(八ヶ岳南麓「藤乃家」天丼(税込1210円))
東京に戻るこの日、八ヶ岳南麓では数少ない丼モノセットを出す蕎麦屋「まつ浅」の「半カツ丼セット」が無性に食いたくなった。
ホンの1年前には「カツ丼との決別」なんていう殊勝な決意をしていたのだから、月日が経つのは早いものだ(よくいうよ)。
愛車フォレスターを駆って遠路はるばる店にたどり着くと、定休日でもないのにクルマが1台もいない。なんと「臨時休業」である(泣)。
さあどうするか。
これからあちこち彷徨うのもメンドウなので、まつ浅から長坂ICに向かう途中にある蕎麦屋「藤乃家」に行くことに。同店を訪れるのはかれこれ10年ぶりだろうか。
(創業1987年 大泉では「あめみや」(創業1972年)に次ぐ老舗)
「藤乃家」は地元の皆さんに人気のある蕎麦屋で、この日も13時をだいぶ過ぎていたのに5組待ち。
ところがおばさんに「一人ですけど」と告げると、「こっちへこうし」と座敷のテーブル席に通された。相席というわけでもなくなんとも不可思議である。
なんだかさ、ボクがさ、東京のハイカラな人に見えちゃったみたいなわけよ。
ここには天丼セットがあったような、と古い記憶をたどったのだがどうやらそれは誤りで、天丼単品と天もりはあるがセットはない。
う~む。
蕎麦なんぞという高いだけで取柄のない食い物だけというのは言語同断だし、天丼単品ならひまわり市場の天丼弁当で十分。ここは「セルフ天丼セット」しかあるまい。
ちなみに藤乃家には「ヒレカツ定食」、「ヒレカツ単品」があるもののカツ丼、カツ丼セットはない。八ヶ岳南麓では(というか山梨県全般に)カツ丼はいまひとつ人口に膾炙していないのである。
「すみません、天丼ともりそばだと量多いですか」
「多いさよ~」
「両方頼む人はいないですか」
「ときど~きいるけどね。ときどき。まあお客さんは若いし、体格もアレだからね」
野辺山のドライブイン系大盛りレストラン「最高地点」で蕎麦とカツカレーを食った私がいまさら何をためらう必要があるだろう。
うちてし止まん、いざとなればご飯は半分ほど残せばよろしい。
待つこと10分、天丼ともりそばがやって来た。
(天丼は海老2尾 芋天やらカボチャ天やらの猥雑物がない点は好感が持てる)
旨い。
天丼で口の中があぶらっぽくなったところで、もりそばをたぐる。
「蕎麦のモンダミン効果」と呼ばれる現象でお口さわやかに。私が蕎麦を欲するのはまさにこの一点。天丼の旨さがまた映える。
世の中に
蕎麦よりめでたきものはなし
最初つるつる
後はかめかめ
無心に食っているうちに、ふと魔が差したように値段が気になった。
メニューをよく見ると、「上天もり(海老2尾のみ)」は1342円とある。
(野菜天が海老天になると253円アップ)
一方私の注文はもりそば(726円)+天丼(1210円)の1936円。両者の差分であるご飯、お新香、みそ汁が594円相当というのはちょっと高いのではないだろうか。
(しかもこのご飯泥棒のせいで米粒一粒たりとも残さず食っちゃったし)
腹が膨れて苦しい。
またしても「ちいちいフグの立ち泳ぎ」状態で、はたして東京まで無事たどり着けるのだろうか。
薄れゆく意識の中で、はて今日は何のハレの日だったっけ、とボンヤリ考えた。
店を後にして外に出ると、そこには短かった秋との別れを惜しむかのような秋晴れの風景が広がっていた。
そうか。
今日はハレの日じゃなくて、晴れの日だったんだ。







