時計を見ると、40 分経過していた。
「10分だけ」という面会時間はとっくに過ぎている。
夫を外に待たせていた事も思い出し、慌てて病棟を出た。
帰る時には、
「たあくん、お利口にしていてね。また来るからね」と
言えるまでになっていた。
早速、外で待っていた夫に報告した。
「どうだった?」
「マシュマロみたいだった」
「よかったな」
「手は、見慣れたらどうってことないよ。最初見る人は
びっくりするかもしれんけど。でも、可愛かったよ。
あの子だったら大丈夫かもしれんよ」
「そうか」
夫は、とても嬉しそうだった。
家に帰ると小児科の本を取り出して、乳児の発達段階
の所に目を通した。成長が、月齢よりも少し早かったよう
に感じたからだ。
正常な発達段階ならば知的障害はないかもしれないし、
意思の疎通ができれば、自立への可能性が広がるかも
しれない。どんな事でもいいから手がかりが掴みたかった。
5月15日 生後59日目 成長記録より
病院にTEL。婦長さんより
「看護師が傍に行くと“痛いことをしないでくれ”というよう
な目付きで見るんですよ。傍にいくだけで泣いたり気配を
感じてキョロキョロするので、非常に勘のいい子じゃない
かと私はみてるんですよ」とおっしゃった。
「目は見えてるんですね?」と聞くと
「見えてると思います。
「耳は聴こえるんですね?」
「聴こえています」
電話を切った後で嬉しくて泣いてしまった。
慰めかもしれない。明日になればまた、違うかも
しれない。けれど、不安がるのはもう止めよう。
5月15日 生後63日目
親指がなくてどれくらい不自由なのか、ガムテープを
貼って試してみたが、1時間としていられない。
こんなに不自由だったなんて・・・・
だが、待てよ!私は、指が5本あるから不自由
だと思うのだ。
最初からなかったとしたら、差ほど不自由さは感じない
のかもしれない。残った機能を工夫して使えばできない
ことはない。角度を変えればお箸も握れないことはない。
スプーンなら楽に食べられる。絶望するのは止めよう。
6月7日 生後83日目
お父さんと一緒に6回目の面会。
おでこと両腕にあせもができてかゆそうにしていた。
でも、身体の機能が正常に働いているという証拠
だからね。たあくんはお母さんがわかるのかな?
安心して握手をしたまま眠ってしまった。
妹達に手紙を書いた。
「これから貴大がお世話をかけるかもしれないけど、
とても頑張ってるから助けてあげてね」と。
手紙には、
「迷惑だなんて思っていないから。いつだって兄弟助け
合って来たんだから。我々はいつだって、
ベストファミリーさ」と書いてあった。嬉しかった。
6月13日 生後88日目
TEL
体重、3411g、身長53㎝、やったあ、やっと、やっと
3Kgになった。
電話に出た看護師さんに何度もお礼を言った。
3ヵ月たってやっと、出生時の体重だけど、よく頑張ったね。
もうすぐだよ、3回目の手術をしたらミルクが飲めるからね。
6月18日 生後93日目
TELあり
明日、3回目の手術決定。明日で最後の手術が終わる。
そしたら保育器の中から出られるよ。お家にも帰れる。
どんなことがあっても親子3人で暮らそうね。
傍にいて一日中、貴大の顔を見ていたい。
可愛くて可愛くて、もうどこにも手放せないと思ってる。



