2015年に結成され、同年9月2日にはデビュー・シングル「ドスコイ!ケンキョにダイタン/ラーメン大好き小泉さんの唄/念には念(念入りVer)」をリリースすると、これがオリコン週間シングル・ランキング第3位を記録する。年末には第57回日本レコード大賞において、最優秀新人賞に輝いた。
「ドスコイ!ケンキョにダイタン」はアイドルポップスに相撲甚句のかけ声だが本物の力士はけして言わない「ドスコイ」を取り入れたユニークな作品であり、あの永六輔も「レコード大賞新人賞で若い女の子がドスコイドスコイって言ってた」と反応していたほどである。
それはそうとして、じつは私はこのこぶしファクトリーのパフォーマンスを生で観たことがあるのだが、それについて詳しくはここでは書かない。
とにかく、2月17日に発売された2枚目のシングルに収録されている「桜ナイトフィーバー」がとても気に入っているという話である。
この曲を書いたのは、KANである。そう、1992年のオリコン年間第3位、186万枚以上のCDシングルを売り上げた「愛は勝つ」のKANである。
湾岸戦争の真っ只中、日本で大ヒットしていたこの曲だが、調布パルコ店内に特設されたバレンタイン・コーナーのラジカセでもリピート再生されていて、平日の午後、大学生のアルバイトのような若い男の子がだるそうにブースの中で待機していた。
「愛は勝つ」のイメージがどうしても強いが、その前にはビリー・ジョエルなどの影響を受けた良質なポップス職人というような評価だったと思う。また、「愛は勝つ」が大ヒットした後には、「丸いお尻が許せない」といった、タイトルが想像させる通りの曲をリリースしたりもしている。
「愛は勝つ」はビリー・ジョエルの「アップタウン・ガール」に影響を受けているようなのだが、確かに言われてみればそんな気もする。
「桜ナイトフィーバー」は2015年にKANによってリリースされていて、今回、こぶしファクトリーがカバー・バージョンを発表したわけである。
この曲はとにかくノリノリで楽しく、春先のご陽気なグルーヴ感がよく表現されていると思うのだが、歌詞もなかなかおもしろい。
まず、この歌詞は桜の立場から書かれている。斬新である。そして、春が来れば「女子も男子も胸はしゃぎ」、夜はライトアップして「誰彼お酒飲んで騒ぐ」、おそらく花見の情景が描写されている。
最年長が16歳のこぶしファクトリーに「お酒飲んで騒ぐ」などと歌わせているのはどうなのだという話もあるのだが、そんな細かいことはどうでもいいじゃねえかこの野郎馬鹿野郎という気分にさせる程の素晴らしさに溢れている。
このように盛り上る感じにしておきながら、「これってどうなんでしょう?いかがなものでしょう?」と冷静に疑問を呈する。そして、「ぼくらだってイキモノなんだ 夜はねむりたい」とくる。確かにそうだろう。しかし、その発想はなかったのである。
そして、この文脈とは関係なしに、わりと特に春先はハイテンションにやっていたりすると、この「ぼくらだってイキモノなんだ 夜はねむりたい」の部分だけ切り取られてピックアップされて、妙に心に沁みてきたりもするのである。
そして、日本人の無節操なイベント好きを「一本調子のキッカケで 浪費と消費を行ったり来たり」と揶揄する。ハロウィン、クリスマス、お正月、節分、バレンタイン、ひなまつり、 そして、「ぼくら」こと桜の季節がやってくる。こう羅列してみると、確かにすさまじい。だが、この軽さがたまらなく好きだ。全部のっかっていきたい。だって、楽しそうだから。
また、別に乱れてなどいないのに咲き乱れていると言われ、風に吹かれ、気がつけば吹雪などと呼ばれている件についても言及されている。「精一杯に咲いているのに 理解者少ない」というくだりなど最高である。
また、春には桜をテーマにした曲がやたらと多いが、なぜか悲しい曲ばかりであるという問題提起がされ、「ステキな恋が始まるよな 出会いの歌聴きたい」と歌われる。
この曲そのものが世にはびこる「桜」ソングに対するアンチテーゼになっているのである。じつに深い。
そして、曲の後半においては「女子も男子も胸はだけ」「誰彼お酒飲んで触る」などと、わりとふしだらなことも歌い込まれて、ここぐらいは歌詞を変えているのではないかと思いきや、ちゃんとそのまま歌っている。攻めているな。
KANのオリジナルと変っている部分といえば、最後の方に「桜もこぶしも咲き誇れ!」というセリフが入っているところぐらいである。一瞬、演歌調になるところもおもしろい。
これをフレッシュなアイドルたちがノリノリで歌い踊っているというのが、またいいものである。
桜ナイトフィーバー/チョット愚直に! 猪突猛進/押忍! こぶし魂(トリプルA面シングル)(通常盤A)/こぶしファクトリー

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