(豊洲市場直送 北海道産バフンウニ)
この日犬トモのAさんご夫妻と向かったのは、今や八ヶ岳南麓和食シーンのリーダーとなった感のあるレストラン「岳」である。
Aさんご夫妻はお二人とも2月生まれなので「誕生祝い」と銘打って「岳」に行こう、と決めたのが1月のこと。2月の11日か12日で、と大将にお願いしていたのだがあいにく13日まで東京にいて店が開けられないとのことだった。
2月の土日はそこしか八ヶ岳南麓にはいないので今回はあきらめます、と返事をしたのだが折り返し大将から、
「14日でよければ店を開けます」と、LINEが来た。
Aさんご夫妻に伝えたところ、OKとのこと。「岳に行けるなら」ということでAさんは有給休暇をとることにしたというから、食い意地の張り方は私といい勝負である。
(岳からは「シャイニング」のようなただならぬオーラが放たれていた)
一行を出迎えてくれた「岳」の大将は傍目にも気合い十分。
「今日はちょっと趣向を変えてみました。そんなわけで今夜のテーマは・・・」
「・・・(ごくり)」
「ずばり『食べ尽くし』です」
「おお!」
料理のセンスに比べてネーミングのセンスはパッとしない感がなくもないが、天は二物を与えず、ということだろうか。
最初の一品が登場したとたん店内はどよめき、やがて厳かな静寂が訪れた。
「クエ(九絵)」のお造り、ウニ箱ごと、青森産生ホタテ、厚岸産生タコ
大将のボルテージがここまで上がったのにはいくつかの理由がある。
ひとつはこの日の朝豊洲で旬の魚を仕入れて来たばかりであること。新鮮な食材で腕をふるうのは料理人冥利につきるのだろう。
それから大将のお母様とAさんの奥様が友人であることもあるだろう。
「ケンちゃん(←適当)、Aさんたちの誕生日なんだから最高のもん出しなさいよ!」位お母様から言われていても不思議はない。しかもそのダンナがわざわざ年休まで取ったと聞かされては大将としても気合いも入るというものだ。
そしてもうひとつは私が予約していた1月の食事が大将の事情でキャンセルになったこと。大将はこのことをものすごく気に病んでいたのである。
「食べ尽くし」の第ニ弾は、「毛ガニの甲羅焼き」。
カニの中でも毛ガニは王様級の旨さだが、身を取り出すのがメンド臭い。それを大将があらかじめ身をほぐしてくれているというありがたさ。
(なんだか絵ヅラはパッとしないが)
(甲羅にたっぷり詰まった身の旨いことといったら)
イロものに「冬子しいたけ出汁焼き」(これも旨いが絵ヅラが地味なので割愛)が出たあと登場したのが「金目鯛と生タコのしゃぶしゃぶ」である。
(つけ合わせはソバの芽)
「こんなに食べれるかなあ」などと心配したのもどこへやら、金目鯛とタコは各人の胃袋にあっさりと吸い込まれていった。
続いて登場したのは「クエと新タラの芽のフリット」。さっぱり系統が続いた後だけに実に旨い。
(ドライ椎茸と青山椒塩で)
「ジビエ、お好きでしたよね。富士見町産のいいのが入ったんで」と大将が出してくれたのは「食べ尽くし」のフィナーレを飾る「雌鹿内ももの低温ロースト」である。
(つけ合わせはマイタケのシャンピニオン 赤ワインをグラスでもらった)
旨い。
魚も旨いけど、私にとってジビエ、特に鹿肉は最高の食い物だ。
大将がわざわざこれを用意してくれたのは1月の件の埋め合わせのつもりなのだろう。そんなこと気にしてくれなくていいのにと思いつつ、心づくしを堪能した。
最後のしめはクエ、毛ガニ、金目鯛で出汁をとった雑炊。
もう食えない、といいながらこれも見事に4人の胃袋へと消えていった。
大将にお礼を言い、Aさんの奥様の運転で家路についた。
道々話した全員の感想は期せずして、
「今夜の食事がこれまでの人生で一番の食事だった」というもの。
今回の食事は大将の気合い三重奏がなせるもので、半ば以上は商売を離れたものだったといってよい。
「岳」の食事は5000円コースで十分楽しめる内容だが、通常ここまでのものは出ないことにはご留意ください。