WHY@DOLL「恋はシュビドゥビドゥバ!」のこと。 | …

i am so disappointed.

北海道出身のオーガニックガールズユニット、WHY@DOLLの2ndアルバム「WHY@DOLL」がかなり気に入っていて、8月1日にリリースされてからずっと聴いている。収録された10曲すべてが素晴らしいのだが、今日はその中からアルバムの最後に収録された「恋はシュビドゥビドゥバ!」について書いてみたい。

 

先日発売された音楽雑誌「ミュージック・マガジン」9月号の「アルバム・レヴュー」において、音楽評論家の原田和典氏は「WHY@DOLL」を「ポップスの玉手箱と呼びたくなる内容」と評し、10点満点の高評価をあたえている。

 

「WHY@DOLL」に収録された10曲はそれぞれ、様々なジャンルや時代の優れたポップ音楽の影響をうかがわせるが、それはけしてただ単にメロディーやアレンジが似ているということではなく、優れたポップ音楽の持つ原初的な楽しさやときめき、躍動感のようなものをWHY@DOLLというアーティストの表現によって、最新型にアップデートしたものである。

 

シティ・ポップ、ディスコ、R&B、ファンク、カントリー、60年代ポップといった多彩なジャンルの音楽性を持った曲が「WHY@DOLL」には収録されているが、その表現によってすべての曲がWHY@DOLL印のポップスになっているため、バラエティーにとんではいるが、とっ散らかった印象はない。

 

このアルバムによって、WHY@DOLLは表現の幅をより広げたように思える。

 

カントリー調の曲に初めて挑戦したという青木千春のソロ曲「Hello Hello Hello」、そしてモータウンなどの60年代ポップスのテイストを感じさせる「恋はシュビドゥビドゥバ!」、アルバムをこの2曲が締めることによって、その印象を強いものにしているような気がする。

 

ダンス・ミュージックの影響を受けた強力なシングル曲「菫アイオライト」、そして、スーパーキャッチーな「キミはSteady」という俄然強めの1、2パンチを冒頭でブチかまし、ディスコテイストですでにライブの鉄板曲となりつつある「Tokyo Dancing」、究極のときめきアイドルポップス「恋なのかな?」、続いてダンス・ミュージックの影響を感じさせながらも効果音やボーカルのエフェクトなども楽しい「マホウノカガミ」、次からはアナログ盤でいうところのB面になるのだろうか、浦谷はるなのソロ曲「忘れないで」はディスコとニューミュージックのハイブリッドのようなすごくアーベインでカッコいい曲、「Dreamin' Night」はメンバーも大のお気に入りだという都会的な夜のイメージのR&B、さらに同じくR&Bの影響を強く感じさせるミディアム・バラード「夜を泳いで」である。

 

ここまででもひじょうにクオリティーが高い作品だと思うのだが、最後に「Hello Hello Hello」「恋はシュビドゥビドゥバ!」が配置されることによって、かなりバラエティー感が増したというか、オーガニックガールズユニットという肩書により相応しいアルバムになったような気がする。

 

「WHY@DOLL」のリリース日が発表されたのは2月19日、代官山ユニットでのワンマンライブにおいてだったという。そして、曲名やクレジットなどの全容が発表されたのが6月18日の「やついフェス」においてだったという。

 

ネットムーバーに掲載されたWHY@DOLLとの対談記事によると、吉田哲人氏は「恋はシュビドゥビドゥバ!」について、あらかじめ「アルバムをまとめるような曲」としてオーダーされたということであり、ゆえに最後に作るしかなかったと語っている。

 

3月1日、日本のポップ音楽界に多大なる影響をあたえたムッシュことかまやつひろしが天国へと旅立った。その音楽に強い影響を受けていた吉田哲人氏はムッシュがメンバーであったザ・スパイダースの全てのレコードを聴き直し、やはりその辺りの音楽が原点であることを再認識したというのである。

 

尚、ザ・スパイダースは1960年代に一世を風靡したグループサウンズの代表的なグループで、メンバーには他に堺正章、井上順などがいた。活動期間は1961年から1970年までであり、吉田哲人氏が生まれた1975年にはすでに解散していた。

 

「WHY@DOLL」に収録される曲のクレジットを見た時に、他の作家による作品と曲調がかぶらないようにという考えもあり、このアルバムにザ・スパイダースのような60年代っぽい感じを入れてもいいかというような着想がわいたのだという。だから、「恋はシュビドゥビドゥバ!」の誕生には、かまやつひろしが大きく影響しているのである。

 

「恋はシュビドゥビドゥバ!」をはじめて聴いた時、イントロがスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズの全米No.1ヒット「涙のクラウン」を思い出させ、いきなりうれしくなってしまった。

 

吉田哲人氏はネットムーバーの「美少女PlayList」において、WHY@DOLLに提供した「菫アイオライト」「ラブ・ストーリーは週末に」「恋はシュビドゥビドゥバ!」の3曲に影響をあたえた曲について語っている。

 

「恋はシュビドゥビドゥバ!」のインスピレーション源はザ・スパイダースのヒット曲「あの時君は若かった」だということなのだが、そこには他の要素もいろいろ詰め込まれているようである。

 

吉田哲人氏がこの記事であげているのはモータウンの女性グループ、マーサ&ザ・ヴァンデラスの「ダンシング・イン・ザ・ストリート」だったが、この曲の仮タイトルを「Wall Of Sound」にしていた、とも話している。

 

「Wall Of Sound」と言えば、1960年代にザ・ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」やライチャス・ブラザーズ「ふられた気持ち」などを大ヒットさせたプロデューサー、フィル・スペクターである。「音の壁」と直訳されるその作風とは、録音したトラックを何重にも重ねて文字どおり「壁」のようにすることによって、独自のサウンドを生みだすものであった。

 

また、私がイントロを聴いてすぐに思い浮かべたスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズ「涙のクラウン」については、文中ではふれられていないが、WHY@DOLLに提供した3曲に関わるレコードとして、スティーヴィー・ワンダー「インナーヴィジョンズ」、ブレッド&バター「Barbecue」、ポール・マッカートニー「ニュー」などと一緒に、収録アルバムのジャケットが写真で掲載されている(WHY@DOLLとの対談記事の写真においては、ちはるんがこのレコードのジャケットを持っている)。

 

また、「恋はシュビドゥビドゥバ!」を聴いて、ヴァネッサ・パラディの「ビー・マイ・ベイビー」を思い出したという意見も見かけた。

 

フランスの女優、歌手であるヴァネッサ・パラディがはじめて全曲英語詞でリリースした1992年のアルバム「ビー・マイ・ベイビー」からの先行シングルで、プロデューサーは当時、恋人関係だといわれていたレニー・クラヴィッツである。

 

この曲が流行っていた頃、私は六本木ウェイヴというCDショップで働いていて、このCDが飛ぶように売れていたことを覚えている。

 

UKのヒット・チャート上位が2アンリミテッドなどのテクノで占められがちであり、ブリットポップによってインディー・ギター音楽がヒット・チャートに返り咲くには少し早いこの頃、60年代のポップスの影響が色濃い「ビー・マイ・ベイビー」はいまから四半世紀前の当時において、すでにレトロであった。それが逆に新鮮だったのである。当時、同じように60年代ポップスの価値観を、しかし当時のテクノロジーを用いて復活させたのがセイント・エティエンヌだったような気がする。

 

しかし、先ほども書いたように、「恋はシュビドゥビドゥバ!」に限らず、「WHY@DOLL」収録曲のどこが誰の何という曲に似ているというような話に大きな意味はない。なぜなら、「WHY@DOLL」は単にメロディーやアレンジということにとどまらず、当時のポップ音楽が持っている原初的な楽しさやときめき、躍動感のようなものを、WHY@DOLLというアーティストの表現によってアップデートしたものだからである。

 

「恋はシュビドゥビドゥバ!」の歌詞は、WHY@DOLLの2人、ちはるんこと青木千春とはーちゃんこと浦谷はるなによって書かれている。前回、「ラブ・ストーリーは週末に」の作詞をやはり2人で手がけた時にはパート毎に分けて書いたということなのだが、今回は2人が別々に書いたものを、吉田哲人氏が構成したようである。しかし、サビ部分はほとんどが青木千春によるものらしい。

 

学生時代のことを思い出して書いたというようなことをメンバーは話しているが、この歌詞が本当に素晴らしい。曲やアレンジは60年代のポップスが持つ楽しさやときめき、躍動感のようなものを現在によみがえらせたようなものなのだが、恋する女の子の気持ちをリアルかつヴィヴィッドに描写した歌詞が、その魅力をさらに大きなものにしている。

 

好きな人に出会い、気持ちが溢れ、早くその気持ちを伝えたいのだが、うまく言えない。相手が自分のことをどのように思っているかが気になる、その人の存在そのもの、ふとした笑顔すらが自分の心を大きく揺らし、テレビの星座占いにすら本気ですがりたいような気持になっている。

 

恋をした時の非日常感、楽しくてうれしくて、それでいて少し切なくて苦しい、そんな気分が曲やアレンジとの相乗効果を生み、この作品にとてつもない強度をもたらしている。

 

そして、恋とは「ビー玉よりキレイで」「キャラメルみたいに甘くて」「常夏みたいに暑くて」、いやまったくその通り。この部分をちはるんとはーちゃんのどちらが作詞したのかは定かではないのだが、もう本当に最高である。

 

また、「タップしてやめた君へのメッセージ」「本音を隠し送るスタンプ」という歌詞は、スマートフォンがメインのコミュニケーションツールとなった現在ならではの表現であろう。60年代ポップスのテイストを取り入れた普遍的な曲調やアレンジに、このような現在的な歌詞がのっているところも、この曲の魅力の1つであろう。

 

そして、この曲の中で私が最も好きな箇所、それは3分25秒めあたり、「恋は」の後で、「ううん」と間を置き、「シュビドゥビドゥバ!」と続くところである。

 

ピチカート・ファイヴの1997年のシングル「It's A Beautiful Day」の3分34秒めあたりに、野宮真貴が「うぅ」と少し溜めた後で「天使が微笑むと恋ははじまるの」と歌うところがあって最高なのだが、あれにも似たポップスの快感を感じる(尚、吉田哲人氏は元ピチカート・ファイヴの小西康陽の元で専属マニピュレーターを務めていた)。

 

「恋はシュビドゥビドゥバ!」は恋のはじまりが予感させてくれる、自分自身の存在を根本的なところから輝かせ、生きている喜びを感じさせてくれるような、そのような未来への果てしない期待を音像化した、素晴らしい作品である。

 

ところで、「シュビドゥビドゥバ!」とは、一体何なのだろうか。これを考えたのは、ちはるんらしい。WHY@DOLLの他の曲の歌詞に入っているスキャットのようなものが他に何かないだろうかと調べていた時に見つけ、恋を表現する時に、この言葉を入れると曲調にも合うし、聴く人の想像も広がって楽しいだろうと思ったのだという。

 

これもまた、普遍性と新しさとが一体になったかのような、この曲の魅力の1つになっているような気がする。

 

 

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