◆野犬抑留所(譲渡会)
館岡家族は、日吉が丘で保護した5匹の子猫を譲渡
会に連れてきていた。
目も開かないうちから、3時間おきにミルクを与え
育てた子猫である。
優しい人にもらわれ、幸せになってほしい、それば
かりを願う家族である。
アニマルレスキューの代表は、長年の夢が叶い、生
き生きと活動している。
代表「先生、本当にありがとうございました。ようやく
私の夢が叶いました。」
洋一「よかったですね。来てくださる方々も、予想以上
に多く、びっくりしています。」
代表「一人でも多くの人に来ていただき、ここの様子を
知ってもらえれば、それだけでも意味があります
本当に良かったです。」
洋一「今日は、この間、日吉が丘で保護した子猫5匹を
連れてきました。今がかわいらしさの絶頂期、代
表さんも見てください。」
代表は、ゲージの中にいる5匹の猫を覗き込み、満
面の笑顔で話し出す。
代表「まあ、本当、とてもかわいいですね。これならき
っと、すぐにでも貰い手がつきますよ。」
洋一「でも複雑な気持ちなんです。今、我が家には三十
八匹の猫がいます。経済的にも苦しいので、出来
れば貰われて欲しいとは思っているんですが・・
・。」
代表「情が移ったってことでしょう。」
洋一「そうなんです。目も開かないこの仔たちをミルク
でここまで育て、今ではもうすっかり情が移って
しまいました。できれば、あげたくはないんです
が、そうもいきません。きっといい人に巡り合う
と信じています。きっと幸せになると信じていま
す。」
代表「そう、そう、がんばりましょう。」
洋一「そうですね。」
すぐそばで、聖子と二女の咲が5匹の子猫の世話を
している。咲は子猫たちに名前を付け、見に来てい
る人たちに説明している。
咲「このちょっと大きめの子猫が、ダニーです。5匹の
中で一番のいたずらっこです。次にこれがプリン、
とてもおとなしい性格です。この小さいのがキミー
まだまだ甘えん坊さんです。そしてこの仔が、ミッ
シェル、こう見えてもかなりのきかん坊なんですよ
最後にこの仔がステフ、落ち着いた性格で、しっか
りものです。」
子猫のたちの名付けの親であり、家族の誰よりも一
生懸命子猫たちの面倒を見た咲は、洋一と聖子以上
に、子猫たちの行く末が心配であった。やがて、キ
ミ―とステフが貰われていった。
◆自家用車内(譲渡会からの帰宅途中)
洋一が運転をしている。
助手席に聖子が坐り、後部座席に咲がいる。
三匹の子猫を膝に抱き、咲は泣いている。
聖子「大丈夫よ。優しそうな人たちだったでしょう。き
っと大切にしてくれるって。」
咲は黙って泣いている。
洋一「今度会いに行こう。住所も聞いているし、昭和町
だったらおばあちゃんの家の近くだし、いつでも
会いに行けるって!」
咲は泣きながら話し始める。
咲「変な飼い方してたら、許さない。絶対に取り返して
くるから・・・」
洋一「そんなこと、当たり前だ。なあ、聖子、そうだろ
う。」
聖子「そうよ。その時はあなた以上に、パパとママが許
さないから、安心しなさい。」
一週間後、家族で貰われて行った家を訪問し、キ
ミ―とステフが元気なことを確認する。咲も何と
か安心する。
◆館岡家宅(玄関)
洋一が、ラブとクロの散歩をする準備をする。
二頭の犬は、待ちきれないという様子で、しっぽを
ぶんぶん振っている。
洋一「ラブ、クロ、おいで」
待ってましたとばかり、二頭の犬が駆け出す。
二頭の首輪にリードを付け、出かけようとした時、
洋一は幻を見る。
洋一「ムック・・・」
三本足で、必死に散歩に付いて行こうとするムック
の姿を見る。
しばし立ち竦み、やがて我に帰る。
小雨降る大森浜を、二頭の犬を連れ散歩する洋一。
涙が頬を伝う。
ムックが逝ってからは、洋一は「函館の雨はリラ色」
を口ずさむことはなかった。
(「函館ワンニャン物語 ⑪」へ続く・・・)