江南宵唄 | …

i am so disapointed.

Negiccoが5月24日にリリースした3枚目のアルバム「ティー・フォー・スリー」について、多くの人たちがその魅力を語っているようである。Negiccoやアイドルポップスのファンだけではなく、音楽専門誌やサイトにおいても、わりと高い評価を獲得している。中には早くも2016年を代表する傑作というような評価も見かけ、いくらなんでも気が早すぎやしないだろうかと思ったりしている。

Negiccoファン歴3ヶ月に満たない私も、もちろんとても気に入っている。過大評価や必要以上の神格化は諸刃の剣であり、じゅうぶん注意しなければならない。それは重々承知なのだが、やはり良いものは良い。

その思いを共有したくて、とにかく「ティー・フォー・スリー」について書かれた文章をたくさん読んだ。それぞれお気に入りの曲や注目する点が違っているのだが、それだけいろいろな楽しみ方ができるアルバムだということなのだろう。

充実した内容のこのアルバムの中でも、特に新境地を切り拓いたと思える「江南宵唄」を高く評価する意見が多いようだ。一方、ソフトロックやビーチ・ボーイズなどに詳しく、現役アイドルのアルバムなどはほとんど取り上げることがない「WebVANDA」は「ティー・フォー・スリー」を「2016年を代表するポップス・アルバム」と評価しながらも、この曲には言及していない。

「ティー・フォー・スリー」の全曲試聴用ティーザー映像を観た時、どの曲も気に入ったのだが、特にこの「江南宵唄」が気になった。

歌い方がこれまでのNegiccoとは明らかに違い、そこはかとないエロスさえ漂っていた。流れていたのは「本当の事 本当の事 本当の事 教えて 本当の恋 本当の恋 本当の恋 教えて 愛をつぶやいた 『それはすべて』と 愛をつぶやいた それは『すべて』よ」という部分であった。

映像ではかえぽことKaedeが夜の池袋の街を歩いていて、居酒屋などのネオンがマイルドな猥雑さを演出しているようでもある。

タイトルからどこかエキゾチックな雰囲気も感じたのだが、それは韓国の江南からの連想だったのであろう。しかし、どうやらこれは新潟県にある江南という地名のようである。新潟県民ではない私にはこの江南というのがどのような場所なのかまったく想像がつかず、それが曲調とあいまってミステリアスさを増幅させるのであった。

「ティー・フォー・スリー」リリース数日前に、Negiccoのインタヴューが載った「ミュージック・マガジン」を買った。かえぽは「江南宵唄」について、「最後まで出来上がりが不安でした。この曲に関しては今まで歌ってきた歌い方では歌えないなというのがわかっていたんですけど、いくら練習しても答えは出なくて、『この歌い方で大丈夫ですかね』ってconnieさんに何度も確認してレコーディングしました」と語っている。

また、この号の「アルバム・ピックアップ」において「ティー・フォー・スリー」のレヴューを担当した小山守は、「江南宵曲」について「ミステリアスな匂いのメロディーをウィスパー気味に歌っていて、ソクッとするような色気がある」と評している。

「江南宵唄」を作曲・編曲したのはSpangle call Lilli lineというバンドであり、作詞は同バンドのヴォーカリストである大坪加奈によるものをconnieさんがまとめたようである。

「ティー・フォー・スリー」について書かれた文章を読むと、「江南宵唄」はいかにもSpangle call Lilli lineらしい楽曲だが、これをNegiccoが歌いこなしているのがすごい、というような評価がよく見られる。

私はここ最近の日本のポピュラー音楽にはすこぶる疎く、Spangle call Lilli lineのことをまったく知らなかった。それゆえに、より新鮮な驚きを持って、この曲に出会うことができたのであろう。

「ティー・フォー・スリー」のCDを購入し、さっそく聴いてみた。「江南宵唄」は全曲試聴用ティーザー映像では流れていなかった部分も含め、最高であった。ファンキーでニュー・ウェイヴでキャッチーというじつに刺激的な作品で、かつNegiccoのオリジナリティーもしっかり出ていた。

ギターのフレーズとハンドクラッピングがゴキゲンであった。思い出したのは、デュラン・デュランの「グラビアの美少女」である。1981年に全英5位を記録した、このバンドにとっては初期のヒット曲である。相撲レスラーやセクシーな女性が登場するビデオ・クリップが印象的である。また、フジテレビ「オールナイトフジ」でグラビアアイドルの写真集を紹介する同名コーナーでも流れていた。

久しぶりに聴き直してみたところ、確かに似たような雰囲気はあったが、ハンドクラッピングは入っていなかった。

これまでおもに溌剌として元気な印象のあったNegiccoが、この曲ではマイルドなセクシーさを醸し出しているのが、新境地だと感じる1つの要因でもあるだろう。

それは偶然かとも思っていたのだが、この度、しっかりと歌詞カードを読みながら聴いてみたところ、さまざまな暗喩とも取れる部分があり、ケイト・ブッシュの「神秘の丘」を思い出したりもした。

この曲の歌詞には「曽野木屋」という単語が、最後の方に3回立て続けに出ている。それは、「江南の」「永遠の」「言い伝えの」と形容されるものであり、また、「宵の唄」と続く。

グーグルで「曽野木屋」と検索すると、新潟県にある「曽野木屋酒店」がヒットする。しかし、この酒店は新潟県の江南区ではなく、西区にあるようだ。ただ、江南区曽野木という住所は存在するようである。

ストリートビューでいくつか写真を見てみたのだが、家や公園ぐらいしか見当たらず、「江南宵唄」のイメージとはあまり結びつかない。謎は深まるばかりである。



ティー・フォー・スリー/Negicco

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