't Cry~」で、1989年3月16日発売、オリコン1位ということである。Apple Musicで検索し、聴いてみた。するとなんと、イントロであのノーランズ「ダンシング・シスター」を思わせるメロディーでコーラスが入っていたのである。「イェーイ、イェーイ」ではなく、「フゥーウ、フゥーウ」ではあったが。

 

それにしてもWinkのこの曲、ヒットしていた当時に喫茶店の有線放送だとかテレビの歌番組で聴いただけで、こうしてちゃんとイヤフォンで聴くのはおそらくはじめてなのだが、ポップスとしてとても魅力的である。ベスト・アルバムあたりを、ちゃんと聴いてみようという気分になった。

 

そして、ふたたび立ち止まり、iPhoneでこの曲のことを調べた(けしていわゆる歩きスマホはしていない。危険なのでダメ、ゼッタイ)。ユーゴスラビアの音楽ユニット、ムーラン・ルージュのカバーらしい。そして、B面の「Only Lonely」はノーランズと同じく、1980年代のはじめにキャンディー・ポップにカテゴライズされていたドゥーリーズのヒット曲「ボディ・ランゲージ」(オリコン最高19位)のカバーだという。これもまた興味深いのでまたいつか聴いてみるとして、とりあえずムーラン・ルージュによる原曲「ボーイズ・ドント・クライ」を聴いてみることにした。

 

Winkのカバーがわりと原曲に忠実であることが分かるが、あのノーランズ「ダンシング・シスター」を思わせるコーラスは入っていない。Winkのカバー・バージョン制作時に、あえて付け加えられたもののようである。

 

Winkのかわいらしいボーカルと比較して、ムーラン・ルージュの女性ボーカルはより本格的にしっかり歌っている。いかにもユーロ・ポップという感じで、なかなか楽しい。その後もお馴染みのメロディーが英語で歌われるのを油断して聴いていたのだが、なんと歌詞で「Promises, Promises」と歌われているではないか。これは偶然なのか、それとも元ネタなのか。じつに刺激的な音楽体験であった。

 

帰宅してからムーラン・ルージュ「ボーイズ・ドンド・クライ」の歌詞をちゃんと調べてみようと検索してみたのだが、なぜかそこに載っているのはザ・キュアーによる同じタイトルの別の曲のものであった。

 

 

 

 

 

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