(これがこの世の見納めかも、と必死で撮影)
県立中央病院に着くとただちに集中治療室(ICU)に運び込まれた。
横たわる私を上から10人ほどの若い医師(インターンだろうか)が覗き込んで、口々に質問を浴びせてきた。その様は豊洲のセリで品定めする仲買人のようで、私はなんだか大間のマグロになったような気がした。
やがて仲買人連中をかきわけるようにリーダー格と思わしき若い女医さんが現れ、心電図をとる傍らで心臓エコー検査を始めた。
病院は亡母の見舞いで3年前に足を運んで以来だが、看護師さんには思いのほか男性が多く、逆に医師には女性が多くなっている印象だ。
もっとも東京と山梨では男女比にも有意差があるのかもしれない。医師を目指す女性は東京でなく地元で働くことを選ぶ、とか。
そのころにはほぼ「狭心症」で間違いなさそうだ、という心証があったのだろう、ニトログリセリン錠を飲ませてもらうとあ~ら不思議、胸の苦しさはウソのように減っていった。
「狭心症で間違いないと思います」
「センセイ、死の危険もあるのでしょうか」
「それは「心臓カテーテル検査」をしてみないとなんともいえません」
狭心症は心筋梗塞とならぶ「虚血性心疾患」の代表選手で、心臓の筋肉に新鮮な酸素や栄養を届ける「冠動脈」(血管径は4~8mm)が動脈硬化を起こし血流が悪くなることで生じる。
完全に詰まっていない状態が狭心症、完全に詰まって心筋に壊死が出ると心筋梗塞だと思えばよろしい。
(アテロームは別名プラーク 要するにカスのこと 済生会横浜市南部病院HPより)
心臓カテーテル検査というのは右手首とか太ももから極細のカテーテルを冠動脈まで通し(こわっ)、血管狭窄の場所や規模を詳細に調べる技術である。
しかもこの検査、場所が特定できるとすぐに「ステント」という金属製のパイプというかネットというかを送り込むことができて、狭窄血管の補強までできてしまうという優れものだ。
(網状になったものがステント 直径2~4mm、長さは10~50mmが標準らしい)
(冠動脈ステントの場合剛性が高いのでいったんバルーンで血管を膨らませてからステントを装着(というか置き去りに)する)
ステント療法はかつてはステント部分に再狭窄が発生することが多かったのだが、その後「薬剤溶解ステント」というのが開発されて再狭窄リスクは激減した(当該部分に血栓ができるリスクは残っている)。
さらに最近ではいずれ血管と一体化してしまって再狭窄も血栓もできにくいという「生物由来素材ステント」も誕生したが我が国では残念ながら未認可らしい。
内視鏡、カテーテル分野は世界医療市場において我が国がいまだに優位を保っている数少ない領域である。
せっかく国内には適当なモルモ、いや被治験者がどっさりいるのだから国際競争力維持強化のためにバンバン認可してもらいたいものだ。
「ただ問題があって・・・」
「・・・(ごくり)」
「今日は当院では対応できないんです。すぐ近くの甲府共立病院でやってもらえるよう手配しましたので、これからすぐそっちに行ってください」
たらい回し、そんな言葉がふと浮かんだが、やはり一刻を争うのだろう。
救急車で行ったのか病院のクルマで行ったのか今となっては思い出せないが、2時間ほどで中央病院を退院することになってしまった(この項続く)。
ゆるふわが センセイと呼ぶ女医がいる
山梨県立中央病院