5年ほど使った羽根布団を買い替えることにした。
愛犬そらは羽根布団が心地よいらしくここ数年私のふとんの上で寝るようになった。
当初は気兼ねしいしい「ちょっと隅っこを拝借します」という感じだったのだが、高齢化とともに横着になってきて最近はわがもの顔でふとんの中央部を占拠するていたらく。
母屋を取られた飼い主は哀れにも寝返りもうてない姿勢で毎晩固まっているわけだが、睡眠中にうっかり足が当たろうものならそらは恐ろしい剣幕で吠え、あまつさえ時にはふとん越しに悪霊退散!とばかりに私の足をガブリと噛む始末である(←シェパードの血が入っているせいか噛まれるととても痛い)。
そんなわけで「お互いの幸福のためには主従別ふとんがいいだろう」と衆議一決、大枚2万いくらをはたいてAmazonにハンガリー製羽毛の高級羽根布団を注文したのがお彼岸前のこと。
ところが指定した配達日時になってもブツが届かない。
配達状況をチェックすると最寄りの配送業者まではとっくの遠に届いていて、「遅延によりウンダラ・・」と訳の分からない理由が記載されていた。
まあ年度末の慌ただしい時期だから、と鷹揚に構えていたものの2日経ち、3日経っても梨のつぶてである。配達状況欄も3日前の「遅延により・・・」以降更新されていない。
主従は憤激した。
主の方は怒りに任せて「返品」のリクエストをしたのだが、Amazonは「商品が届かない」という事態はそもそも想定していないらしく、「商品の返送を確認した後で返金します」のメッセージである。
「返送したくても商品が手元にないので無理」、とコメントを残したが、これもまたその後梨のつぶてとなってしまった。
そうこうするうちに所轄の高井戸警察署から通知が来た。
「段ボール(アマゾン)が拾得物として届いているので受け取りに来い」というのである。
(4月12日までに取りにいかないと処分しちゃうって)
う~む。
はたして私は正当な所有者としてこの段ボールを受け取る権利を有しているのだろうか。
商品の引き渡しが行われていない以上、所有権は依然Amazon側にある、と解するのが妥当だろう。
とはいえ警察がAmazonにわざわざ照会するなどありえないから、ここは一番「事情を知る者」という立場で貰い下げに行った。
高井戸署の担当の方によると、ブツは杉並区某町の路上に放置されていたのを近くにお住まいの方が届けてくれたとのこと。
「いちおうアレですか、事故と事件の両面から捜査されるのでしょうか」
「いや~、落とし物ですから(今野敏の小説じゃないっての)」
拾得者は住所氏名非開示、お礼も不要ということなので詳細は分からないが、おそらく他の商品を配達する際に荷台からちょっと降ろしたのをうっかりそのまま放置してしまったのだろう。
かくして羽根布団は極めてイレギュラーな形で買主のもとにやってきたのである。
(路上に放置されていたにもかかわらず中身は大丈夫)
イレギュラーとはいえ、商品は買主に届いたわけだからAmazonは返金に応じる必要はないはず(もちろん商品を失くした配送業者の責任は問われるべきだ)。
ややこしいのはAmazonが配送業者に商品の所在を質し、ブツが行方不明であることを確認して返金に応じた場合である。
この場合私とAmazonの売買契約は名実ともに解消されているわけだから、私が羽根布団をガメているのは刑法第254条「占有離脱物横領罪」(1年以下の懲役または10万円以下の罰金)に問われる立派な犯罪である。
類似のケースとして商品をガメたうえで「届いてないよ、どうすんだ」とゴネて返金させた場合は典型的な「取り込み詐欺」、こちらは10年以下の懲役(罰金刑はない)となって罪が格段に重くなる。人を騙す行為は計画性もあってそれ自体がとても悪質である、という建てつけである。
ヒト様のものをガメた場合の罰
(単にガメる→盗む→騙してガメる 次第に罪は重くなる いずれのケースでも「自分のものにしちゃお」
という意思(「不法領得の意思」)がない場合(ちょっと借りただけ、とか)は罪とならない)
幸い私の場合は商品の配達記録がないわけだから、おシラスでも取り込み詐欺を企図したわけではないとみなされるはず。
ただし安心はできない。
詐欺罪の成立には「欺罔行為(人を騙す行為)」の存在が不可欠だが、拾得物という形で商品が結果的に手に入ったにもかかわらずその事実を頬かむりして返金だけ享受すると、「不作為の欺罔行為」が認定される可能性がないとはいえない。パチンコ台が故障して玉が出っ放しになったのをこれ幸いと換金したケースなどが不作為詐欺の典型である。
はたしてAmazonは返金してくるのか。
配送業者は置き忘れた商品についてどう思っているのか。
しばらくは事態の成り行きを静観してみよう。
(のびのびと寝れるようになってよかったね)