住み慣れたかつての我が家を買主に引き渡し、カネを受け取ってから10日あまり。
終の棲家の売主にして、かつての我が家の売買仲介業者でもあるお銚子丸氏から電話がかかってきた。だいたいこの手の電話の用件はロクなことではない。
「現場の解体工事が始まったんですが、地中から出てきました」
「小判とか・・・」
「いえ、古タイヤだの、一斗缶だのといった廃棄物です」
「ほほう(それがどうした)」
「売買契約書に明記してありますが、地中から廃棄物等が出てきた場合、撤去費用は売主の負担となります」
「ギョギョ」
「一度ご自分の目でご覧になりますか」
「なります!」
というわけで、おっとり刀で懐かしの元我が家へ向かった。
わずか10日ばかりだというのに、家はもちろんのこと庭石も植栽もきれいに片づけられて土地はほぼ更地になっていて、この地で暮らした40年の面影などもはやどこにもない。
(右端に掘り出された古タイヤが置いてある 結構デカいサイズ)
土地の隅っこから出てきたという廃棄物は古タイヤ、一斗缶、瓦礫、ビニール製のゴザなど多岐にわたっている。亡父がこの土地を手に入れたのが今から45年ほど前だから、それ以前に埋められていたのだろう。それにしてもゴザなんぞは40年以上土中にあったとは思えないほどしっかりしている。
「ビニール製のものって腐らないんですね~」
「ほんとに。プラ製品は地球に優しくないのがよくわかりますね」
一同思わずシミジミしてしまったが、そんなことより一体いくらかかるのだろう。
お銚子丸氏にこっそり聞いてみると、
「これだけ出てくると、土地全部を鋤いてみる必要がありそうですね~、あはは(←人の気も知らないで明るい)。もうちょっと広い土地で鋤いた時はたしか50万円くらいでしたね」
(私が建てた家の方は基礎がしっかりしているうえに8mほどのコンクリート杭が8本打ってあるのだが
これは売買契約時にその存在を開示してあるので追加負担は生じない)
う~む。これは解体業者のオヤジとニギるしかあるまい。なんせ状況が状況だから合い見積もりを、というわけにはいかないのである。
「社長、いくらくらいかかりそうですか」
「う~ん」
「20万円でやって。もしそんなにかからなかったら、ポケットに入れちゃっていいからさ」
「う~ん、う~ん」
社長は(←ホントは社長じゃないけど社長ということにした)中々色よい返事をしない。買主の不動産会社の社員が見ているから、手を抜いて安く済ませるようなことは中々確約できないのだろう。
まあダメ元だが念には念を、だ。私はお銚子丸を土地の隅っこに連れて行った。
「カネはお宅から請求が来るんだよね」
「そうです」
「サヤ取ったっていいからさ、20万で収めてよ」
「う~ん、う~ん、あはは」
なんとも煮え切らない。
「ところでさ、これが古タイヤじゃなくて小判が出てきたとしたら、それは売主のものになるわけ」
「いや~これまで経験がないので分からないですね~。あはは」
この食えない連中とやりとりするのもこれが最後かと思うとなんだかさみしい気もする。
20万円で収まったとしてもバカにならない金額だが、今は亡き我が家への供養だと思うことにした。
(ウォーキング中に見かけた大邸宅の解体工事 作り付けの大きな書棚にはどんな本が並んでいた
のだろう)