……その当時は「タオ」が幼かったこともあり、「まだ」直接交流があった。
何より別居直後だったということもあるけれども、私は「モト」のその一言で「モト」が言って来たその背景を一瞬で理解した。
つまり、彼の『在庫』としてあった「アイロンが掛かったシャツ」を全て使い果たしてしまったのだ。
だからしぶしぶ自分で掛けようとした、そこで……
『アイロン』が無い!
…という事に気が付いたのだ、という事を。
元々
「家が『壁紙化』している」
…というか、使う・使わないに限らず
自分の家にあるモノ
=そこにあるのがアタリマエ
…という人だったので余程個人的と判るモノ以外は
「全て自分のモノ!」
…としか考えられなかった人だ。
別居(=私が家を出る)の話が具体的になった段階でも
「キミはこれが必要なんじゃないか?」
…どころか
「これは自分は使わないから持って行って」
…なんて言葉は一切出なかった人間だ。
当然、いきなり
『ボクの』アイロンが無い!
…と、なったのだろう。
そうであっても「アイロンくらい」サッサと買えば良いだけじゃないの~?
…と『普通の人』は考えるだろうが、元々金銭感覚がズレていて
自分の趣味への£10はハシタ金、
ヒトに与えた£10はとてつもない大金!
…という意識(無意識)で生きている人間である上に
自分の興味が無い事には
『必要なモノであっても』
自分のオカネは使いたくない
…のが『基本姿勢』の人間だ。
例え自分が滅多に使わなかったモノだとしても、イザ使おうとしたら無い?
『ボクの』アイロンがない!
➡ リオが持って行ったんだ!
➡ 『ボクの』アイロンを取り戻そう!
…となったワケだ。
…もちろん、当時は既に私だって「モト」のそういう態度に対して彼が期待するような「素直」さは持ち合わせていなかった。
「アナタは使っていなかったでしょ?」
…動じない顔でそう答えたけれども、何と言っても相手は
自分個人の利益の為だったら
どんな矛盾も正当化するのがアタリマエ
…の環境で育った人間だ。
「『今』はボクだって必要なんだ、
アレはボクのモノだ!」
…と迫って来た。
それまでだったらそこで大喧嘩というか、とにかく
「家事」なんていう下らないこと
…の為に『自分のオカネ』を使うのが勿体ない「モト」に無理矢理でも奪い取られていたかもしれない(そこら辺の呆れる話はまたいつか)。
しかし、その時の幸いと言えたのが前の住人(=ママ友の娘)が残して行ったモノが色々あって、その中にアイロンもあった事だった。
(「もう使わないから勝手に処分して」と言われていた)
最初私がそれを見た時にはサッサと処分してしまおうか……と考えたのだけれども、まあ急ぎもしないし他にやる事は一杯あるし……という事でそのまま残っていた品だった。
「コレなら持って行っていいわよ」
…それは(私から見れば)明らかに安物の、当然コードレスでも無い品だったのだけれども、幸い使用年数も頻度も少なかったからか『殆ど新品』の様相だった。
その場にある、
一番イイものは自分のモノ
…がアタリマエの「モト」である。
まして、
「これで『無駄金』を使わないで済んだ!
なんて『倹約家』なボクちゃん!」
…という心も満足したんだろう、新たな『ボクのアイロン』と共にニコヤカに帰って行った……。