定年カウントダウン② 船出は近い まずは生活のダウンサイジング | 八ヶ岳ゆるふわ日記

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八ヶ岳南麓大泉と東京を行ったり来たりの毎日。日々のよしなしごとを綴ります。

 

 定年退職までに残された時間はあと6か月である。

 至急新たな船出の準備をしなくてはならない。これから先の航海は、海図もない、羅針盤もない、よく考えてみれば目的地もない、という吉幾三のような旅なのだから、せめて難破の危険だけは避けたい。

 

(オラこんな村いやだ~と謡いつつ いざ大海へ! )

 
 現下における私の唯一最大の課題は「生活のダウンサイジング」である。
 
 「終わった人」を選んだ以上当然だが、満63歳で厚生年金をもらうようになるまでの25か月間の航海がいかにもつらそうだ(関連記事→ 定年カウントダウン①「終わった人」を選ぶワケ)。 
 
 そうは言いつつもモノは考えよう、
「生活レベルを落とさないですむように一生懸命働く」=再雇用モデルというのは間断なくストレスが
かかるが、

「カネの範囲まで生活レベルを落とす」=終わった人モデルにすれば、ガツガツ働かなくても済む。それに25か月でいったん生活レベルが落ちてしまえば、年金が入りだしたらウハウハではないか。

 

 「いや~、クチで言うのは簡単だけどさ、生活レベルは落とせないよ」という意見をよく聞く。確かにそれも事実かもしれないが、カネがなければ見栄の張りようもない。

 浪費癖のある私は貯金しろと言われても難しいが、借金する度胸もないので器のサイズまで必ず生活レベルが落ちるのである。 ありていに言えば、「落とす」のでなく、「落ちる」のだ。

 

 器についてちょっと触れると、私の器は退職金代わりのささやかな企業年金と、「お宝保険」の年金である(配当金と優待は、もう無視!)。

 

 今から30年以上前のこと、20代後半で結婚した私に、どこで嗅ぎつけたか生命保険のおばちゃんたちが入れ替わり立ち替わりまとわりつくようになった。

 

 「セキュリティ」なんて言葉すらない時代である。おばちゃんたちは休み時間だろうが就業時間だろうがお構いなし、黄色い声をあげて獲物にまとわりつく。

 辟易もし、また結婚した以上は、という意識もあったので「戦争未亡人で女手ひとつで子供を育て上げた」というひときわ哀れなおばちゃんの勧めるままに、私は毎月3万いくら、60歳満期の貯蓄型生命保険に加入したのである。

 

 やがて契約書にハンコを押すと、おばちゃんの表情は一変、「灰皿貸してよ」と煙草を吸いながら、

「あたしね、野方にアパート2棟持ってんのよ~。ゆるふわさん阿佐ヶ谷だね?今度高円寺に店出すから

飲みにおいで」とヌカすではないか。おそるべし、「哀れな老婆」は営業上の演技だったのだ。

 

 怒りに燃えた私は即刻契約解除しようと決意したのだが、そこは骨の髄まで怠け者、いつか、いつかと思っているうちにゆるふわ青年も30代となり、40代となったらすぐ50代になってしまった。

 

 そうこうするうちに、週刊ポストかなんかで「お宝保険を守れ」みたいな特集記事があった。いわく、

バブル崩壊前に契約した貯蓄型保険はすこぶる利率がよい「お宝保険」である。敵もしつこく下取り+新規契約を勧めてくるが、絶対に口車に乗ってはいけない、というのだ。

 

 20年ほど前には下取り新規をさかんに勧めてきた強欲ババアも死んだかリタイアしたのだろう、その後は梨のつぶて、そして昨年ついに「満期のご案内」というのが保険会社から届いた。曰く、

満期返戻金をやるから、どれかを選べ、、さあ運命の分かれ道(古いな)

・ 一時金コース(掛金総額よりそこそこ多い)

・ 15年分割支払いコース(合計は一時金よりそこそこ多い)

・ 終身年金コース(80位まで生きると一番多い)

くわしくは担当が行くからよく聞け、というのだ。

 

 私は担当だという、ゆりやんレトリバー風の女性から説明を受け、終身年金コースを選んだ。

 手続きも終わってゆりやんに、この保険は「お宝」だったのだろうか、と尋ねると、

「す~ごいお宝ですッ。私たちの世代から見るとヨダレがでますッ。いい保険に入られて、長~く加入されて、ホントによかったですね~」と言うではないか。ああ、オレの可愛い「お宝」。

 

 そんな瞬間、私はあのおばちゃんのシワシワの顔と最後のセリフを思い出した。

 

 アパート2棟、あれは事実だったのだろうか。事実だとしたら、カネには困ってない人が何をあくせく契約取りに奔走する必要があるのか。

 ことによると、契約を決めた私の態度に哀れみや蔑みのようなものを感じとったのかもしれない。

 それが悔しくて、情けなくて、若造相手に精いっぱいの見栄を張ったのかもしれない・・・。

 

 「おばちゃん・・・」

 ため息まじりの私のつぶやきは、次のアポ確認に余念がないゆりやんの耳には届かない。

 

 西の空が茜色に染まっている。

 私は空を見上げて大きく息を吸った。そして、西方に向かってそっと黙礼した。

 タソガレた私を包み込むように、黄昏はどこまでもやさしい。

 

 (長くなったので続く)

 

(おばちゃん、ありがとう~)