(梅雨入りのこの日八ヶ岳南麓は霧に覆われた)
関東甲信越地方の梅雨入りが発表されたこの日は、我が家にとっては八ヶ岳南麓から東京に戻る日であり、さらに私自身は「バスガス爆発の日」というなんだか三隣亡のような日となった。
「バスガス爆発の日」というと何やら物騒な響きだが、なんのことはない、飲み過ぎなんかで疲れてくると妙にギトギトした中華料理が食いたくなるという「酔っ払いあるある」の日を指す。
(2022年最初の「バスガス爆発」の日は3月だった)
向かったのは中村農場近くの上海料理「安晏(あんあん)」である。
八ヶ岳南麓で「バスガス爆発」になると多くの場合「照るぼうず」に行くのだが、この日は無性に「安晏」に惹かれた。それもそのはず、かれこれ1年程足を運んだいなかった。
11時30分、開店と同時に一番乗り。
「あら、お久しぶり」と迎えてくれたマダムもシェフも、そして店構えも以前と少しも変わっていない。
(もちろん看板も)
他にお客さんもいないのでランチメニューをじっくりと検分する。
今日のチョイスは「にんにくの芽と豚肉炒め」、それから「麻婆豆腐(ピリ辛を激辛に昇格)」。
(小皿、ご飯(お代わり自由)、スープ、点心がついてこの値段は決して高くない)
待つこと3分、まずは小皿がやってきた。
左:中国麩ときくらげ、筍の煮たの
右:淡竹(ハチク)の煮たの この二つでメシ二杯は食えそう
やがて「にんにくの芽と豚肉炒め」がやってきた。
(こいつがまたご飯泥棒ときてる)
これでもか、とばかりの泥棒攻撃をご飯をひと粒ずつ味わうようにして防御した。そうしないと今日のメインディッシュに不具合が生じてしまう。
待つことしばし、マダムの「熱いからどいて」の口上とともに「麻婆豆腐(激辛)」がやってきた。
表面に浮いた油がブツブツと煮えたぎっている様は、別府の坊主地獄かはたまた石川五右衛門釜茹での刑か、なんだか酸鼻な光景である。
(ブツブツと煮えたぎっている)
(天下の大泥棒石川五右衛門は文禄3年(1594年)に捕らえられ幼い息子とともに「釜茹での刑」に処された(「釜茹で」というが実際には油で唐揚げにされた) 最初のうち五右衛門は我が子を必死に持ち上げていたがおのれの断末魔が近づくと息子を油の中に放り込んで一気に絶命させたという)
五右衛門親子は哀れだが、こっちのご飯泥棒の旨いこと。
ご飯にかけて麻婆丼、あっという間に二杯をペロリだ。
(見よこの圧倒的なフォルム 麻辣が浮いている)
(豆腐の中華スープ 痺れた舌を癒してくれる頼もしいヤツ)
腹も苦しくなったところに点心登場。本日は定番の「イカ団子」と「胡麻団子」である。
普段ならイカ団子の方がよいのだが、紅蓮地獄と化した口には胡麻団子(中はアンコ)の甘さがなんとも心地よい。
(イカ団子は甘くないからデザートというよりアミューズみたいなものだ)
厨房の中からシェフのくしゃみが何度も聞こえてきた。
「ふふふ。麻婆豆腐に麻辣を効かせすぎて変なとこに入ったみたい」
なんともお気の毒だが、おかげさまで今年二度目の「バスガス爆発の日」を無事乗り越えることができたのであった。
(安晏の庭も霧の中)