◆函館市K小学校
平成二十三年三月十一日に起きた東北地方太平洋沖
地震は、東日本大震災を引き起こし、函館にも甚大
な被害をもたらした。
洋一が校長として勤務するK小学校でも、この地震
をまともに受け、直ちに避難した。
洋一「すぐに非常ベルを鳴らしてください。」
教頭「わかりました。」
洋一「避難場所は、児童玄関横の校庭です。」
教頭「はい。」
教頭が、緊急の校内放送をかける。
教頭「地震です。地震です。教室にいる人は机の下に身
を隠してください。廊下やトイレにいる人は、壁
際に寄って頭を手で覆いしゃがんでください。繰
り返します。地震です。地震です。・・・・。」
洋一「ずいぶんと長い地震ですね。」
教頭「はい、かなり大きな地震です。」
やがて、地震がおさまる。
洋一「教頭先生、次の放送をお願いします。私は、校内
を見回ってきます。」
教頭「地震がおさまりました。校内にいる皆さんは、急
いで児童玄関横の校庭に避難してください。繰り
返します。・・・・・」
◆
児童が避難している。
直ちに、児童数を数え全員の無事を確認。
その後、先生方と協議をし、集団で下校することを
決定。
先生方を前に校長である洋一が指示を出す。
洋一「これから直ちに、集団下校をしますが、先生方は
自宅に保護者のいない場合は、確認がとれるまで
子供を家に返さないでください。保護者不在の場
合、子供をまた学校まで連れて来てください。子
供の安全を第一に考えます。保護者がいない家に
子供を絶対に返してはいけません。先生方、よろ
しくお願いします。」
洋一からの指示を受け、教職員全員で集団下校に取
り掛かる。
洋一は、学校に残る。
その時、携帯電話に聖子から連絡が入る。
洋一「もしもし」
聖子「地震、すごかったわね。学校は大丈夫なの?あな
たは?」
洋一「子供たちは、今、先生方にお願いして集団で下校
している。俺は大丈夫だけれど、そっちの方が、
危険なんじゃないか?」
聖子「今のところ、海の様子は変わってないけれど・・
・・。」
洋一「かなり大きな地震だったから、津波には、気を付
けた方がいいぞ。とにかく正確な情報をもとに、
素早く行動することが一番、大切だからな。」
聖子「わかったわ。」
洋一「また後で、こっちから連絡する。」
聖子「とにかく、気を付けてね。」
洋一「ああ」
間もなく、先生方が集団下校から帰ってくる。
各学級担任に聴き、子供たち全員が帰宅したことを
確認する。
テレビのニュースでは、尋常ではない震災後の様子
が映し出されている。
特に、津波の被害が甚大である。
教頭「校長先生のご自宅は、海のすぐ近くでしたよね。
大丈夫なんですか。」
洋一「大丈夫だとは思うが・・・。」
教頭「子供たちも全員帰宅しましたし、もう五時も過ぎ
ています。どうぞ、お帰りください。後は、私が
やります。」
その時、携帯電話に聖子から連絡が入る。
聖子「海の様子がおかしいの。あなた、すぐに帰ってこ
れる?」
洋一「海の様子がおかしいって、どんなふうにだ?」
聖子「水が、引いてる。見たこともないくらい沖まで・
・・・。」
洋一「わかった、すぐに帰る!」
教頭に事情を説明し、洋一は急いで帰宅する。
洋一の脳裏に、チリ沖地震の時の母の言葉が甦る。
「見たこともないくらい沖まで、水が引いた。」
館岡家の自宅と海の間には、遮るものは何もない。
館岡家は、正に海に直面している。
(「函館ワンニャン物語 ⑮」へ続く・・・)