KINGSIZE | …

i am so disappointed.

Apple Musicがサービスを開始した時、いまは持っていないが聴きたい曲をいろいろ探した。思っていたよりもかなりたくさんあって、大いに興奮した。しばらくは聴くものに不足はなさそうであったが、いまもその状態は続いている。

しかし、やはり無くて残念に思ったものもあった。たとえば1990年に活動していたクリエイション・レコーズのバンド、ブー・ラドリーズのカタログからは大ヒットした「ウェイク・アップ!」のアルバムだけしかなかった。

ところが数日前に再び検索してみたところ、すべての作品が見つかったので、大喜びでマイミュージックに追加した。

これらのアルバムのすべてを私は一時期所有していたのだが、5年前に引っ越しをした時に、売却してしまっていたのであった。iTunesに残っていたのは2枚目のアルバムである「ジャイアント・ステップス」と、他のアルバムからのシングル曲だけであった。

外付けHDDを購入する以前、ノートパソコンのハードディスクだけに音楽ファイルを保存していたのだが、容量がだんだん足りなくなり、よく聴くものだけを残していった時に削除してしまったのだと思う。外付けHDDを買ってから今後も聴くようなものはかなり取り込んだつもりだったのだが、ブー・ラドリーズのアルバムについては、そうしていなかったようである。

これは不覚であった。なぜならブー・ラドリーズのアルバムはどれも傑作であり、おそらく今後も聴き続けるだろうからである。

NMEのアルバム・レヴューにおいては、2枚目の「ジャイアント・ステップス」から最後のアルバムとなった「キングサイズ」まで、4作連続で10点満点中9点の高評価を得ていた。このようなバンドはなかなか珍しい。

1992年の春先にとある理由からNMEの購読をはじめたのだが、そのごく初期に記事を読んで買った何枚かのレコードのうちの1枚が、ブー・ラドリーズのデビュー・アルバム「エヴリシングズ・オールライト・フォーエヴァー」であった。買ったのは確か新宿か渋谷のシスコだったと思うのだが、はっきりとは覚えていない。

当時のクリエイション・レコーズは絶好調であり、たとえば前年のNME年間ベスト・アルバムにおいては、第2位にティーンエイジ・ファンクラブ「バンドワゴネスク」、第3位にプライマル・スクリーム「スクリーマデリカ」、第10位にマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン「愛なき世界」と、トップ10内に3枚のアルバムがランクインするほどであった。この年の第1位はニルヴァーナ「ネヴァーマインド」であった。

いわゆるノイジーな中にもメロディアスなインディー・ギター・バンドという感じで、わりと気に入っていた。その年の終り近くにシングル「ラザラス」がリリースされるのだが、これが実にユニークな作品であった。ダブを思わせるベース・ラインに1970年代のラジオでかかっていたようなポップなメロディーという新機軸で、次のアルバムへの期待を大きくさせてくれた。

2枚目のアルバム「ジャイアント・ステップス」は1993年夏の終りにリリースされるのだが、これが大傑作であった。数々の音楽的な実験とたまらなく美しいメロディーとが同居した素晴らしいアルバムで、この作品はこの年の暮れ、当時の英国インディー・シーンの話題を独占していたスウェードのデビュー・アルバムを抑えて、NMEの年間ベスト・アルバム第2位、セレクト誌においては第1位に選ばれていた。なお、この年のNMEの年間第1位はビョークの「デビュー」である。

翌年、1994年に絶好調のクリエイション・レコーズからオアシスがデビューすると、ブラー、スウェード、パルプ、エラスティカ、スーパーグラスといった英国産のギター・バンドによるムーヴメント、つまりブリットポップが大人気となる。

この勢いにのってブー・ラドリーズが1995年春にリリースしたシングルが「ウェイク・アップ・ブー!」であり、これはこのバンドのポップな魅力を最大化したようなキャッチーな作品であった。全英シングル・チャートでトップ10入りを果たし、この曲が収録されたアルバム「ウェイク・アップ!」は第1位に輝いた。ブー・ラドリーズはついに批評家やインディー音楽ファンからの評価だけではなく、商業的な成功をも手に入れたのである。

「ウェイク・アップ!」はキャッチーなインディー・ギター音楽集としてひじょうに優れた作品であったが、前作に見られた実験性は後退したような印象であった。それが好セールスにつながったとも言えるだろう。

この頃、クリエイション・レコーズはオアシスの成功もあり、音楽雑誌などにかなりの量の広告を掲載していた。中にはあまり成功しないバンドや作品などもあったのだが、とにかくたくさん広告が打たれていたという印象がある。

続く4枚目のアルバム「カモン・キッズ」は1996年にリリースされ、やはり高評価を得るのだが、セールスは前作を大きく下回り、シングルは第18位、アルバムは第20位が最高位であった。

そもそもポップなメロディーを特徴とはしているが、音楽的にはわりとマニアックなことをやっていて、そもそもそんなに売れるようなバンドではないのだ。どちらかというとカルト的な人気を得るようなタイプなのではないかという気がする。しかし、「ウェイク・アップ・ブー!」の大ヒットの印象があったため、どうしても失速感は否めなかった。

やがてブリットポップの狂騒もすっかり終息し、よりシリアスな音楽が評価されるようなムードになった。1997年のNME年間ベスト・アルバムの上位3作品、スピリチュアライズド「宇宙遊泳」、レディオヘッド「OKコンピューター」、ザ・ヴァーヴ「アーバン・ヒムス」がそれを象徴しているようである。

1998年春、ブリットポップを代表するバンドの1つであったパルプが「ディス・イズ・ハードコア」をリリースするが、それはじつにダウナーな作品であった。わずか3年前に「コモン・ピープル」「ディスコ2000」といったブリットポップ・アンセムを高らかに歌い上げたのと同じバンドとは思えないほど陰鬱なムードの作品であった。

ブー・ラドリーズの最後のアルバム「キングサイズ」はその年の秋にリリースされた。私はこのアルバムのCDを、センター街に移転したばかりのHMV渋谷店で買ったと思う。同時期にリリースされた、スピリチュアライズドのライヴ盤やアフガン・ウィッグスの新作と一緒に買ったような気がする。

質の高い作品だとは思ったのだが、あまり繰り返しては聴かなかった。その頃、仕事がものすごく忙しくなっていたこともあったが、以前ほどあまり熱心に新しい音楽を聴かなくなりつつもあった。

セールスはシングル最高54位、アルバム最高62位と、さらに大きく前作を下回っていた。翌年、ブー・ラドリーズは解散し、クリエイション・レコーズも経営破綻により倒産した。

Apple Musicで、この「キングサイズ」を久しぶりに聴いた。おそらくリリースされた頃以来だろう。ということは、もう17年ぶりぐらいになるわけである。

こんなに素晴らしいアルバムだったのかと驚いた。ビーチ・ボーイズやビートルズなどに影響を受けたようなポップなメロディーとハーモニー、インディー・ギター音楽を基本としながらも、ダンス音楽などからも影響されたエクレクティックな音楽性、これがブー・ラドリーズの魅力なのだが、それが最後のアルバムにおいても集大成的に高い質を保ったままなのであった。

他のアルバムも含め、これからまた時々、聴いてみようと思う。



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