そして、2014年のプレイリストを聴いていて、ある曲が流れた時、そこで思わずハッとしたのだ。モーニング娘。'14の「時空を超え 宇宙を超え」である。
懐かしい曲を偶然に耳にして、初めてその曲を聴いた頃のことを思い出したり、当時の感情がよみがえったりすることは、よくあることだ。しかし、まさかたった2年前の曲でこのようなことが起るとは。
2014年の時点で、私がモーニング娘。の曲を買ったり熱心にフォローしたりしなくなってから、もう何年も経っていた。しかし、この年の初めにリリースされたトリプルA面シングル「笑顔の君は太陽さ/君の代わりは居やしない/What is LOVE?」はiTunesで買って、わりと気に入って聴いていた。
EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)をアイドルポップスに取り入れた楽曲とフォーメーションダンスが当時話題だったが、これはなかなかおもしろいと思った。
しかし、特にそれほど深くのめり込むわけでもなく、次のシングル「時空を超え 宇宙を超え」がリリースされた時も、おそらくスルーしていたはずである。このシングルの発売日が4月16日で、それから少し後、出身地の山口県でのコンサートにおいて、道重さゆみがモーニング娘。からの卒業を発表した。
関西ローカルのあるお笑い番組を観ていると、エンディングで「時空を超え 宇宙を超え」のミュージックビデオが流れていた。青っぽい色合いの映像と切ない曲調がマッチしていて、少し気になった。それからやはりiTunesで買って聴いたところ、かなり気に入ってしまった。
メロディーも好きなのだが、サウンドがわりと実験的であり、これはかなり好きだなと思ったのである。
打ち込みのトラックに、ピアノやヴァイオリンのフレーズが効果的に使われていて、メインストリームの音楽としてはかなり攻めているなという印象を持ったのだが、それでいてちゃんと最新型のJ-POPとしての大衆性も持っているというあたりに、おそらくグッときたのではないかと思う。
この時点で、道重さゆみは過去のモーニング娘。卒業メンバーと同様に、卒業後は単独で活動していくのだろうと思っていたのだが、秋になると、卒業後の芸能活動休養が発表された。ここで私はことの重大さに気づいたわけである。
道重さゆみのことは熱心に応援したりフォローしていた時もあれば、そうではない時もあった。しかし、いつも大きな心の支えではあったのである。そこには、CBSラジオの「今夜もうさちゃんピース」を聴いたり、アメーバブログの「サユミンサンドール」を読めば、いつでも最新の道重さゆみを知ることができるという、安心感があったのであろう。それは当たり前のように、いつもずっとそこにあるものなのだと、勝手に思っていた。
そして、「時空を超え 宇宙を超え」は、私にとってさらに重要な1曲になっていくのである。
卒業公演が行われる横浜アリーナのチケットは、なんとか手に入れることができた。もう本当にこれが最後になってしまうかもしれないという焦り、そして、翌日から私は本当にちゃんとやっていけるのだろうかという不安、この頃は本気でそれが心配であった。そこまで精神的に依存していたのかと、頭がクラクラするような思いであった。
横浜アリーナに入り、席についた。そこはもうすでに感傷的なムードで溢れんばかりであった。
オープニングアクトのパフォーマンスが終り、オープニングを告げる音楽にのって、モーニング娘。'14のメンバーが登場した。その姿はじつに勇ましいものであった。1曲目の「TIKI BUN」から、気迫のこもったパフォーマンスであり、客席の盛り上りもすさまじいものであった。
さらに、ここ数年のモーニング娘。コンサートのキラー・チューンである「わがまま 気のまま 愛のジョーク」「What is LOVE?」が続き、興奮はすでに最高潮である。そして、スクリーンにメンバー紹介のVTRが流れた。音楽は「時空を超え 宇宙を超え」のインストゥルメンタルである。
道重さゆみがソファーに座り、本を見ながら微笑んでいる。そこに次々と他のメンバーたち、譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音、飯窪春菜、石田亜佑美、佐藤優樹、尾田さくらが順番に加わり、道重さゆみが手にしている本を一緒に見る。はじけるような最高の笑顔が、共有されている。
「モーニング娘。'14」の字幕が出た後、動画は静止画になり、記念写真のようなフレームに収まる。そして、舞台上が暗くなり、「時空を超え 宇宙を超え」のイントロが流れた。
この時、われわれを襲った感傷の理由は、たったいま観たメンバー紹介VTRによって、この楽しかった時間がやがてまもなく過去の思い出になってしまうのだという現実を突き付けられたからであろう。
舞台がふたたび明るくなると、そこには青い衣装に着替えたメンバーがいて、「時空を超え 宇宙を超え」がパフォーマンスされた。
「君はどんな顔で歌う 君はどんな声で笑う また次の世でも会えるかな 切ないよ」「愛しくて 愛しくて 尊さを感じてる 瞳を閉じて 君の事 感じる」といった歌詞が、ずっと聴いていたのとは違った意味を持って、心に響いてくる。この歌詞がいままさに、これからもうしばらくは会えなくなるであろう人に対する、われわれの思いととても深い場所でシンクロし、それが切なさを加速させていった。
道重さゆみらしい最高の卒業コンサートであった。不意のアクシデントやそれを救うドラマ、感動のスピーチ、そして、アンコールが終り、「本当に心からありがとうございました」と言って、道重さゆみはわれわれの目の前から姿を消した。
それでも、声をあげ続ければ、もう一度出てきてくれるのではないか。そのような思いもあったかもしれないのだが、やがてスクリーンにVTRが流れた。それは、あのメンバー紹介VTRの続きのようであった。
道重さゆみが手にしている本を見ながら一緒に笑っていたメンバーたちは、1人また1人と、その場を離れていった。音楽はピアノソロにアレンジされた「歩いてる」である。そして、1人だけになった道重さゆみは立ち上り、手にしていた本を閉じ、ソファーの上に置く。そしてゆっくりとカメラの方に向って歩いてくるが、やがてフレームアウトする。
大写しにされた本の表紙には、「4329 days」と書かれている。道重さゆみがモーニング娘。に在籍した日数である。音楽は「シャバダバ ドゥ~」にかわり、映画のエンドロールのようにメンバーの名前が下から上へと流れる。最後に道重さゆみが「ありがとう」というかたちに口を動かす映像が流れ、「fin」という文字が映った。この時点で、おそらくもう誰もがこの完璧なエンディングに納得していたであろう。
モーニング娘。はその後もメンバー編成を変え、進化と変化を繰り返しながら、活動を続けている。先日はアメリカのヒューストンでの公演を成功させたという。新しいメンバーとファンたちが、また新たな物語を紡いでいくのであろう。
フリッパーズ・ギターの「さようなら パステルズ・バッジ」という曲が好きだ。その中でも特に好きな部分の歌詞を日本語に訳すと、おおよそ次のようになる。
「はずせ、僕らのバッジをアノラックからはずせ。引き出しの中にしまっておこう。そして、僕らは誓う。あの気持ちをけして忘れないことを。だから、さようなら」
14章~The message~/モーニング娘。’14

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