見返り美人 | …

i am so disappointed.

朝早くに暗いうちから仕事を片付けていたのだが、その時にiPhoneで聴いていたプレイリストは今年のお気に入りを集めたものであった。

好きな曲を年別にプレイリスト化しているのだが、Apple Musicのサービスがはじまり、「ミュージック・マガジン」の購読を再開してから、確実に新しい音楽を聴く量が増えた。

音楽そのものを聴く総時間はおそらく変っていないと思うのだが、新作の割合が増えた。今年はまだ2ヶ月しか経っていないというのに、プレイリストにはデヴィッド・ボウイ、スウェード、METAFIVE、岡村靖幸、こぶしファクトリー、アニマル・コレクティヴ、The 1975などの新作が入っている。

まだたった9曲のプレイリストなので、仕事の途中で再生は終った。次に何を聴こうか考えたり選んだりしていると仕事が止ってしまうので、とりあえず昨年のお気に入り曲を集めたプレイリストを再生した。

大森靖子、アンジュルム、カントリー・ガールズ、モーニング娘。'15、西野カナ、ECD、コールドプレイ、スチャダラパーといったラインナップであり、特にモーニング娘。'15は3枚リリースされたシングルから計7曲が選ばれていた。

もっといろいろ聴いていたはずなのだが、このプレイリストにはこれだけしか入っていなかった。

そして、これも終ったので、次は一昨年のプレイリストを聴いた。モーニング娘。'14のトリプルA面シングル3曲からはじまり、道重さゆみの「今夜もうさちゃんピース」で知った大森靖子「絶対少女」から5曲、そして、なぜか急遽ブームが訪れて過去のアルバムすべてを集めた原田知世が4曲、そして春の訪れと共に渋谷系リバイバルが私の音楽生活に巻き起こったため、ピチカート・ファイヴとフリッパーズ・ギター、そして次がモーニング娘。'14の「時空を超え 宇宙を超え」である。

仕事の手が一瞬止まった。改めてこの曲は、ここ10年ぐらいの中で一番好きかもしれない。急にそう思っただけで、根拠はない。曲そのものの素晴らしさと同時に、この頃のいろいろな感情がフラッシュバックしてきたりもした。道重さゆみがモーニング娘。'14からの卒業を発表した頃である。

それから岡村靖幸やBase Ball Bear、麻丘めぐみ、金井夕子や、ふたたび大森靖子、佐野元春、山下達郎などが流れ、もちろんすべて大好きな曲なので、ノリノリで仕事を続けていた。そして、その次が「シャバダバ ドゥ~」である。モーニング娘。'14のシングル収録曲で、道重さゆみがソロで歌っている。道重さゆみはモーニング娘。を卒業するだけではなく、芸能活動もしばらく休業するという発表があり、突然知らされたその事実に、かなりの焦りを感じていた。

卒業公演となった11月26日の横浜アリーナのチケットを手に入れ、それからはその日を最高のコンディションで迎えることに最大のウェイトを置いて生活していた。毎日がカウントダウンであり、実際にその日が過ぎてしまった後、私は何を支えに生きていくのだろうかと、わりと真剣に心配していた。

この年のプレイリストにおいても、ここから先はモーニング娘。'14やその関連曲しか入っていない。「TIKI BUN」「わがまま 気のまま 愛のジョーク」「恋人には絶対に知られたくない真実」、この辺りはツアーセットリストをプレイリスト化して、予習の意味も込めて聴いていた頃の記憶が強い。「恋人には絶対に知られたくない真実」は横浜アリーナでのセットリストには入っていなかった。

「彼と一緒にお店がしたい!」は、あの当日の雰囲気が思い出される曲である。そして、「明日を作るのは君」「好きだな君は」「Be Alive」は、あの日の公演を頭の中で早回しで再生しながら聴いている状態であった。そして、「見返り美人」である。

道重さゆみが在籍していた最後のシングルに収録されていた曲で、後輩メンバーから道重さゆみに捧げる曲になっている。演歌界の大御所、弦哲也によって作曲されたこの曲は、「踊る演歌」をコンセプトにしているということである。石原信一による歌詞も、道重さゆみと後輩メンバーとの関係性をあらわした素晴らしいものになっている。

一度、NHKの音楽番組でもパフォーマンスされたが、後輩メンバーが歌い踊る中、着物姿の道重さゆみが堂々と歩き、表情をつくるというものであった。それはアイドルグループのパフォーマンスとしてはかなりユニークな映像であり、一歩間違えると何かのパロディーのように見えてしまいかねなかった。

横浜アリーナの公演では、アンコールの1曲目にこの曲が披露された。この時、道重さゆみはアクシデントにより、足を負傷していた。当日、客席にいた私はこの時点ではまだそれに気づいていなかったのだが、舞台裏やステージ上ではかなりのドラマが展開されていたようである。

「粋にさよなら 見返り美人 ああ ああ もったいないよ いい女」という歌詞が歌われ、着物姿の道重さゆみは、まさにこの歌詞にふさわしい堂々とした表情をうかべ、その印象を強く私たちに残した。

この場面は当日、横浜アリーナのスクリーンで、それから映像作品でも何度か観たが、その度に感動してしまう。

iPhoneのイヤフォンから流れる「見返り美人」を、2016年2月の朝に一人で聴いていたが、その時にもあの凛とした道重さゆみの姿がはっきりと浮かんできた。

そして、やはりあれは伝説だったのだ。伝説に立ち会うことができたのだ、と改めて思った。

「赤いフリージア」「歩いてる」「Happy大作戦」を聴きながら片付けをして、外に出るともうすっかり明るくなっていた。

あの日、ピンク色の光の一部になった人々は、いまそれぞれどこで何をしているのだろうか。

もうすぐ新しい季節がはじまるが、その直前で意図せずに「見返り美人」をふたたび聴いて、あの強度を思い出すことができたのはとてもよかった。



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