(未知の犬の匂いがするのだろうか)
新居での生活で最も不安だったのが「愛犬そらが新しい環境になじめるのか」、という点であった。
犬にとっては生活環境が変わることは人間とは比較にならない大きなストレスになるという。彼らは引っ越しという事実にも自身にいったい何が起きているのかさっぱり分からないわけだからそれも当然だ。
新居に来たそらは、最初の半日ほど家のあちこちをウロウロ、クンクンしたが、やがていつものソファと私のふとんにどっかりと寝そべってくつろぎ始めた。慣れたふとんの肌ざわり、自分と飼い主の匂いがそらの精神状態を安定させたことは間違いないだろう。
(バルコニーの日向ぼっこも新たなお気に入り)
散歩に出かけると、いつもより勢いがよい。
未知の匂いとの遭遇がそらを興奮させるようだ。
(チェックに余念がない)
引っ越しから二日ほどすると家の場所も頭に入ったらしく、そらは散歩に飽きるとさっさと家に向かうようになった。
犬の視力は人間以下だから、わずかに残る自分や飼い主の匂いを道標にして帰るあたりはさすがにオオカミの子孫だけのことはある。
犬の中でも柴、シェパード、チャウチャウの三種が最もオオカミの遺伝子を色濃く残しているそうだから、柴とシェパードの血が入ったそらはその辺は強いのだろう。
新居に来てからのそらの行動で唯一変わったのは家の中でおしっこをしなくなったこと。
子犬の頃からの習慣で、そらは杉並の家では月に一度か二度ほど室内のトイレシートでおしっこををしていたが、大人になってから暮らすようになった八ヶ岳南麓の家では一切室内ではおしっこをしない。
どうやらそらにとっては新居は八ヶ岳南麓の家と同じ扱いになったらしい。あ~よかった。
そらにとってもここは終の棲家である。
お迎えの来るその日まで、元気で過ごしてほしいものだ。