函館ワンニャン物語 ⑮ | 南北海道動物愛護ネットワーク みらい

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主に函館市近郊で、捨てられた犬や猫の保護、里親探しを目的に活動している動物保護団体です。
毎週日曜日、美原のパチンコ富士3階にて譲渡会を開催しております、譲渡は、もちろん見学もどうぞ。

函館ワンニャン物語 ⑮ ~東日本大震災 2~


館岡家自宅(湯浜町)

  
急いで帰宅した洋一は、二階に行く。
  
二階では、茫然と海を見ている聖子が
いる。

洋一「何やってるんだ。すぐに避難するぞ!」

子「できない・・・・。」

洋一「できないって、何言ってんだ!」

子「できない、犬と猫を置いていけない・
・・・。」

洋一「置いていけないって言っても、犬5頭、
猫四十三
   匹、どうやって連れて行くんだ。
そんなの無理
   だ。」

子「だから、行けない。避難できない。」

洋一「避難できないって、津波に飲み込まれ
たらあっと
   いう間に終わりだぞ!」

子「私は、残る。ここに、この家に。」

洋一「お前、何言ってんだ!死ぬぞ。死んで
しまうぞ。

子「でも、私残る。」

  聖
子は、黙って海を見ている。
  その聖子の目を見て、洋一は聖子と初
めて出会った
  日のことを思い出す。


函館市民会館噴水前(回想)

  
昭和四十九年八月十四日、洋一と聖子が初めて出会
  った日。
  友達のことで相
談したいということで、前日に聖子
  か
ら洋一に電話をかける。
  そして、次の
日の午後三時に市民会館噴水前で会う
  
約束をする。
  
その日、噴水の前に洋一が行くと、黄色いワンピー
  スを着た女の人が近づい
て来る。

子「館岡洋一さんですね。」

洋一「はい、そうですが」

  
黄色いワンピースが眩しい。
  洋一は、
その時の聖子の姿を今でもはっきりと覚え
  ている。

子「昨日、電話をかけた者です。友人の白田さんのこ
   とで、相談があります。」

洋一「白田さんて、うちの高校(函館中部高等学校)の
   後輩の城田さんのこと?」

子「そうです。」

洋一「それで、どんな相談?」

  
これが、洋一と聖子の初めての出会いである。
  洋一が十八歳、聖子が十七歳
の夏である。
  この日から三十七年間、洋一と聖子は一緒にいる。
  洋一は、聖子の性格をいやというほど知っている。
  
こうと決めたら、絶対に引かない性格であるという
  ことを。


館岡家自宅二階

  
洋一は、覚悟を決めた。

洋一「わかった。残ろう。犬と猫といっしょに、ここ
   に。」

子「・・・・。」

洋一「そうと決まれば、まず猫小屋の猫をここに運ばな
   くちゃ。二階の方が、少しでも
助かる可能性があ
   る。聖子は、一階の猫を
頼む。」

子「わかったわ、ありがとう。」

  
洋一は、猫小屋の猫十八匹を連れてくる。
  続いて、犬5頭。二階は犬と猫で
あふれている。
  
洋一と聖子は、5頭の犬を見る。
  ラブ、
クロ、ポン吉、ジョイ、タロ吉。
  
続いて、猫に視線をやる。
  
交通事故から復活したポン太がいる。
  
日吉が丘で保護したダニー、ミッシェル、キミー、
  プリン、ラン、マーちゃ
んがいる。
  旭岡で保護したナナがいる。
  
保健所から引き取ったタマ、シン、夢、シロ、
  マミー、ネネ、ココ、ララ、モコがいる。
  アニマルレスキューから預かっているチビ、ゴハン
  マロン、リボン、小太郎、小次郎、ルナ、鉄がいる
  そして、我が家で昔から飼っている豆、銀、プー、
  金太、くり坊がいる。
  新入りの猫たちの顔も・・・・。
  
飼っている全部の犬と猫を二階に上げ終わり、洋一
  は黙って海を見る。

洋一「犬と猫の命は平等だけど、その一生は出会った人
   間で決まるって誰かが言ってい
た。聖子と出会っ
   た犬と猫は、幸せだよな。俺もだけど・・・。」

  
海の水が、はるか沖まで引いている。
  
外からは、緊急車両による避難勧告が聞こえてい
  る。


自らの財産と労力と時間を費やし、保健所で殺処分寸前
の犬、猫を助ける活動を続ける、館岡家族。

人情味あふれる優しき町「函館」、その片隅で動物にも
献身的に愛を注ぐ家族がいた。

その家族が、東日本大震災の日に選んだ道とは。

人間のエゴに、動物愛護の精神から、自らの行動で立ち
向かう家族の姿を通して、あなたに問いかける。


          終わり


最後まで読んで下さった皆さま、どうもありがとうございました!
いかがでしたでしょうか?
いつも躊躇なく動物たちを保護しているこのメンバーご夫妻に、こんな葛藤や覚悟があったとは。
私もこのシナリオを読むまでよく分かっていませんでした。
動物を飼うことはもちろん、保護するということも、その命を預かるということ。
中途半端な心構えではしてはいけないのだと実感しました。
また、最近は日本中で自然災害が多発していますので、もしもの時のことを家族で考えておくことも重要ですね。
お話は「みらい」発足の一年ほど前で終わっています。
まだまだ色々なドラマがあるそうなので、またいつの日かご紹介できればと思っております。